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『Risk Manager』2018年4月号掲載コラム

リスクマネジメントは、制約条件つき最適化

 リスクとは、何か事象が発生する前に、その事象発生の確率と事象発生に伴うコストを見積もったものです。人や組織の活動には、必ず複数のリスクが付いてまわります。それらを認識し、見積もって、活動全体から得られる利益を最大にする活動がリスクマネジメントです。
 個人商店程度の組織であれば、しゃちほこばってリスクマネジメントと言葉にすることも少なく、優れた経営者であれば、それは自然に頭の中で処理されていることでしょう。
 しかし、中小とも呼ばれるスケールになると、意識してリスクマネジメントを手法に従って行った方が利があります。経営者が頭の中で整理していても、書き出してみると、思わぬリスクに気がつくこともあります。あるいは組織の経営層や実働部隊でも、自分たちの活動の目的が何であり、それにはどんなリスクが伴うか、考え直す絶好の機会となりましょう。
 しかし、単純に数式を解くがごとく進められないから厄介なものです。自社製品に不具合が見つかったとき、不良率、リコールのコスト、評判の失墜などを試算するのは自然の対応でしょう。しかし、数字ベースで判断して、リコールをかけない方が、(利益)-(損失)の計算が上回るからと、自社の不良品を社会に放置したままにするのは社会倫理に反します。このような行為は内部告発の対象になり、大きな社会制裁を受けることになりやすいのです。
 世の中にコンプライアンスという言葉があります。もともとは「法令遵守」、英語でも Regulatory Compliance を意味していました。しかし世の中の複雑化、さらに法律さえ守れば、社会にとって損失を生み出すような活動を是認するような考えを持つ人の出現により、もっと大きな範囲、「法令を遵守するのはもちろんのこと、社会倫理も守ること」を意味するようになって来ました。英語でも Social Compliance と呼ばれます。
 リスクマネジメントは、だから利益最大化だけではなく、このコンプライアンスを維持しながら、という制約条件が付きます。
 こう書くと、社会文系的管理手法のようにも思えますが、製造理系でもこの手法を適用できます。製品にはフォールト・ツリー・アナリシスというもっと数学的手法もありますが、基本的な考え方は同じです。
 文系、理系どちらの場合も、難しいのは事象発生の確率を見積もることです。これが不正確であれば、見当違いの活動に精を出していたら、想定外の事象に出くわしてあたふたすることになります。
 「想定外」という言葉は、言い訳に使うのではなく、それを考えられなかった自分への戒めと考えましょう。そして「想定外」がないよう、専門分野だけではなく、大きく目を開いて常に世の中を観察することです。
【飯野謙次】


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