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『Risk Manager』2018年6月号掲載コラム

リスクマネジメントにも創造性が必要なわけ

 リスクマネジメントにとって創造性とは何でしょう。それはリスク解析を行うときに、どのようなリスクがあるかを考えることです。未だ発現していない、あんなことやこんなことにあれこれ思いを巡らせ、その発生確率と、損害の大きさを見積もらなければなりません。「想定外でした」などと言い訳していたのでは、リスクマネジメントをする者として失格です。
 カナダのトロント大学経営学部Martin Prosperity Instituteが2015年7月に発表した世界創造性ランキングでは、1位オーストラリア、2位アメリカ、3位ニュージーランド、4位カナダと続き、日本は24位。アジアの中では9位シンガポール、21位香港に次いで3位です。
 創造性は弱くても、GDP がアメリカ、中国に次いで世界3位なのだからいいじゃないかとのんびり構えていてはいけません。GDPは、その生産に拘わる人が多ければ上位に入るのは当然で、豊かさの尺度としては人口で割り算をしなければ正しい比較になりません。計算の仕方にもよりますが、GDP1位のアメリカは10位前後、中国は100位辺りまで落ち、日本は20位前後です。

CIA発表の2015年 GDP per Capita と
Martin Prosperity Inst. 発表の Global Creativity Index 2015 の相関


 この国民一人当たりのGDP と創造性をグラフに描いてみると、特異点とも言える産油国は除外して、強い相関があることがわかります。創造性が高いとされるシンガポールは、豊かさも一桁にランク入りしているのです。
 私たち日本は今のところ、いい位置につけていますが、インターネット技術により、世界の均質化が起こっており、アメリカ、フィンランド、シンガポールの創造性教育がどんどん他の国にも吸収されています。一方でお行儀のよい教育に熱心な日本は、このままでは上に向かうどころか、下からの競争者に追い越されてしまうでしょう。
 現代の教育は、産業革命以降、大量生産用の組織人養成を目的に確立されました。こつこつとルールを覚え、課題にルールを適用して画一的な答えを導き出す。科学技術は、しかし、そのような人が不要となるほどに発達しています。
 創造性を身につけるには、どうすればいいのでしょうか。私の創造設計講義では、課題としてのレポートに、手描きのスケッチを添えてもらいます。自分たちが新たに考え出した装置を線画で表現する練習です。
 人に何かを伝える目的で絵を描くことは幼少のとき以来、ついぞしたことがない人ばかりです。そして最終課題は、世の中が必要としている今までにない機能を発掘し、それに対する答えを創造することです。教えられた通りに作業を続けるのではなく、自分で考えることが要求されます。
 私たちの活動には、もちろん日々、同じ作業を変わることなく繰り返すことが大切なこともたくさんあります。しかし、そればかりでは前に進めないのです。人々の気づかないニーズを見極め、新しい機能を生み出すのも創造性なら、私たちの活動にどのような落とし穴が待っているのか考え、気づくのも創造性です。
【飯野謙次】


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