『Risk Manager』2018年7月号掲載コラム
リスクマネジメントと精神論
精神論と聞くと、何を思い浮かべるでしょう。私は子供のときに見た「巨人の星」を思い出します。今では伴宙太などの登場人物がオイオイ泣くシーンが面白おかしく扱われていますが、当事は子供ながらに真剣に、登場人物の心境になりきって、ウルウルしたものでした。
この時に感じたのは、冷静に計算して作戦を巡らせていると、しっぺ返しを食らってやられてしまう。根性を絞り出す者が格好良く最後には勝つということです。
しかし、野球に限らずスポーツと言えば、例えば、打者の打率は過去のデータから凡退せずに、ヒットを打つ確かさを数字にしたものです。考えてみれば、打率5割を超える打者はなく、打席に立っても凡退しないのが確実に3回に1回あれば、強打者です。それでも私たちは、ひいきのバッターが打席に立てば、ヒットやホームランを期待するものです。
一方、洋モノテレビシリーズでは、「宇宙大作戦」、今の「スター・トレック」が好きでした。特に、感情を持たない冷徹なスポックがお気に入りで、輪ゴムで耳の先を尖らせたり、親指以外の指を2本ずつ合わせてVの字を作るバルカン式挨拶をしたりと、友達に自慢をしたものでした。人間愛、生物愛、仲間愛がテーマのことが多かったように思います。また、意外な機転を利かせて窮地を脱することはあっても、根性を発揮して不利な状況をひっくり返すようなストーリー展開は記憶にありません。
欧米人に比べると、日本人は概して「根性」が好きなようです。もちろんいい加減な気持ちで事を進めてもうまくいきませんし、後からの修正が返って増えてしまいます。そうならないように努力することが、根性なのでしょうか。「精神一到何事不成」、「石の上にも三年」など、精神論、辛抱を礼賛する言葉もありますが、根性さえ出せば何とか成ると考えるのは間違いです。元来大陸中国からの伝承なので、アジア人の気質なのかも知れません。
リスクマネジメントには、根性を計算に入れる余地はありません。過去のデータと、今後起こりえることを冷静に分析し、それこそ、ベストを尽くして、起こりうる事象の確率と、それが起こったときの損害額を見積もるのです。まるで、宇宙大作戦のスポックのようです。ただし、テレビシーンの中で、数字を何桁もずらずらと並べるのは意味がありません。しかし、最初の数字が出てくる桁がどこなのかは非常に重要です。
たまに確率論で数字を丹念に計算することに意味がないという人もいますが、意味はちゃんとあります。小さな確率と見積もったことが起こってしまうことももちろんあります。
打席に立ったバッターがホームランを打つ確率が数%でもホームランが出ることはあるのです。そのときに、根性を出したからとは考えずに、確率論で冷静に考えられる人こそリスクマネージャーに向いていると言えるでしょう。
【飯野謙次】