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二酸化炭素消火設備による死亡事故への雑感

特定非営利活動法人 失敗学会
大阪分科会 三田 薫

 4月15日(木)17時頃、東京都新宿区下落合のマンション地下駐車場にて、二酸化炭素消火設備の誤作動により4人の作業員の方が亡くなり、さらに意識不明の重体で病院に収容された方もおられます。助かったのは自力で避難した一人のみで、本当に痛ましい事故が発生してしました。
 筆者は、元消防官であり予防関係業務に長く従事した者として、皆様にこの事故の概要についてお知らせしなければと取り急ぎ書き記しました。なお、筆者が入手した情報は皆様とまったく同じ状況であり、今後違った情報が出てくる場合もありその点はご了解下さい。

 まず、亡くなった方々は、男性44歳(会社役員)、男性59歳、男性58歳、男性27歳。重体の方は男性28歳です。この方々の作業は、地下駐車場の石膏ボードの張り替えが本来の仕事であったとあります。また、作業者の年齢から判断すると全員が当該作業の素人ではないことがほぼ分かります。

 さて駐車場には、自分で駐車位置まで走る自走式と事故が起こったパズル式といわれる機械が車の駐車位置まで運搬する形式の大きく分けて二種類が存します。 消防法令では、どのような規模の駐車場に消火設備が必要かといえば、消防法施行令第13条に記載のとおり、地階・2階以上では、200m2以上、1階では500m2以上、機械装置式では10台以上の駐車場には消火設備が義務設置となります。
 次に、どのような消火設備を設置しなければならないかというと、水噴霧消火設備、泡消火設備、不活性ガス消火設備、ハロゲン化物消火設備、粉末消火設備の5種類が決められています。
 なお、不活性ガス消火設備には、二酸化炭素、窒素ガス、窒素とアルゴンの割合が5:5の混合ガス、さらに窒素とアルゴンと二酸化炭素の割合が52:40:8の混合ガスが決められています。 消火設備の警戒区域に分けると、全域放出方式と局所放出方式があります。今回は、この全域放出方式で事故が発生しました。
 また、開放式の駐車場(二面以上の壁がなく外気の流通が容易)や屋外では移動式といわれるホースリール式もあります。今回の駐車場では、このことから駐車場の面積は200m2以上又は10台以上の収容能力があったことが分かります。次に5種類の消防設備の選択です。設計者と施主はコストと安全性、さらに消防設備設置に関しての必要面積(ボンベ庫の面積等)を考慮します。

 地階になぜ二酸化炭素消火設備と思われますが、今回の駐車場では、本来人の進入がないところであり、このような設計になったのでしょう。安全性を考慮し、泡消火設備の選択はなかったのでしょうか?これは、泡消火設備を設置するなら水槽、消火ポンプ、配管、電源(特定用途が1,000m2以上なら非常用発電機が要、この場合完全な共同住宅用途と思われるから非常電源受電設備でOK)、これらのコストを考えた結果、二酸化炭素消火設備を選択したと思われます。では、他の不活性ガスの選択肢はなかったのでしょうか。
 まず、二酸化炭素以外の不活性ガス消火設備では、酸素濃度を人間の生存限界まで低下することなく消火可能となっており安全性が高く都合の良いガスです。
 しかし、ハロゲン化物消火設備(ハロンガス)はオゾン層破壊の重大なる原因物質として使用が極めて限られており(クリティカル・ユース)代替の利かない航空機や二酸化炭素の冷却作用を嫌う国宝や重要文化財などの保管庫等の用途に限られています。
 さらに、昭和の末期から平成の時代に開発された、窒素ガス消火設備やその他の混合ガスは、審査のコストと時間の関係から使用しなかったと考えられます。このマンションは建設されてから17年程度経過しているとあり、以下の理由から十分考えられます。
 2001年(平成13)に消防法令が改正され、不活性ガス消火設備が新たに規定されました。それ以前は、他の四つの四種類の消火設備と二酸化炭素消火設備の5種類と規定されており、あくまでその他のガスの消火設備は、消防法の特例でこれら不活性ガス消火設備の設置が許されていました。

 筆者は、平成13年以前に大規模な発電機室での代替ガスの使用に際し、前段消防法令の特例扱いで、個別審査(評価委員会)が国の外殻団体で開催され、その評価委員会に出席したことがあります。大変なコストと時間がかかり、当時は、大規模なビル等に限られていました。たぶん、このマンションでは、その適用を避けるため、一般的な二酸化炭素消火設備を導入したのでしょう。なぜ、泡消火設備を使わなかったのか?前段にも記載しましたが、コストとポンプや水槽などの必要面積からだと思われます。

 次に二酸化炭素消火設備の安全性につて、自動起動方式と人の操作盤による起動方式と大きく分けて二つの方法があります。この切り替えは、必ず操作盤内の鍵が必要であり、その操作はできなかったはずです。また、今回は操作盤を触っていなかったということであり、自動起動方式のままであったろうと思われます。それがなぜ起動したのか、以下のように推察しました。

 二酸化炭素消火設備消火設備の自動起動には、自動火災報知設備の感知器のうち基本的に熱感知器と煙感知器のアンド回路となっています。これは、両方が作動したときに消火設備が起動します。起動したならば20秒以上の遅延装置が働きます。その間、「ガスを放出します、直ちに避難してください。(繰り返す)」とバッテリ容量の許す限り放送します。大きな対象物ですと遅延時間を25秒や30秒に設定します。消防設備業者と消防機関で調整します。本来、この時間内に作業者は避難できたはずです。
 しかし、今回の駐車場平面図は不明ですが、進入口(通常の入口)は、小さく容易に出入りできる構造となっていなかったと思われます。また、地階でありながら、容易に進入(退避)できる階段等も無かったと思われます。人の出入りの無い機械室の扱いであり、地階でありながら建築基準法の特例があったのでしょう。
 また、一度起動するとメインの操作盤でしか途中停止することはできません。操作盤は駐車場入口に見受けられました。アンド回路が作動、その信号がソレノイド(電磁弁)に伝えられ小さい起動ボンベ(2〜5kg程度?)の封板が破られ、その圧力で二酸化炭素のメインボンベの封板が連続して破られ全量が区域内に放出される仕組みです。

 感知器の構造ですが、熱感知器はスポット型ではバイメタル方式や空気の膨張を利用したものが一般的です。この空気の膨張を利用したもので、空気管を張り巡らせた分布型というタイプもあります。煙感知器は、煙が一定の濃度のなると感知器の中での光線が煙粒子で乱されると発報する仕組みです。なぜ、両タイプの感知器が発報したのか大いに疑問点となるところです。
 ネットのニュースでは、ボードの張り替え作業で邪魔になった二酸化炭素消火設備の噴射口(など)を一部取り外していたという情報もあります。もし、感知器に何らかの操作をした場合には発報することも考えられます。 ここからは筆者の想定ですが、ボードの張り替え作業中に熱感知器等に触れ自動火災報知機が作動、もちろんベルが鳴動し作業員は大いに慌てたと思います。この後、さらに何らかの操作、例えばベルの鳴動停止等の操作を行ったと考えられます。アンド回路が作動した原因は分かりませんが、消防設備に関する無理解が事故の要因のひとつであります。

 消防庁(総務省の外局)では、昨年12月22日に発生した名古屋市内での同様な事故を受け消防機関宛並びに業界団体宛に、令和2年12月23日付消防庁予防課長通知「二酸化炭素消火設備の放出事故の発生について」の喚起文を発出しています。
 この中でも、駐車場のメンテナンスには、消防設備士の立ち合いを求めており、今般は適切になされていませんでした。
 また、現在の二酸化炭素消火設備には、点検用に逃がし配管を必ず設置しています。これは点検時(今回の作業を含む)には、逃がし配管を利用し、万が一にもガスが放出されたときに屋外にガスを放出する配管です。この逃がし配管の附置が求められてすでに30年以上経過しています。
 すなわち、今回のボードの張り替え作業の前に、逃がし配管を操作しておれば、たとえガスが噴出したとしても区域内に放出されなく事故は起こりませんでした。
 ただし、全国的に見て、逃がし配管への改造については、古い二酸化炭素消火設備においては、100%改修しているか否かは、やや疑問が残るところです。当然のことながら駐車場権限者のメンテの契約先の消防設備業者の技術力の差があるでしょう。
 また、消防設備の工事・整備は消防設備士の独占業務であり、工事には甲種消防設備士が行わなければなりません。また、消防設備の整備には甲種又は乙種消防設備士が携わるようになっています。マンション側にも建物管理者として、今回のボードの張り替え工事に際し消防設備等のメンテ業者への連絡が必要であったでしょう。
 事故は、起こるべく起こったと思います。1:29:300のハインリッヒの法則にもありますように、この工事業者も過去に同様な工事を幾度となく施行しており、今回の事故に繋がったと考えられます。
 なお、筆者は消防職を退職しすでに8年が経過、消防設備に関する参考書などを破棄してお記憶等の間違いがあった節はお許し下さい。

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