週末の雨模様はすっかり吹き飛ばされ、春霞がうっすらかかったものの、
雲一つない快晴が久々の体験イベントを喜んでいるかのようだった。
みらい平駅改札を抜けると、すでに全員がそろい、マイクロバスも待機していた。
バスに揺られて10分ほどで、東光電気工事様つくば技能開発センターに到着、
簡単な自己紹介の後、今日は体力が要るからだろう、ご用意していただいたお弁当は大きめだった。
このイベントは、「過去事例から学び、危機察知力を高める」ために、
東光電気工事・失敗学会が共同開発しているデータベースアプリケーション会合の席で、
何か見学して面白いものはないだろうか、の雑談で聞いた時に、それは是非にやりたい、
と飛びついたものだった。
早速話を持ち帰って、2日前のフォーラム195の相談を交わしていた浅井さん、
すれ違いざまに言葉をかけた中尾先生、
動画を記録したいからリンクレット(後述)を貸してほしいとお願いしてみたら、
自分も行きたいと申し出された藤野さん、みな即答で参加したいと申し出てくれた。
自分も登ったことがなかったので登ってみる、
と参加された東光電気工事の部長さんが「なぜ参加しようと思ったのですか」と不思議がられ、
各人に聞いたところ「登ったことがなく、今後もこのようなチャンスはないだろうから」
と同じ答えを返していた。みな好奇心が強いのである。
センターの都合で土曜開催はできなかったが、土曜だったら、
失敗学会員から定員の10名を越える申込みがあっただろう。
この鉄塔登りに参加するには、傷害保険への加入が条件だった。また遠目に見て、
あの梯子を登るのだろうと思っていたら、とんでもない思い違いであることを知らされた。
梯子は、外付けエレベータ用のもので、我々は鉄塔の角を、
両側に突き出たステップボルトを両手両足でつかみながら登るのである。片側のステップボルトは
90センチごとに配され、両側で交互に45センチごとに20センチ突き出た丸棒が頼りである。
昼食を終え、着替えて鉄塔の周りに集まって見ると、
命綱となる安全帯とそれを体に固定するためのハーネスが並べてあった。
なるほど、傷害保険に納得がいった。
トップバッターは、リンクレットを首にかけた藤野さん。長身なので、ヒョイヒョイと登っていく。
僕は3人目だったかと思うが、途中で降参して降りるべきか、ずいぶん悩むことになった。
中頃まではよかったのだが、その辺りで左足がステップボルトの上まで上がらなくなった。
後2センチでクリアなのに、どうしても上がらない。しかしこれができなければ、
鉄塔にしがみついたまま上にも下にも行けない図柄が頭に浮かび、
どうにかこうにか足をにじり上げることに成功した。
足をにじり上げるとは、ひざから下を鉄塔本体にくっつけ、足首を伸ばした状態で、
できるだけ足を高く上げ、今度はかかとを支点にして足先を上に上げる動作を言う。
ただしグーグルで“にじり上げる”を検索すると、3個だけヒットして、微妙に違う意味に使っている。
試しに ChatGPT に尋ねてみると、もっともらしい答えが返ってきたから驚きだ。僕が今考えた使い方は、
当たらずとも遠からずで、よしとしよう。
後から訊くと、僕の左足がなかなかステップボルトをクリアしないのが下からも見えて、やきもきしたとのこと。
25m の足場にたどり着いた時にはへろへろ、下りはどうするとの問いには思わず「エレベータで降ります」と即答した。
全員、鉄塔体験を終えて会議室に集合、藤野さんのリンクレットが記録した映像に見入った。
天気が良かったこともあって、素晴らしい映像を観ることができた。僕は上で何もできなかったので、
この動画で足場体験をできたのがよかった。
最後に、東光電気工事のみなさまに大変お世話になったので、お礼を申し上げます。この訓練用鉄塔は高さ29mだが、
現場に出ると80m、90mのものもあるそうだ。僕たちは登るのが目的だったが、作業員は登ってから作業をするのだ。
この鉄塔登り体験を通して、何気なく使っている電気も、これを街に引いてくるのは、
多くの人の大変な作業があって初めて可能なのだと考えさせられた。
【飯野謙次】
は、Fairy Devices 株式会社(文京区湯島、社長: 藤野真人)による、首掛け式カメラ・マイクロホンである。重さわずかに 170g なので装着が苦にならず、肩に置くので映像のブレも少ない。音声付き動画はネットを介して人と共有でき、作業支援、学習支援、観光など、様々な用途が考えられる。
米国、Times 誌が選ぶ、THE BEST INVENTIONS OF 2022 に選出され、全米民生技術協会の CES Innovation Awardsでは3部門で受賞した。6月10日(土)のForum 198では、この藤野真人さんにご講演いただきます。