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『不合理な原子力の世界
行動科学と技術者倫理の視点で考える
安全の新しい形』
書籍発行のお知らせ
失敗学会会員 松井 亮太氏




書籍名: 不合理な原子力の世界
          :行動科学と技術者倫理の視点で考える
          安全の新しい形

著 者: 松井 亮太
発行日: 2024年3月27日
出版社: 五月書房新社
定 価: 2,200円(税込)
ISBN: 4909542590


【書籍紹介】
 本書は、福島原発事故前の安全神話について分析した本である。
事故から13年経過し、既にこのジャンルの本はいくつも刊行されているが、本書の大きな特徴は「読んでいて面白い」ということである。
 福島原発事故の報告書は、いずれも分厚くて、内容が専門的であるため、一般読者には読みにくいと思われる。
 一方、本書は安全神話の問題を行動科学(認知バイアス)や集団心理などの観点から非常にわかりやすく解説しているので、原子力業界以外の人でも興味を持って読めるであろう。

 本書を読んで特に印象的なのは、著者らが行った原子力関係者のインタビュー内容を、包み隠さずに書いている点である。
 以下の発言は、本書からの引用である。
 「安全神話が残っていないかというと残っていますけども、1F事故前ほどの盲目的な安全神話がなければ原子力はやれないんだっていうほど愚かしい国民ではなくなったのかなとは思います。」
「想定してる範囲しか対応しないっていうのは、これ普通の考え方だと僕は思いますけどね。」
「最近は、社内の雰囲気が1F事故前の感覚にちょっと戻ってきてるかなっていう気はしますよね。」

 このように、原子力関係者らが現在の業界の実態を本音で語っており、読み応えがあって、原子力業界の抱える問題を深く理解することができる。
 いずれの発言も匿名とされているが、匿名であるがゆえに、原子力関係者らの葛藤などが生々しく書かれており、他の書籍などでは知ることのできない貴重な情報である。

 本書の最後では、福島原発事故の本質的な問題を「人間には到達できないゼロリスクや無謬を追い求めた結果、皮肉なことに安全対策が疎かになった」と分析しており、この結論には頷ける部分が大きい。
 必要以上にゼロリスクや無謬を求める傾向は、日本社会の様々なところで問題になっている。

 原子力関係者はもちろん、安全に関わる様々な人にとって一読する価値のある良書である。

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