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「失敗学講演の旅」
第3回:再び化学プラントを見る(日本エイアンドエル愛媛工場)
2005年4月26日,愛媛県高圧ガス保安協会総会において『失敗知識の活用』
と題して講演を行った.折りしもその前日,愛媛入りした僕は,JR西日本の福知山線脱線事故の
発生直後にすぐ近くを新幹線で通過していた.新居浜駅で降りると大勢の人が駅のテレビモニター
に見入っていた.その時はまだ死傷者数が確定せず,死者52名という発表だった.
(この事故については本会,掲示板に会員諸氏による発言を参照されたし)
愛媛県高圧ガス保安協会総会は松山城南堀端の東京第1ホテル松山で行われた.
松山というと夏目漱石の『坊ちゃん』の舞台として知られており,市電で20分ほど山に向かうと
日本名泉の1つ,道後温泉がある.温泉に浸かることはできなかったが,大正天皇,昭和天皇も
足を運ばれたことがあるという道後温泉本館の古びた建屋の中を見学することができた.
この建物は,『千と千尋の神隠し』の湯屋のモデルになったという.映画では魑魅魍魎が続々と
やってきて思い思いに湯に浸かっていたが,ここ道後温泉本館でも観光客が引きも切らない.
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松山は,日清・日露戦争で活躍した秋山好古,真之兄弟,それに俳人の正岡子規
を排出している.当時の様子は司馬遼太郎の『坂の上の雲』に詳しい.僕の講演は,日本の危機的現状
の説明を導入としているが,大国ロシアを打ち負かした当時の日本は,ひところ前、『ジャパンアズナンバー1』
と言って,世界工業界の先端を走っていた状態と似ている.今日の長引く経済停滞は,
その後世界大戦に突入し,敗戦とともに壊滅的状態に陥るまで世の体制を自ら変えることができなかった
歴史を繰り返しているのだろうか.
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さて,講演前日に愛媛入りしたのは,日本エイアンドエル(株)愛媛工場環境安全課の豊田 泰氏のご好意により,
同社愛媛工場の見学が実現したからである.日本エイアンドエル社は,そのルーツを1963年,住友化学工業(株)と
USラバー社の合弁会社として設立された住友ノーガタック(株)と,1960年,三井化学によるスチレン系
樹脂事業にさかのぼる.現在の日本エイアンドエル社となったのは1999年のことである.合成樹脂と合成ゴムを
製品としている同社製品(写真2)は,一般消費者には馴染みが薄いが,日本エイアンドエル社の顧客によって例えば,
最終的には写真3に見えるゴムタイヤ円周方向の補強繊維の形になる.
豊田氏によると,日本エイアンドエル愛媛工場ではバッチ処理が中心であり,24時間連続操業に
比べると保守が簡単だという.24時間操業でも,冗長性を持たせれば事故は減るだろうが,それではコストが合わなくなる.
『安全と災害は車軸の両輪.両者のバランスを取って初めて事業が成り立つ』という
吉岡律夫氏の講演(会員リンク)が思い出される.
写真2:日本エイアンドエル社製品(左奥). 手前は色調のきれいな同社パンフレット
写真3:ラジアルタイヤの補強繊維.銀色の点々はスチール繊維. その上に斑紐のように見えるのが樹脂製補強繊維.
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(いいの・けんじ)
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