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 提言
				 現代社会で私たちは様々な新しい工業製品を生産し、新しいサービスを生み出しています。
				これは突然に新しいものが生まれ出てきたのではなく、私たちの先達が営々と積み上げてきた蓄積の上に初めて実現できたものなのです。
				このことを理解し技術の来歴を知って新たな挑戦をすることで次の発展が実現するのです。現代の豊かな生活ができるのはこのような技術の蓄積によるものであり、そのことを良く理解して技術を取り扱わなければなりません。
				私達は技術の系譜を後世にきちんと伝える必要があります。
				そのためには技術の発展の過程で生み出された様々なものや図面、文章などの実物を保存展示し、後世の人達が実物から正しく知識を獲得できるようにしなければなりません。
 一方、正しい知識を獲得するには現地・現物・現人(げんにん)の三現主義を実行し、失敗や事故についての知識を体得することが最良の方法です。
				そしてこの三現主義で技術の来歴を学ぶことのできる場を作ることが必須です。
 今回、「国立産業技術史博物館」構想のために収集された産業遺産を保存展示す
				ることは現在の私たちに与えられた責務だと考えられます。これが実現するように切に希望します。
 
					
						|  | 2009 年4 月16 日 失敗学会会長 畑村洋太郎
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提言の動機
 1978 年大阪で発起され、後に「国立産業技術史博物館」構想に発展した計画が頓挫し、
収集・保管されていた日本の産業興隆の記録とも言うべき2 万点以上の産業遺産が、
廃棄処分されることになったと聞き及びました。
このような産業遺産は、一旦消失してしまうと再生、復元はできなくなってしまうのが現実です。
 私たちが現在保有し、発展させ続けている技術はいきなり現れたものではなく、過去からの技術の蓄積の上に成り立っています。
つまり私たちは、技術の系譜という大きな流れの中の一過程にしか過ぎないのです。リレーで言えば中間走者です。
その私たちには、過去から受け継いだものを確実に次の世代に引き渡す義務があるのです。
この時に、過去の来歴を無視すると受け取った側ではその技術に関する正しい理解ができず、とんでもない事故が起こることがあります。
それは正しい設計の背景が、伝わらなかったからです。
そして確実な技術の伝承には、現物と現人の記録、それにその技術のなされた現地に出かけて体感するという三現主義が何物にも変えがたい効果を発揮します。
 技術の系譜を示す現物をきちんと保管して次世代に伝承することは、無用な事故を避け、
さらにこれからの技術革新を正しい方向に向けてやるためにも重要なことです。
 私たちが受け継いだ重要な産業遺産を、将来に向けて確実に残せるよう、切に望んでや
みません。