特定非営利活動法人失敗学会 |
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>>会員用フルバージョンはこちら 第7回大阪夏の大会報告
日 時:2010年7月17日(土)、10:00 - 17:00 (懇親会 17:30 - 19:30)
場 所:大阪府社会福祉会館5階ホール 参加費:会員 3,500円、一般 7,000円 09:50 開会の挨拶【大澤勲、大阪分科会長】 10:00 被災者一人ひとりの権利 -阪神淡路大震災から15年【大橋 豊】 11:05 あなたの見る世界と私の見る世界【加知一友】 12:10 心の科学と創造性【飯野謙次】 13:15 (休憩) 14:15 食の安全! ~安心とリスクマネジメント~【山本雅司】 15:20 (休憩) 15:30 福知山線脱線事故の本質的原因に迫る【横井祐一】 16:40 閉会の挨拶【飯野謙次、失敗学会副会長】 失敗学会夏の恒例行事として定着した大阪夏の大会は、今年で第7回目を迎えた。 梅雨明け宣言が出て、すっきりとした青空が広がっていたこの日は、3連休の初日とあって集客が懸念されたが、 それは杞憂だった。それだけ、夏の大会は皆様に心待ちにされているこということであり、 それは大阪分科会努力の賜物といえよう。 今年の参加は会員46名、ゲスト・一般4名、ITC関係49名、外部講演者2名、内部講演者2名の計103名だった。 最初はひょうご福祉ネットワークの大橋豊さんにご登壇いただいた。 大橋さんは定年退職された1990年から本格的なボランティア活動を始めたとのこと。 その後、1995年1月17日に阪神・淡路大震災が発生し、仮設住宅に避難したお年寄りからある痛ましい事故の話を聞き、 被災された方のために巡回相談のボランティアをやろうと決意されたそうである。 弁護士、税理士、ケースワーカー、看護師とともに行う月1回の巡回相談は今年で168回になったという。 その相談内容は辛い内容が多い。そのひとつひとつに対応していく上での問題点や今後の課題は山ほどある。 大橋さんのそれらに立ち向かうエネルギーには頭の下がる思いがした。 次は京都東山老年サナトリウム副院長の加知一友さん。「あなたの見る世界と私の見る世界」と題したお話しを伺った。 なんとなく不思議な感じのするタイトルだ。そう言えば、 「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」というタイトルの映画があったが、 このタイトルを最初に耳にした時に受けた不思議な感じに似ている。 加地さんは初め消化器系の医師だったという。C型肝炎治療、肝臓ガン治療を専門にされていたが、 現職についてからは認知症患者の見る世界に関心を持ったということだ。 記憶が消えて思い出せなくなっていく状態の方が見る世界と、私が今見ている世界が同じとは思わない。 けれど普段、そういう方と接することが少ないから、そのことを意外に忘れがちだ。忘れがちというより、 ほとんど意識することがないように思う。それゆえの行き違いや勘違いは、果たしてどのくらいあるのだろうか。 認知症患者以外にも、世界の見え方、感じ方は実に様々であることを加地さんは実例を挙げてお話しくださった。 それは病気やハンデを持っている、いないに限らず、人間が他の人間と意思の疎通を図る時に、 一番大切なのはこのことではないかと気づかされる話の数々であった。 さて、3人目は飯野副会長だ。「心の科学と創造性」と題した講演の資料を見ると、いつもと趣が違う。 ご自身もそう言っておられた講演は、まず、ヴィーナスとキューピッドは親子だったという話から始まった。 ヴィーナスは自分より美しいと評判の人間の娘プシュケに嫉妬し、おとしめんとキューピットをさし向ける、 などという話はその人間くささに苦笑いするしかない。命じられたキューピットは、プシュケに会うなり恋に落ちてしまい、 これが発端となり、プシュケは様々な苦悩や試練を体験することになる。これを分析することが心理学の初めということだ。 ここから枝分かれし、精神分析を創始したフロイトが登場、そしてユングに至る。さらに、 ユングの認識論を発展させて確立されたのがMBTI(Myers-Briggs Type Indicator)だ。 ここからワイルド先生のティーモロジーにつながった。 そうか。昨年の夏の大会で、飯野副会長が失敗しない最強のチーム作りについてお話しされたが、 これは続編なのだなとここで気づいた。 プシュケの話からここに至るとは面白い。 ワイルド先生のチーム設計手法へと話は進み、チームを構成するにあたっての方法論などに話は進んでいった。 恐らくこの手法や方法論はこれから先、分化していくと思われるが、 いざという時に良い方向に皆の力がまとまり発揮される有効な方法を精神論だけではなく、 数字的に解析していくことは今後必要不可欠な事項となるだろう。ぜひ続々編を拝聴したいものである。 「そろそろお腹が減りましたね」と飯野副会長。ここでお昼休憩をとり、午後の部へと突入した。 午後の部は、損保ジャパン・リスクマネジメントの山本雅司さんから始まった。 山本さんは安田火災に入社してすぐに安全技術部に配属となり、以来30年、企業の安全に関わってこられた。 その間の安全に関する分析データ、事例などは膨大な量と推測されるが、 今回はここ10年間くらいの食品に係る事故・事件についてお話くださった。 具体的事例を元に、「安全・安心」についての視点が、製造者と消費者ではどんなギャップがあるのかを導入話として、 シチュエーションごとに起こった問題の詳細を聞かせてくださったのは貴重である。 予想外のことを予知できればそれに越したことはないが、予知できないからこそ、ありとあらゆることを想定し、 予防していくことがリスクマネジメントである。さらに、 予想外のことが起こってしまった時にどう対処すべきかを考えるのがクライシスマネジメントだ。 近年、マスコミによる情報が拡大し、食に限らず社会的に安全・安心についての関心が高まってきたため、 企業にとってこの2つのマネジメントがいかに重要かが理解できた。 いよいよトリの横井祐一さんの登場だ。 失敗学会では、福知山線事故について討論することが多い。今年1月、大阪で開催された失敗学フォーラム74で、 鉄道のプロである横井さんが福知山線事故の原因を分析したその内容を伺った時は、 衝撃を受けること大であった。ぜひもっと多くの失敗学会会員に聴いて欲しいとの思いで、再度ご登壇をお願いしたのだ。 人間は間違うものである。それを人間の注意力だけでなんとかしようとしても、 なんとかなるものではない。バックアップの仕組みを作ってやらなければならない。 福知山線事故では最新のATS-P型設置の遅れについて言われているが、 ATS-SW型にも速度照査機能がついているので、 これを設置すれば事故が防げたが、なぜ設置されなかったのか。ここが今回のサブタイトルにある、 「事故を誘う経営の落とし穴」の部分の話だ。帰納法的な錯覚に関しては、そうじゃないとわかっていながら、 私も日ごろから同じように錯覚していた。設置に関する経営判断について聞いた時は心底驚いたが、 それについての横井さんの意見はなるほどそのとおりだと得心した。 事故が起きてしまった時に、どちらの立場にも偏らない冷静な分析が一番大事であり、 横井さんの分析はまさにこれにあたるものである。今回のお話を伺って、 改めてもっと多くの会員の方に聴いて欲しいと思った次第だ。 以上講演とは別に、昨年横濱開港博での「子供に危険を伝えるコンテスト」で大阪分科会が1位を獲得した「たこ足配線と踏切非常ボタン」を、 この夏の大会でも展示をした。非常ボタンは実物である。横井さんが仰るには、 「もし踏切内で車が立ち往生したら、まず非常ボタンを押してから助けを求めるのがよい」そうだ。 非常ボタンを押した場合の損害金額と、列車が衝突してしまった時のそれとは桁違いだった。しっかり覚えておくことにしよう。 今年の夏の大会も盛りだくさんの内容で終了した。飯野副会長からの終了の挨拶をいただいたが、 その中で「知識を活用できて、正しい対応ができる人が知恵者だ」と仰ったのが印象的だった。 情報も知識も受けっぱなしでは確かに意味がない。受けっぱなしで終わらないように、 得たものをいろんな人に話してみよう(気恥ずかしい気持ちはあるけれど)と思った。
福本喜枝(ふくもと・よしえ)
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