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大洋薬品工業株式会社 高山工場 訪問記録


日 時:2010年10月20日(水)
場 所:大洋薬品工業株式会社 高山工場
参加者:川路明人、水野義一,酒井雄二,三谷洋
背景:
 大洋薬品工業株式会社(以下、大洋薬品)は、2010年3月、薬事法違反として9日間の営業停止処分を受けた。 承認規格に合致しない製剤を出荷したことによる。製造工程の一つである混合工程において、 有効成分と添加剤を取り違えて秤量・混合し、ミスの可能性に気づいた工程の責任者が、 次の工程の責任者にミスが起きていないロットのサンプルと差し替えて品質試験に提出するよう依頼、 その依頼通り問題のないサンプルが提出され試験がパス、結果として規格外の製品が出荷されたというものである。
 大洋薬品では、この事態を真摯に受け止め、その原因を「GMP・GQPに係わる問題」と「会社組織・風土に係わる問題」に分類・整理し、 再発防止に取り組んでいる。
 今回、大洋薬品工業株式会社様のご厚意により「取り違えの現場」や最新鋭の製造設備を見学する機会を得たので、 その概略を報告する。

図1 本剤の製造工程と事故の発生要因(参考資料より抜粋。青字は筆者コメント)

 大洋薬品・高山工場は、JR高山駅を見下ろす高台に位置する工業団地にあり、 1994年高山駅前から移転・稼働した。順次、増設し、現在に至っている。 なお、2010年8月1日現在の高山工場在籍者は、893名で、製造現場717名、 QA部門30名、QC部門75名がそれぞれ配属されている。
 製造品目数は、850品目を超え、約1/3が受託生産品、約2/3が自社品である。

「取り違えの現場 第1固形剤棟」
 第1固形剤棟では、秤量機設置場所と原料保管場所を見ることができた。 秤量機は、当時のままだが、その後、秤量結果の表示器にはプリンターが取り付けられ、 秤量結果のプリントアウトにより秤量結果の転記ミス、記録改竄防止措置が図られている。
 なお、従来一人で行っていた作業だが、ダブルチェックシステムに変更されている。
 原料の輸送・保管にあたっては、端数品のビニール袋使用をやめ、 正規ドラム缶による運搬・保管に変更した。それぞれのドラム缶には、 内容物を表示するラベルにロット別に赤や青のシールを貼付し、識別性を高めている。 更に同一ロットの内容物ドラム缶については、バンドでまとめ保管している。
 また、バンドの色は工程毎に変えている。
 なお、識別性はかなり向上したと思われるが、「ラベルシールとバンドの色を同じにする」や「使用しているバンドの色を増やし、 少なくとも同じ日に同じフロアーに置かれているドラム缶は、内容物によって色を変え、同じ色は使わない」など更に検討する余地があるような印象を受けた。
 これらも含め作業においては以下のようなミスを防ぐ取り組みが行われている。 さらにミスをさせない仕組みとして、2011年10月からはバーコードによる管理を導入する予定である。

表1 作業においてミスを発生させない仕組み(参考資料より作成)


「プレフィルドシリンジ製造 第3注射棟」
 1、2、50及び100mlのプレフィルドシリンジを製造しており、 その製造ラインは世界的な評価を得ており、ISPE、INETERPHEX、 Pharmaceutical Processingが主催するFacility of the Year Awardsにおいて、 2007年度の製薬設備革新部門賞を受賞している。
 また、通常は、出来上がった注射筒を購入し、薬剤を充填するが、 大洋薬品では、プラスチックは射出成型、ガラスは購入した生地管を熱変形して、 自社工場内で注射筒(上筒のみ)を製造し、人手に触れることなく薬剤充填工程へ運搬するなど、 品質向上にも努めている。

「最新鋭固形剤製造 第3固形剤棟」
 秤量から造粒、打錠、錠剤への印字、PTP充填、 包装までを人の手を介さず一貫して行うことができるクローズドシステムを採用している。 また、ヒューマンエラーやオペレーションミスを排除する製造管理システム(MES)とデータ収集システム(SCADA)が採用され、 世界基準対応となっている。
    
(A) 固形剤PTPシート包装ライン     (B) 固形剤箱詰めライン
図2 床の色で、空気清浄度を区分している
まとめ:
 大洋薬品の再発防止の取り組みのうち、GMP・GQPなどは職場あるいは組織特有の問題ではあるが、 その職場・組織における「技術的対応(人間特性から考えた手順の策定や作業環境の見直しなど)」であり、 そこに所属する人たちが職場・組織の目標に向かって、人と人との関わりの中で、どのように考え、 どのように行動していくかという「組織風土・文化」の問題とともに重要な課題である。大洋薬品では、 外部有識者の助言を受けつつ、これら取り組みの進捗状況を四半期ごとに発表することとしており、 我々も注目し、自分たちの職場・組織の事故防止、組織の健全化、職場改善に役立てて行きたい。

参考資料:
大洋薬品工業株式会社:今回の不祥事の原因と対策に関する報告.2010.8.5
用語解説
GMP:医薬品等の製造管理及び品質管理の基準(Good Manufacturing Practice)
GQP:製造販売する医薬品等の品質保証の基準(Good Quality Practice)
プレフィルドシリンジ:あらかじめ注射器に薬液が注入されたもの。以下のようなメリットがあり、医療現場で多く使われている。
  1. 微生物汚染や異物の混入を軽減する
  2. 調製時、使用時の過誤の可能性を減じる
  3. 救急使用時の迅速な対応を可能とする
  4. 注射剤の適正使用に貢献する ?
  5. 注射剤の調製などに用いる器材を節減できる
  6. 調製に伴う労働力が節減できる
    
        図3 工場玄関前         図4 工場玄関

 防虫対策から、ドアは2重になっており、片方のドアが閉まらないともう片方のドアは開かない仕組みとなっている。
 図4の中央のピンクのラベルは、残念ながら読めないが、 「歓迎 失敗学会ご一行様」となっている。なお、晴れていれば、玄関からは乗鞍岳が見える。

高山の町並みなど:
今回は、残念ながら、時間がなく、観光することはできなかったが、 駅からの往復のタクシーの車窓から、朝市で有名な「宮川」や「中橋」、 「高山陣屋」を初めとする古い町並みを見ることができ、高山の素晴らしさの一端を感じることができた。 次の機会には、もっと時間をとって見たいものである。また、飲食店の看板に「飛騨牛」の文字を多く見た。 大いに食欲をそそられた。次回は「一位一刀彫」の工房も覗いてみたい。

  
(三谷 洋)

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