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2010年10月、陸上自衛隊ヘリコプター
UH-1 H 事故について

 1月22日の失敗学フォーラム in 大阪では、最後に大阪分科会会長大澤さんの大阪版 NHK出演の話題で盛り上がった。 幸い死者はなく、怪我は搭乗していた4人で済んだものの、砕け散った回転翌の部品などが近くの工場や公園に飛び散るというヒヤリハットものだった。
 大澤さんがリードする形でひとしきりどうすればこの事故は防げたのかが議題になった。 報道によると、パイロットが旧 H型を操縦していたのを、新 J型と勘違いして、油圧系統スイッチを誤って切ったらしい。
『古い方と、新しい方の油圧系統スイッチが全く同じだったかが気になる。古い方は仕方ないけど、新しい方はスイッチ操作を変えるなどすれば良かったのではないか』
 こう意見を述べた筆者はその後、このスイッチがどんな形のものだったのか気になり、ネットをサーフして調査した。完全にはわからなかったが、 おそらくこうではないのかという結果をこの記事にした。実に面白かった。これでネットオタクの仲間入りができたろうか。少なくとも足の小指くらいは入ったと思う。

 まず製造者だが、これは富士重工が米国、Bell Helicopter のライセンス生産をしているようである。 旧型の UH-1 H型は、Bell Helicopter の商用モデル、 Bell 205A を軍用に改造したもの、新型の UH-1 J型は同じく、Bell 205Bを改造している
 問題の油圧系統スイッチは、日本のページではなかなかわからなかったが、 Bell Helicopter のホームページを見て驚いた。軍用の UH-1 系については詳しく書かれてないが(当然か)、 商用モデルについては、微に入り細を穿ったような文書がネットからダウンロードできる。ターゲットの 205A と 205Bについては、生産が終わっており詳細はわからなかったが、 以下リンクの1は Bell 412 についてのデータである。リンクの2. は一般的にヘリコプターの安全について。
1. Bell 412 データ(PDF)
2. The International Helicopter Safety Team (PDF)
 上記 1. ではその 48ページを見ていただきたい。ページ真ん中より少し上、左側の白黒写真に注目。左右に "HYDR SYS NO. 1" と "HYDR SYS NO. 2" と少し大きめのON/OFF スイッチがあり、上が ON、下が OFF 位置である。これのことではないかと思った。
 上記 1. の文書では、油圧系統のコントロールはコンソール(パイロットと副操縦士間の床上にある箱)の右側にあるとしている。 同じメーカが商用と軍用でその位置を大きく変えていると思えない。そこで今度は、UH-1 H とUH-2 Jのコンソールの写真を探してみた。 世の中良くできたもので、GALLERY Rightwing とコメントを差し控えたくなる名前のサイトにどちらもあった。以下リンクをクリックして表示してみて欲しい。
3. 旧型 UH-1 H のコックピット(JPG)
4. 新型 UH-1 J のコックピット(JPG)

 両者を見比べると、なるほど 4. の方が計器などが新しい。そして例の Bell 412 で見つけたスイッチを探すと、 コンソール右側に三角形のチーズをつけたかのようなスイッチが "HYDR SYS NO. 2" のスイッチのようだ。3. の写真にも同じものが見える。
 おそらくは、このスイッチを誤って OFF にしてしまう事故があったため、注意喚起の意味でこのチーズをつけたのではなかろうか。 そしてUH-1 J、すなわち商用では Bell 205Bは、日本からの改良要請事項を盛り込んだ改良型とされているので、 これを OFF にしても操縦が効くようにという要請がその1つではなかったか。

 切ってはいけない H 型にチーズをつけたのは良いが、切っても構わない J型にまでチーズをつけたのはとても残念だ。 J型のスイッチにつけられたチーズは取るべきだろう。そうすれば、新しいJ型の操縦に慣れたころに、 たまたま旧 H型の操縦をすることになり、うっかり油圧系統スイッチを切ろうとしたら、 チーズが着いていて、手が “あれ?”という信号を脳に送ってくれる。

 ちなみに Bell Helicopter のホームページ、上記 2. には安全について特に言及しているページ(9ページ)があり、3段構成の一番右、 なかごろに、"I am now speaking to the pilot that turns the hydraulic switch OFF as a substitute for flight control friction" と題して、ヒューマンファクターに関する特記事項がある。Flight Control Friction とは、操縦桿を前後左右に倒した時の手に受ける抵抗感のことである。 この中で Bell Helicopter は、抵抗感が良いからと言って、この油圧系統スイッチを決して切ってはいけない、と諌めている。

 ちなみに筆者の意見では、できれば旧 H型の当該スイッチを改良して、例えば 90度捻らないと OFF にできないようにしてはどうかだった。 チーズほど簡単ではないが、誤って H型の油圧系統スイッチを切ろうとしても簡単にはできないので、制御不能による事故の確率は大きく減るだろう。 下図は、引き上げないと一方のポジションに入れることができないスイッチの構造例である。

 本記事には、筆者の推測がずいぶん入ってしまった。文献 4. についても、なぜこの安全のための国際版に油圧系統スイッチに関する記事があるのか、 想像することは簡単だが、その憶測はあまりに確度が低い。しかし、“注意を促す”という対策は、筆者が三大薄効失敗対策としている、“周知徹底”、“教育訓練”、“管理強化”の 1番と同じではないか。

 世の中の事故の低減を願いつつ、、
【飯野謙次】
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