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線量、シーベルトに関する考察

 昨日ニュースを見ながらふと思った。 今私たちは、単位時間当たりの線量、すなわち線量率(線量率についてはこちらを参照) を気にしながらの生活しているが、体の大きい人はより多くの線量を浴びるのだろうか。

 例えば全く同じ体形の二人がいて、一人(Aさん)の身長がもう一人(Bさん)の倍だったとしよう。面積比は長さ比の2乗だから、 二人が同じ服装をしていた場合、AさんはBさんの4倍の放射性物質にさらされる。 ところが、Aさんの体重は、体積比が長さ比の3乗であることからBさんの8倍。体重あたりの被曝量で見ると、 AさんはBさんの半分である。

 被曝した場合に受ける損傷であるが、医療ミス、核兵器などにより、 強い放射線を浴びると被曝箇所が局所的にただれるなどの怪我があるが、 私たちの命を脅かすのはむしろ体内に放射性物質を取り込んだときの影響だろう。 今のところ、福島の事故によって大量の被曝を受けたのは現場作業員の一部だが、 そのような大量の被曝を局所的に受ける心配は、一般の私たちにはない。

 被曝による怪我は、日本語ページを検索してもあまり出てこないが、 "Radiation Injury" で画像検索すると出てくる。 視覚的に身体的損傷を見るのが苦手な人にはお勧めしない。

 上記考察から、私たちは体表面積比よりも、体重あたりの被曝量を気にした方がよさそうだ。 体重あたりの被曝量は体の小さい Bさんが不利だった。 つまり、大人よりも子供が高い線量にさらされることのないよう注意しなければならない。

 次に高い線量率の中に自分がいるとわかったとき、走るべきかということ。
 ここに、普通に走る青人とその倍の速度で走る緑人を仮定し、 まず雨のときに早く走るとどれだけの雨を浴びるか考えてみよう。 誰でも一度は考えたことかも知れない。

 この問題を考える時、雨滴の空中密度と落ちる速度は一定と仮定する。 そして、走り始めるときに雨が静止していると考え、それから身体に当たる雨滴に印をつければよい。 下図で、青人、緑人、ともに左から走り始めて右のゴールにたどり着くとする。体の前面で受ける雨滴は、 ゴールの瞬間に受ける雨滴が走り始めたときにどこにあったか考えればよい。青人の場合は、 緑人の2倍高いところにある。だから二人が受ける雨滴は、 それぞれの図中の平行四辺形の面積で表されることがわかる。 つまり、体の前面で受ける雨滴の数は、早く走ろうが、遅く走ろうが変わらないことになる。

青人がゴールにたどるまでに
その前面で受ける雨滴

緑人がゴールにたどるまでに
その前面で受ける雨滴

 しかし、これではどうも納得がいかない。走る速さにより、受ける雨滴の数が変わらないなら、 どんなにゆっくり移動しても、走った時と同じ程度しか濡れないということになる。 そんなことはなく、のろのろ歩いていたらずぶ濡れになる。どこが違うのだろうか。

 それは、上記考察では、体の前面で受ける雨滴しか考えなかったからだ。 人間の身体は平面ではなく、厚さがある。下図では、青人、緑人がその上面(肩から上)で受ける雨滴の数を数えている。 緑人は青人の2倍の速度で走るので、ゴールした時、その上面で受ける雨滴は、青人に比べて半分の高さにある。 そして、それぞれが受ける雨滴は下図の平行四辺形の面積で表される。つまり、倍の速さで走れば、受ける雨滴は半分になるわけだ。

青人がゴールにたどるまでに
その上面で受ける雨滴

緑人がゴールにたどるまでに
その上面で受ける雨滴
 では肝心の線量率の中ではどうだろうか。線量率は、空気中に浮遊している放射性物質の濃度を表していると思えば良い。 いずれは落ちるのだろうが、その速度が遅いため、雨と違って空気中をじっとしていると考えたほうが良い。
 そうすると、上図で平行四辺形で表した雨滴の数は、今度は長方形になることがわかり、 青人も緑人も全く同じ量の放射性物質に触れることになる。
 果たしてそうだろうか。

 雨の考察では人の上面を忘れたが、今度は背面だ。移動するとき、前面で触れる放射性物質だけを考えがちだが、 背面も常に空気に触れており、その空気も同じ濃度の放射性物質を含んでいる。
 緑人は青人の倍の速度で走るのだから、高い線量率の中にいる時間は青人の半分である。 しかし、その前面では速い速度のために倍の線量率の雰囲気中にいるのと同じことになり、 ゴールにたどり着いた時にその前面で触れた放射性物質は、普通に走る青人と変わらないかも知れない。 しかし、その背面で触れた放射性物質量は、時間半分だから青人の半分。

 以上より、雨の時に濡れる量を少なくするには走ったほうが良いのと同じように、 高線量率の中に置かれた時、隠れる室内が近くになければ、やはり走って室内に逃げ込むのが良い。 ただし息が荒くなるほど走るのは、吸気から受ける被曝を増やすので避けなければならない。

 最後にテレビアナウンサーも良くやらかしている間違いについて。
 線量率が 100µSv/h だったとしよう。
『これは、東京・ニューヨーク往復で受ける 200µSv よりも小さいので安全』
というのは、大きな間違いだ。その雰囲気の中にどれだけ滞在したかが問題である。

 飛行機の性能によって違うが、東京・ニューヨークを往復するのに要する飛行時間は、大体24時間である。 その間に 200µSv 浴びたなら、線量率は およそ 8.3µSv (8.3 = 200 ÷ 24)である。 大気中線量率 100µSv/h の方がよっぽど悪い。
飯野謙次
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