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失敗学会、秋の国際講演
安全第一は旋盤・工具、そして精密計測への愛から
 ―技術文化スローガンをめぐる社会史

 
金子毅教授 招待特別講演
日 時:2011年10月1日(土)、15:00-17:00
場 所:東京大学工学部2号館 213講義室
参加者:(会員42名)浅井香葉,浅野良雄,飯野謙次,生田清敏,石井湧太郎,
石橋明,石山秀雄,井戸幸一,井上善雄,今飯田哲,宇於崎裕美,牛尾収輝,
大脇純一,小沢和重,柏幹雄,角口開道,金川昌義,柄澤由子,河東康一,
岸野安一,黒澤愼輔,児玉仁,小山富士雄,斉藤貞幸,齋藤稔,佐々正光,
白岩豊,滝山浩,田中茂利,中尾政之,中尾英和,中嶋明宏,中田邦臣,
福本喜枝,古川元晴,松田拓道,丸山和典,茂木真,安田直人,荒井清勝,
矢島國記,中山安弘
(一般5名)大島遊亀慶,池田茂,村山盤,岡本直之,中尾

会次第
14:30 開場
15:00 金子毅講演
16:30 質疑応答
17:00 終了

17:30 懇親会(チムニー本郷店)

 自分の人生を振り返ってみる。自分自身が発した言動や行動であるのに、 「なぜそんなことをしたのだろう」と不思議に思うことがある。その時は大いに悩み、 考えた末のことであるはずなのに、年月が経過すると「あれ?」と思う。
 何かの渦中にいる時には見えなかったり、気づかないことがある。 金子先生の講演を拝聴し、そのことをしみじみと感じた。 だから折に触れ、自分や社会が歩んできた時間を振り返りながら考察し、 自分の立ち位置を確認することが肝心と考えた。

 産業革命以降の科学技術の発達により、予想不能でかつ、作業者の身体へ重大なダメージを及ぼす事故が発生するようになった。 アメリカでは1900年初頭に、このような事故に巻き込まれる労働者が増加した。 この時に「Safety First」という概念が生まれたのだ。
 日本にも産業革命が起こると、同じく重大な産業事故が発生するようになった。 その対策として「Safety First」を「安全第一」と訳し、その概念を取り入れようとしたが、 何やらおかしな方向に向かい、ついには形骸化してしまった。その経緯を金子先生は、 豊富な資料画像やイラストとともにいろんな角度から話してくださった。 元官営の八幡製鉄所の資料は、特に興味深いものだった。

 乱暴な言い方であるが、肉食イス文化でキリスト教国の概念が、 魚食畳文化で神仏そして儒教の影響を受けている国に渡るのだから、 1つの間違いもなく正しく伝わるわけがない。 理解できないことを都合よく解釈し取り入れることもあるだろう。 「Safety First」と「安全第一」がノットイコールとなってしまったことについて、 現在では想像に難しくない気がする。とはいえ、それが根拠のない「安心」と混同されるようになってしまうとは、 いったいどんな経緯を経たのか、そこを理解しないことには、今後も「安全第一」は単なるスローガンとして終わってしまうだろう。

 講演の中盤に私は、日本における「安全第一」実現の中心は常に組織であることに気づいた。 生き死にと関わり大変な目にあうのは個人なのに、個人意識に「安全第一」は内在していない。 当事者意識が欠落しているのだ。理解できないことを都合良く解釈し、と先に書いたが、 最初に都合良く解釈したのは個人ではなく組織だったのだ。 このことは、現在の日本でも当てはまる事態が数多くある気がしてならない。

 「安全」を考える時に、ハードやシステム改善という工学的アプローチを思い浮かべることが多かった私は、 別の視点から「安全」について深く考えることができ、これはとても有益なことだと思った。
 そんな理由で、今回の講演を聴き逃した皆さんには、今年7月に刊行された金子先生の著書、 “「安全第一」の社会史”を読まれることをお勧めする。

 最後に、下の写真は最後の質疑応答で飯野副会長から、御指名で投げられた質問、 「文理が協力して、これからの安全文化を正しく導く可能性についてどう思われますか」 に中尾政之教授が答えているところ。

【福本喜枝】


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