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年次大会、吉岡講演質疑応答

 2011年12月10日、第10回失敗学会年次大会が開催された。 数あった講演の内、吉岡律夫さんの講演 “我々はどこで失敗したのか? 福一事故の根幹原因考察” が注目を集めた。 内容については、12月20日、吉岡メモ第68報に詳しい。
 講演後飯野事務局長から、失敗学の見地からこの事故を見たときの考察として、 今回の失敗は、地下鉄のワンマン化など考えなければならない検討をきちんとしていない事業が他にないか、 新たな視点から見直すという課題を私たちに与えているとコメントがあった。 また、石橋組織行動分科会長からは、組織の意思決定プロセスが非常に重要であることが示された。 レジリエンスエンジニアリングの考え方で、劣悪な環境の中、もっと大惨事になるところをどう抑えたなど、 良かったところに注目して今後の危機管理に活かしたいとメッセージが伝えられた。
 その後、宇於崎裕美氏の司会で、講演者の吉岡律夫氏、メッセージを発表した石橋明氏、飯野謙次氏の三氏が、 会場参加者の質問に答えるパネルが行なわれた。
 世の中、大勢の方が興味を持っているだろうこのパネルの様子を以下に記す。 文言と質問の順番は、事務局により編集されているが、内容は変わらない。

写真の順と質問者番号は関係ありません。



質問者1:  報道では、東電が安全設備の多重性について特に強調しているが、安全設備は多重であると共に多様でなければならないのではないか。
吉岡: 多様性については、ディーゼル発電機と外部電源という意味では多様化はしていた。 ディーゼル発電機自体も1、2、3、4号機全部で13台あって、そのうち2台が原子力発電所から100メートルくらい離れた共用プールに置いてあったので、 多様性はあった。しかし、残念ながら津波が共用プールまで達したので、その多様性は破られた。また外部電源は地震により損傷してしまった。
 5、6号機については講演の通り、一部は原子炉建屋に置いたという多様性で助かった。つまり、1、2号機は当時の GE の設計通り作ったけど、 その後は多重性・多様性を持たせていた。

質問者1:  東電の歴代社長は全て事務系で、やることは、霞ヶ関と政治家対策だと報道されていた。 他の電力会社では技術系も社長になっていた。東電のような体質では技術系の意見は通らないのではないか。
石橋: 組織行動の点でいつも議論しているのは、 正しい情報をできだけ多く集め、そして適切なプロセスに従って出すの最適の意思決定ということ。 それができていたかどうかは検証委員会が評価をするだろう。
 適切な意思決定プロセス経なかったための不祥事や倒産例はいくつもある。それも信じられないような知財や人材、顧客を抱えて倒産することもあった。 このような例は意思決定プロセスが適切でなかったことを雄弁に物語っている。こういった事故から我々は学んでいかなければならない。

質問者2:  品質管理でも言われ始めた “レジリエンス” について。 事故当初、現場総撤退のような話が流れたように聞いているが、これの真偽について教えていただきたい。 また実際、現場はうまく対応したとの説明だったが、レジリエンスや柔軟性は大事ということを、事実の話との対応で御紹介いただきたい。
[レジリアンス(Resilience): 何かが起こる前にシステムがやるべきことを調整し、何かが起こっている最中や事後は、状況が予想したものであっても、予想外のものであっても、その機能を継続することができる能力。Dr. Erik Hollnagel]
吉岡: 事実については、東電が中間報告書のを出しており、 そのなかで公開した事故手順書手順書、それ以外にもこういうことを現場がやりましたとファクト、 事実が書いてあるので確認していただきたい。おおむね元の手順書プラスこういうことをやったというファクトが書いてある。

質問者2:  現場が撤退したいという話が浮き上がったという話を聞いているが、それをちゃんと抑えたのは現場所長だったか、ただのデマだったかが知りたい。
吉岡: 現場の人間にインタビューしていないので、正直わからない、 検証委員会に期待する。
石橋: レジリエンスエンジニアリングは、まさに質問者の言う通り。 過去の欠点だけを指摘して、責任を追及して、懲罰をこらして一件落着、これでは前に進まない。 起こったことを顧み、もっと悪い状況になっていたかも知れないと考えると一部は成功である。その成功部分を抽出して細かく検証し、 将来に活かすのを非常に重要とする考え方だ。つまりは復元力。レジリエンスエンジニアリングという基本的な発想は復元力をどうやって発揮していくかということ

質問者3:  福島原発事故では、東電はこれを使う側だ。こういう異常事態が起こった時に本当に真髄まで追求できるのは、それを開発したメーカーであり、設計に携わった会社であり人であると漠然と理解している。今回の事故では、東芝、GE、あるいは4000人を抱えた米国NRCなど、そういったところの力を、 東電はどの程度利用しようとしたのか、あるいは断られたのかが非常に気になる。まず、開発設計した会社の力をなぜ借りなかった質問をしたい。
吉岡: 事故時の手順についてメーカーの中に、完全に事前予測して、 シナリオを考えて、こういう手順で対応するというようなことは設計に基づいて出している。 今回はそのシナリオに基づいて対応したのと、プラスアルファもあったということだ。 今回の事故では、あれだけの炉心溶融が起こったとされているが、その実績については残念ながら世界中で誰も持っていなかった。 人類が知っているのは、米国のスリーマイル島でやっと最近になって何が起こったかわかっただけだ。 このような事故時に実機で何が起こったかわかっていなかった。残念ながら人類は知らなかったということで、 民間がいたから何かできたかということについては少し疑問がある。

質問者4:  今回、保安院で記者の質問に対して、メルトダウンが起きている可能性があると言った人がいた。 一番最悪のことを想定したその人が、すぐにいなくなっちゃった。その後、さらに被害が大きくなったことに関しては、 想定外を想定しなかった、あるいは目をつぶったということが今のような状態につながった。 事故調査委員会でも事故そのものではなくて、その後なんでこんなことになっていったのか、隠ぺい体質も含めて是非明確にしていただきたいと思う。
吉岡: 3月の事故が大きく、 メルトダウンの可能性が保安院の人から言及された。しかし、経産省の傘下の機関から今回の事故の前に、地震が来たら、津波が来たら、 あるいは全部の電源がなくなると、炉心溶融し、大量の水素がでるという報告書が出されていて、 保安院のその人はそれをちゃんと読んで勉強したんじゃないかなと思う。講演で日本人で何百人が知っているはずだと言ったが、 そういう一人だったということになる。そうだとすると、その人は勉強した想定の結果を単に言っただけ。 そこをなぜ後からちゃんと公表しなかったのかを調べるのは、(新聞社)社会部の問題で、私の担当じゃないのでわからない。
 まあただ、想定外を想定するということはすごく難しいということ。先の報告書に携わって書いた人間は、 組織に入った時から想定外を想定する訓練をやっていて、その結果、ようやくこの報告書が書ける。
飯野: この事件が起こって、大きな目で見た時に非常に面白いなと思ったのが、 人工衛星が落ちてくるという話が、その後から出てきた時、その確率は 32万分の1とかそういう話だった。 その時にその人工衛星に備えた人はどこにもいなかった。じゃあ、32万だから10の5乗、その確率に対しては想定をしなくてよい。 では、10の3乗、10の2乗、となったときに、どこに線を引くのかというのは非常に難しい。
 今回の事故を冷静に考えて、確率の計算で何かがおかしいと思ったのは、 原発は、1年間操業して炉心溶融が起こる確率は10のマイナス7乗を超えてはいけない、ということだったと思う。それくらいの数字だった。 それをモンテカルロ法やなんやらすごい計算を提出して操業ライセンスをもらう。 ところが、マグニチュード9の地震が起きた時には必ず炉心溶融が起こると予想した人がおり、その地震は1000年に一度であると。 単純に考えると1000年っていうのは10の3乗。そうすると1年間操業すると10のマイナス3乗で炉心が溶融するものを稼働させていたんじゃないか、 という気がした。事業にはそれを取り囲む気というものがある。まあ、これは計算しなくていい、っていう、 半ばその業界での常識。間違った常識だったが、この業界にそんなものがあったのではないかと思った。

質問者5:  さきほど石橋先生の話の中に、今回の事件はチェルノブイリのような大惨事を防ぐことができた大成功例であると考えましょう、 とあったがこれは納得できない。第一にチェルノブイリと同レベルの惨事・事故であると評価されており、 急激な核爆発が起きなかったのは炉の型が違うので当たり前。 じわじわじわっと起きて、現実に炉は破壊されているし、メルトダウンも起きた。 なによりも問題なのはチェルノブイリの場合には放射性物質の大部分は広大なロシアの国土を汚し、 地球全体に迷惑ももちろんかけたが、その割合は少ない。 我々福島の場合には大量の放射性物質を海に流し出してしまって、もはや回収不可能ね。 地球全体を大量に汚したこの事故のどこがチェルノブイリの惨事より小さいのか教えていただきたい。
吉岡: 大きい小さいで言ってしまえば、 出した放射能の量はチェルノブイリの7分の1とか8分の1とか言われている。 海に流したものはもう回収不可能となっていて、先日もNHKだかでやってたように、 それは海底に滞留して茨城県、もうすぐ千葉県、もうすぐきっと東京都まで流れてくると思う。 それはそれで放射能災害とみれば深刻だろう。
 ただ、石橋さんが先ほど言われたのは、原子炉自体の爆発のような事故ではなかった、ということです。 今の質問者の意図は十分にわかっているつもりです。

質問者6:  私は今回の事故よりJCOの方が非常にショッキングだった。 JCOの事故では、臨界に気づいたのが遅れて、そんなことの積み重ねでいた。 あるテレビ番組で、“一介のオブザーバーが言うことをそう真剣に受け取れますか” というコメントをした先生がいて、 愕然とした。確かに肩書きは権力だからその高い人がリーダーシップだろうが、臨界についてそう知っている人は少ない。
 だから今回の福島の場合にはまず臨界をきちっと止めたことは大きかった。 その後は、政府などもたもたしていたみたいだが、似たようなことがあったんじゃないかと、私は非常に危惧している。 つまり、肩書きの高い低いで、正しい意見も抹殺されるようなことがあってもおかしくはない、 と感じているので、調査して欲しい。
吉岡: 質問の事故対応の調査については、 検証委員会がすると思う。私からのコメントは差し控える。

質問者7:  吉岡さんの講演で、なぜステーションブラックアウトを安全指針から除外してしまったんだろうかというという話の中で、 安全思想、安全指針、安全設計、という3段階の考え方が非常に重要と感じた。 我々日本人は、どうすればこの本来あるべき矢印の方向に転換できるのか教えて欲しい。
吉岡: 我々はモノづくりのつくり方を間違っている、これは原子力に限らず、 日本の産業は明治以来、外国から導入してやってきた。 図面をもらって作るだけで、その背景にあるものを学ばないでいる。日本の産業は新幹線など非常に少ない例を除いて、ほとんどそうだった。 私自身は僭越ながらもう少しちゃんとした論理で進むべきだったんじゃないかな、と思う。 したがって、指摘された通りだと思う。我々は原子力に限らず、飯野さんもさっきコメントしたように他の産業も見直さなければならない。

中尾:  今の質問に関して、消費者庁の紹介状をもらって 3月に欧州委員会に行ってきた。 欧州委員会でスタンダード(国際規格)を作る人たちのいろんな話を伺ってきた。 びっくりしたのは、ものすごくスタンダード作りに気合いを入れている事。日本にはそういう規則はない。 それなのに日本の信頼性が高いのは、メーカーが真面目さに起因している。 事故が起きて、顧客が怒るたびにはいはい対処しますって言って、すばらしいものができていくけど、 規則ってことになると、ほとんどない。安全指針なんてものがない。 だから日本人の体質でやっていて、原発だけ何か違うなんてことはない。 だから根幹の思想があって、それからこういう風なものだろうと指針を作り、スタンダードをつくって、 それから進めるという本来あるべき『要求機能から設計解まで落としていく』という、そもそもの思想がない。 それなのに、なぜここまでできたかと言うと、逆の思想。つまり、事故が起きたら、どんな小さいものでも、苦しくてもそれに対処してやってきた。
 で、これからどういうことが起きるかというと、守るべきスタンダードがないから外国製品がどんどん輸入され、 これから消費者庁のリコール、すなわち何か事故が起きて対処しなければならないものは全部海外製品になっていく。 このままいくと民生品を作る日本の会社はどんどん事業撤退した時に、ほとんどのものは外国製になってきて、 スタンダードがないから、すごく古い製品が入ってきてどうしようもなくなる。 生き残るためにどうしているかというと、ヨーロッパ規格とまったく同じにすればいいということで、欧米の規格を日本製に直しているだけ。 だからその体質を継承しているのが問題だと、私は言っているのだが、消費者庁は規格を作る気は全くなくて、 事故が起きたら考えますって、弁護士ような考え方です。『誰が悪いんだ、そっちに直させろ』って、ではなくて、 事故が起きる前にスタンダードをつくらなくちゃいけないと言い続けているけど、何も変わらない状況が続いている。

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