福島除染の提案と試行
畑村洋太郎(はたむら・ようたろう)、失敗学会会長
福島原発事故から約3年が経とうとしているが、強制的に避難させられた16万人のほとんどが帰還できないまま、震災関連死で多くの人が亡くなっている。帰還できない最大の理由の一つが除染が進まないことである。そこで筆者らは私的な「危険学プロジェクト」の活動として、放射性物質で汚染された土や樹木などを「集めない・運ばない・積み上げない」の3原則に基いて処理する「その場処理の深穴埋め」と称する除染方法を提案し、現地(福島県飯舘村比曽地区)で地元の方の協力を得て実験を行った。本講演ではこの考え方と試行の内容および暫定的な結果を紹介する。
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倫理と過失−すべてエンジニアが悪い?−
中尾政之(なかお・まさゆき)、東京大学大学院教授
技術者倫理の倫理は「行動に関する科学」を意味する。決して「人倫のみち、道徳」ではない。皆で合議して妥当で合理的な行動を選択すべきである。その成功例がドイツの脱原発倫理委員会である。そうすると、福島第一原発事故では、当事者のエンジニアは倫理的であっただろうか。もうひとつ、エンジニアは過失責任にも悩ませられる。渋谷のシエスタの爆発事故では、設計者には過失があっただろうか。一審の裁判記録から解釈する。社会は考え足らずのエンジニアを倫理で詰め、過失で罰する。それはエンジニアが死ぬまで続く。
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商品の使用ミスを防ぐための日米欧の規格比較
引地亮太(ひきち・りょうた)、東京大学 修士1年
国内で一般に流通している製品に不具合が生じた場合には、担当行政局の指導により、あるいは自主的に当該企業がリコールを届け出る。リコールの仕組みそのものは欧州や米国でも同様のものが存在するが、その基準に焦点を絞るとそれぞれに様々な特徴が明らかになってくる。今回は日欧米における規格基準に着目し、その比較から見えてくる日本が抱える問題点や改善点を提示する。
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Zunguriの魂−ゲームと失敗学分科会大分遠征報告−
ゲームと失敗学:斉藤貞幸(さいとう・さだゆき)
PCゲームでのバーチャル体験による知識共有から始まったゲームと失敗学分科会は、ゲームによる知識修得の効果を確認しました。その後、横浜港開港150周年記念博への出展を機に、実際に工作を行った結果を競うコンテストへと興味が移行しました。昨年は、スターリングエンジンの展示を行いましたが、今回は、自作エンジンをもって他流試合、日本機械学会主催の「低温度差スターリングエンジン競技会・発表会」に臨んだ結果を報告します。
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ワークショップ:組織の最適な意思決定を目指して
組織行動分科会:石橋明(いしばし・あきら)
組織の不適切な意思決定が事故や不祥事を招いた事例は枚挙にいとまがない。我が分科会では、組織行動学の視点から最適な組織の意思決定について研究している。ベストな意思決定には、正確な状況認識を要するうえに関係者間の良好なコミュニケーションが不可欠である。コミュニケーションスキルの重要性に関して皆様の豊富なご経験に基づいてグループディスカッションして頂くワークショップを展開します。どうぞご参加下さい。
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日本触媒姫路製造所アクリル酸タンク爆発火災事故
〜教訓に学ぶ
大阪分科会:平松雅伸(ひらまつ・まさのぶ)
吸水性樹脂原料のアクリル酸モノマータンクにて、温度制御等の不良から、モノマーが加速度的に重合し、重合反応熱が蓄積しついにはタンクの爆発火災を起こし、非常時対応中の消防士他の多数の死傷者を招く重大事故が発生した。 @事故の1次要因:モノマー安全管理から、基本の理解〜過去の事故事例が伝わらなかった技術伝承『Know Why〜How To』、A死傷者の7割が消防等関係者であった点を踏まえ、消防通報後の現場対応:事業者と消防の連携の重要性を考えたい。
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『私、失敗しないので』・・・と反省しない人達
〜原発事故と震災遺構から考える〜
講師:吉岡律夫(よしおか・りつお)
勉強会参加者:上原龍、飯野謙次、大澤勲
福島原発事故の収束宣言が出て2年後の今も事故やトラブルが続いており、不安視する市民は多い。一方、心配する原子力専門家は殆どいないように見え、新たな安全神話誕生とも思える。その差はどこから来たのか?を考える。また、失敗学会は失敗の現地・現物・現人を保存するという三現理論により、未来の失敗の防止を提言している。この三現理論の背景を考察し、東日本大震災の遺構保存が次々と失敗している現状について考える。
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