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海を越えた失敗学と創造教育

紀行文はこちら

【飯野謙次】
 タイ王国法人泰日経済技術振興協会[TPA: Technology Promotion Association (Thailand-Japan)]から「失敗学」のセミナーを行って欲しいと畑村会長に依頼があった。多忙のため、引き受けられない会長の代理でどうかと打診された僕は、一も二もなくお引き受けした。
 初めて訪れたタイでの観光については先に書いた。ここでは、失敗学と創造教育について報告する。

 TPAはタイにおける人材育成等の支援業務、選定された技術書・ビジネス書翻訳の事業を行っている。セミナー参加者は日本と何らかの関係があって TPA に登録している社会人が 30名。2日間をかけて、失敗学の紹介、演習、失敗の克服には創造が必要なこと、そして創造設計、創造設計演習を行う。何か身近なテーマを見つけ、そこから要求機能を有文化し、それを満たす創造的解決を組み上げたところで終了だ。
 毎日の仕事の中で失敗が発現したときにそれを目ざとく見つけ、どう対策を打てばよいかを考え、次に新しい価値を発見し、その価値を生み出すための方策を考える教育だ。主に大学院、社会人を対象に行っている『新たな着眼点と創造性育成』のための講座である。この講座は、タイ語⇐⇒日本語通訳氏のおかげで実現した。もちろんアウトプット型。受講生は個人課題をこなした後、グループになって自分たちが考えた創造的解決を発表する。
 言葉の違いはあったけど、日本での講座と進め方は同じである。受講生たちは熱心に取り組み、質問があったら休み時間に僕と通訳氏を取り囲んで離してくれなかった。

 受講生には不便(中尾先生によると違和感)を探して建屋内を徘徊してもらうなど、一風変わった講座であるが、成果は上々。終わるころには皆、思考展開図が描けるようになっていた。考えてもらった解決策の中に、特に光ったものを1つ、右の写真に紹介する。
 TPAの男子手洗いは、日本のように電気スイッチになっておらず、用を足した後にボタンを押したり、レバーを下げたりするタイプだった。まず手を触れないで水洗できるよう、足元に水のバルブスイッチを設ける。さらにその水をすぐに便器に落とさず、手をすすぐ手洗いを便器の上に設け、そこで手を洗ったら、その排水が便器を水洗してくれるというものだ。一人が便器の前で費やす時間が長くなるが、その分洗面器を減らせるので、巨視的な人の流れは変わらないのではないか。

 楽しい授業であったと共に、話す言葉の違う受講生に教えたのは良い経験だった。またひとつ、人はどこへ言っても同じと確信した。














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