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第128回フォーラム in 本郷

第2回福島原発における津波対策研究会
日 時: 2015年 6月 28日(日)
           13:00 - 17:00
場 所: 東京大学本郷キャンパス
           工学部2号館 31A室
参加費: 一般 2,000円、
           失敗学会員 1,000円。
参加者: 飯野謙次、中尾政之、
            淵上正朗、古川元晴、
            吉岡律夫、佐々正光、
            田中茂利、中村弘、
            松田拓道
            (以上、失敗学会員9名)
            外部識者等16名

 当研究会第1回については、先に報告した。その後、吉岡、淵上、古川、飯野、中尾は外部識者も交えて討論と検討を重ね、本研究会の命題に対する答えを次第に明らかにしていった。本研究会の命題は、以下の2つである。
(1) 福島原発において、巨大地震に伴う巨大津波を予測できたか?
(2) もし巨大津波が事前に予測されていたら、事前にどのような対策をすれば事故を回避できたか?
 まず(1)の命題に対しては、『福島原発において、巨大地震に伴う巨大津波を予測できた』との結論を得た。詳細は以下記事に詳しい。
      福島原発における津波対策研究会・中間報告書 (命題1)

 東京電力および規制庁は、福島第一原発を 15.7m の津波が襲ったときにどうすれば過酷事故を回避できるかということを検討せず、津波の発生そのものを否定することで、その必要な検討を行わなかったことは残念である。「人には見たくないものは見えない」という失敗学の教えそのものだ。
 次に、命題(2)である。第1回研究会後の検討で、著者らは、十分な容量の 125Vdc直流バッテリーさえ備えてあれば、津波来襲後数時間で起こった1号機の炉心溶融は回避できたことを明らかにした。さらに進行していた2号機、3号機の事故対策を破壊した12日の水素爆発も防げたと結論付けた。これは1、2日の延命措置である。詳細は以下記事に記してある。
      福島原発における津波対策研究 -第1報

 125Vdc直流バッテリーがあったとして、津波が来襲した直後に行えた対応は下図の通りである。この図は1号機の例で、2、3号機の場合は、非常用復水器(IC)が原子炉隔離時冷却系(RCIC)となる。

図 1 津波直後に125Vdc直流バッテリー備蓄で福島第一原発
1号機で取り得た1、2日間の過酷事故回避対策

 ただし、直流バッテリーをHPCI弁に接続してそれを開けるといっても、その時配電盤は水に浸かっているので単に接続したのではバッテリーをショートさせて使えなくするだけである。配電盤への直流接続を断ってから弁に電圧を供給しなければならない。この対応を迅速に行うには、事前に津波来襲、配電盤水没による全電源および直流電源喪失を想定した訓練を行っていなければならない。
 上記対応において、弁が閉じて復水機能を提供できなかった 1号機 IC について解説されたことがあった。これまでは電源喪失に伴い ICの4つの弁(上記第1報参照)が閉じたこと、つまり安全のためのfail-closeロジックがいけなかったように書かれることが多かったが、この閉ロジックは原子炉から格納容器(CV)の外に配管がつながっている IC管に搭載された遮断弁のものであり、IC管からの漏れを検知するセンサーへの電源が喪失されたときにIC弁を4つとも閉じるようになっていた。つまり、プラントの電源喪失ではなく、重大な蒸気漏れを検知するためのセンサーへの電源喪失によるもので、その電源が落ちて IC管の漏れを検知できなくなったら、IC弁を閉じるのは当然の考え方である。

 今回の検討では、DCだけで冷温停止に移行することは不可能と分かりAC復旧(AC電源車の事前準備)と、最終排熱の為のRHR復旧(修理または代替機)が不可欠、との結論となった。以下に詳細を述べる。

 HPCIやRCICは、復水貯蔵槽(CST)やCVの圧力制御プール(SC)の水を利用するものであり、海水ポンプが浸水して機能を喪失していた福島事故では、熱を格納容器から外部に逃がすことができず、崩壊熱が徐々に系全体の水を温めるため、いつまでも原子炉を冷やし続けることはできない。そこでどうしても必要になるのが、福島第二原発が行ったように、冷却機能を残留熱除去系(RHR)に切り替えることである。1号機の水素爆発が回避され、素早い対応ができたなら、安全逃し弁(SRV)による原子炉減圧やベントをすることもなく10時間程度でRHRを起動できたかもしれない(下図)。

図2 準備があればできた冷温停止に到達するための手順

 福島第一原発の1号機から5号機のRHRシステムは再循環系の再循環ポンプ上流から炉水を導き、熱交換器で冷却した後、再循環ポンプ下流と炉内に水を戻す RHRループと、その熱交換器に海水を循環させる RHRSループからなる(図3)。RHRループそのものは地震・津波被害を受けない地上階以上にあり、機能損失はそのポンプ駆動用モーターへの交流電源喪失だった。RHRSループは、ポンプを駆動するモーターが冠水して機能を損失した。海水ポンプは、O.P.(Onahama Peil: 小名浜港工事基準面)4mの敷地にあったのだから、15.7m の津波を仮定すればモーターの冠水、機能喪失は予測できた。

出典:「東日本大震災における 原子力発電所の影響と現在の状況について」東京電力
(http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/outline/pdf/f12np-gaiyou_1.pdf)

図3 福島第一のRHR系は、海水系を含めて2ループからなる

 以上より高圧電源車(各原子炉 RHRループとRHRSループに配電できるのに必要な台数)と、RHRSループの予備モーター、あるいはそのRHRSループモータが大きすぎて、交換が実際的でないなら福島第一5号機で使用した仮設電源と水中ポンプ[参考文献1, p.64]を用意してあれば、RHR機能は10時間程度で回復できたものと思われる。

 以下地震・津波対策を用意しておけば、福島第一原発の過酷事故は回避できた可能性は高い。
  1. 十分な容量と個数の 125Vdc バッテリー
  2. 高圧電源車
  3. 水中ポンプ(RHRS代替用)
  4. 交流電源喪失(SBO)、直流電源喪失、海水ポンプモーター喪失を想定した訓練

 次に、この過酷事故回避可能性をさらに高めるにはどんな準備が可能であったかを考える。
 図1、2では、1号機IC(2、3号機ではRCIC)の不稼動が確認できたら、HPCIを手動で稼動することとしている。HPCIはしかし、各原子炉に1系統しかなく、もしそれが地震等により不具合を起こしていたら、これら図の過酷事故回避策は手詰まりになる。2、3号機の RCICは直流電源でその弁を開閉できるのでよいが、1号機ICは、CV内のIC上流と下流に交流駆動弁(第1報参照)が1つずつあり、それらの駆動には交流電源が必要である。原子炉運転中はCV内は窒素ガスで充填されており、SBO 発生直後にそこに立ち入ることは実際的ではない。また、ICへの配管は原子炉建屋の比較的高い位置にあり、RHR に比べてここまで非常用交流電源を引き回すのは簡単ではない。1号機 ICのCV内2つの弁は、直流電源でCV外から開閉操作ができるようにしておけば、過酷事故回避可能性は大きくなる。
 さらに、IC (RCIC)、HPCIによる高圧冷却が限界まで来たとき、何らかの理由でRHR稼動の緊急対応までに時間がかかる場合も想定しなければならない。この場合はSRVを開いて減圧後、外部からディーゼル駆動消火ポンプ(DDFP)や消防車で注水、または格納容器スプレー(CCS)使用やベント実施で時間を稼ぐことが考えられる。考えられる延命手段をフロー図に書き込むと下図のようになる。

図4 確実に冷温停止に到達するための準備と手順

 この外部注水による冷却は、水源がある限り何日でももつ。これより、確実に冷温停止に到達するにはさらに、以下の準備が必要だった。
  1. 1号機 IC のCV内交流駆動弁はCV外から直流電源で開閉できるように改造
  2. ベントラインAO弁駆動用圧縮空気(小型コンプレッサーで足りた)
  3. 消防車(これは今回も用意してあった)
  4. 冷却用淡水の確保(ろ過水貯蔵タンクの配管耐震性を強化しておくなど)

 どこまで備えるかは、地震、津波、SBO、直流電源喪失後対応の成功確率等を計算する必要がある。また、この対応は福島第一発電所に限定された考察であり、現在再稼動を待っている他の原発でも、これだけの準備をすれば大丈夫というものでもない。他の原発では今回の福島事故に学び、津波に対する防護壁を準備して終わるのではなく、どんな防護壁であれ、それを乗り越えて津波がやってきたときに対応できる準備があるかどうか、評価することが必要であろう。
【飯野謙次】
参考文献
1. 福島原子力事故調査報告書(中間報告)2011年12月2日、東京電力
  http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu11_j/images/111202c.pdf





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