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長瀬ランダウア失敗学連載 2

第1回はこちら

失敗対策はどう打つか
事例に学ぶ
失敗学会 副会長・事務局長 飯野謙次

 「失敗学」を学び始めるときは身近な例、自分もよく知っている世界の中で起こった事件を引き合いに出し、その失敗事例の直接原因に始まり、背景要因、対策を考える練習をするのが良い。内容が良く理解でき、身につまされるからだ。
 世の中を大きくひっくり返し、その余波が今も続く福島原発事故だが、後から明らかにされた大失敗があった。事故対策で、線量計をつけずに現場に入った作業員がいたというのだ。累積線量が限度を越えると法律により作業ができなくなってしまう。線量計が足りなかったということもあったが、中にはわざと外して作業に当たった者もいたということだ。
 失敗の原因を考えるときは前回に紹介した失敗まんだらに原因を求めるのがわかりやすい。上記ケースは明らかに、“組織文化”、“安全意識”の問題である。その背景要因が生み出した直接原因の1つが、せっかく四国電力や柏崎刈羽原発から届いていた1,000 個近いポケット線量計を活用できなかったという“連絡不足”である。図1に根本的な背景要因と、その結果である直接原因をハイライトして示した。


図1 線量計不装着事件のまんだら原因分析


 このように組織の文化や意識に根幹原因がある場合は対策が難しい。どんなに知恵を絞っても、三人寄っても修正の仕組みはないからだ。組織のトップが率先して意識改革、正しい文化醸成を訴え、実行しなければならない。世の中には正しい文化の醸成に成功した例もある。
 酒酔い運転がいけないことは、しらふであれば誰でも思うことだ。これがしかし、突然の来客や友人づきあいが原因でいざ選択を迫られる状況におちいった時、数年前だったら悩んだ末に「まあ、少しなら」と考える人もいた。ところが2009年に施行された道路交通法改正をきっかけに「乗るなら飲まない、飲むなら乗らない」と考える人が圧倒的に多くなった。運転代行サービスの充実など、社会的な要因ももちろんある。意識改革や文化醸成は、皆で気をつけようなどと生ぬるいことを考えていたのでは中途半端に終わってしまう。組織のトップが意識を正し、それが末端に行き渡るまで繰り返し構成員に認識させ続けなければならない。
 ウェブ版毎日新聞に、今年4月1日から福島県が新たに設置した77台の簡易型空間放射線量測定器で異常が相次ぎ、同月22日に運用を中止したとある。同記事によると3月30日には原子力規制庁から13 台で通信テスト失敗の連絡があったにも関わらず、その情報がきちんと共有されないで試験運用を開始したものらしい。この事件の使用者側のまんだら原因分析は図2に示した。


図1 線量計不装着事件のまんだら原因分析


 日本の場合は4月1日が曲者である。この新年度の初日は何か新しいことの開始予定日に設定されることが多い。試験不足なのに運用開始を強行したのは2002 年のみずほ銀行と似ている。開始予定日ありきで、状態が十分ではないとわかっていても目をつぶってとりあえず走り出してしまう。この背景には、その日のために様々な式典が計画され、いわゆる「お偉いさん」の祝辞まで準備されていたら延期できないということだろう。背景には組織運営の問題が見え隠れする。
 このように、失敗原因のまんだら分析を行うと、組織の問題が浮き彫りにされる。失敗の原因分析を行う他の手法では、「背景や管理の問題も考えなければならない」とまでは言うものの、では具体的に管理の問題とはどういうものか視覚的にわかりやすい形で示さないことが多い。機械的に箇条書きにしてあっても、どうも頭に染み込みにくい。まんだらのように言葉が配置してあると、不思議にどの要因候補も同等に見え、全てをきちんと考察の俎上に乗せて考えなければ済まないように思える。
 この空間線量計不具合問題の対策を考えてみよう。プレーヤーは、運用、販売、そして製造の三者である。この事件では誰も利益を上げることなく信用が失墜した。対策は、どのプレーヤーにとっても同じで製品試験である。製造する者は自社製品が要求された機能を満たしていることを確認して出荷しなければならない。それを買い上げ、販売する者は粗悪品を掴まされないよう、受入検査をしなければならない。試験設備の問題もあるからその試験を製造者に託すこともあろうが、その場合は製品仕様書や契約で商品の性能を確保しなければならない。そして、利用者は自分が世に提供する機能が確実であることを試験しなければならないのは当然である。
 日本では古来、職人技という言葉があり、もっともらしく見える製品やサービスをそのまま信用してしまう傾向がある。もっと人を疑えと言うのでは決してない。怪我をしないよう自分を律し、製品・サービス提供者にもそれを当然のこととして要求することである。


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