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福岡タクシー事故に思う

飯野謙次
 12月3日、福岡でタクシーが病院に突っ込み、10人が死傷する事故がありました。詳細はネット上に他の記事があります。 この事故の後、友人とオフラインでいろいろ談義をし、機械系の先生方とも話しました。
 どうしても、あのタクシーの運転手さんがあの細い道でゆっくり走りながら、ブレーキとアクセルを踏み間違えると思えなかったのです。 そうは思えませんが、踏み間違えではないと証明することはできません。
 ネットでは、コンピュータの不具合を懸念する声もありますが、これも証明は困難でしょう。 調べてみると今の自動車には、何台ものマイクロプロセッサーが搭載されています。それも 8bit から 32bit のものまであるようです。私のパソコンには、32bit のマイクロプロセッサーが1台、搭載されており、すべての中心的存在です。 それがたまにですが不具合を起こし、電源ボタンを長押しして強制的に電源を落とす必要があります。 原因は、マイクロプロセッサー以外かも知れませんが、マイクロプロセッサーが何もできなくなることは間違いありません。 このような不具合は、再現しようにも系が複雑すぎてできません。
 ネットをみるとここのところ、運転席マットという説まで出てきました。数年前のアメリカでのトヨタ車暴走リコール事件を思い出します。

 そこで思い出したのが、11月にアメリカに行って借りたベンツです。予約したのはベンツではなく、普通のアメ車だったのですが、 たまたまそれらが出払っていて、ラッキーなアップブレードでした。 新しいということもあって、ギアのシフトノブには最初戸惑いました。その写真は撮らなかったので、 ネットで探した写真をトレースしたのが、下左の図です。右の写真は、以前に借りたドッジのデュランゴのシフトノブ。 これも、小型SUVを予約したのにやはり出払っていたためのラッキーなアップグレードでした。このシフトノブは、 あまりに不思議だったので、写真に撮ってありました。
ベンツのシフトレバー ドッジ、デュランゴのシフトレバー

 デュランゴには、ブレーキペダルの左に踏みしめるタイプのサイドブレーキがありましたが、ベンツにはなかったように思います。 踏んだり、引っ張ったりした覚えがないので、あったにしてもわかりにくすぎます。ネットで調べてみると、 最近はサイドブレーキのレバーやペダルのない車が出てきたようです。
 運転してみると、なるほどブレーキを踏んでエンジンを始動し、ギアを R か D に入れて、左手の下にリリースハンドルはありますが、 それを引くのを忘れてそのままアクセルペダルを少し踏むと、P のランプが消えてサイドブレーキがリリースされます。これは便利です。 以前のように、サイドブレーキをかけたまま、忘れて引きずることがありません。
 この最近のシフトノブの、違和感のある変わりように、アメリカの Consumer Report (消費者報告書)は、警鐘を鳴らしています (Can unfamiliarity with a shifter-gear lever cause a tragedy?)。
 シフトの違和感ではありませんが、今回の福岡の事故を知り、友人との話し合いを通してハタと考えたことがあります。 それは、“サイドブレーキまで、電子制御に頼ってしまっていいのだろうか” ということです。 事故があったプリウスに、踏み込み式のサイドブレーキがあったかどうかは知りません。 運転手さんは、ブレーキが効がないので、シフトダウンをしようとしたとのことでした。 だから、今回の事故はあくまでもこの考察の契機になったというだけです。
 一昔前のサイドブレーキは、引きずることがあったように、走っている車を急に制動することは難しいかも知れません。 それでも、山道の下りでエンジンブレーキをかけないでブレーキを踏みすぎて起こる“フェード現象”や“ペーパーロック現象”の際には、 サイドブレーキを引き、ギアを入れてエンジンブレーキをかけ、それでも減速できないときは、緊急待避ランプを探して乗り上げるか、 ガードレールや山肌にボディを擦りつけても車を止めなければならないと教わりました。当事は、山道の待避ランプを目にしては、 おののいたものです。
 工場ではどんな機械でも、緊急停止ボタンがあります。大きなキノコ型をした、真っ赤なボタンです。全国の踏切には、 非常停止ボタンがあります。工場の機械では、そのときは何か理由がわからなくても、機械が暴走したり、 止まらなくなったりすることがあるから、そのときに押すための緊急停止ボタンがわかりやすいところに配してあります。 車からサイドブレーキのレバーやペダルがなくなると、それは非常停止ボタンを取り外しているのと同じではないでしょうか。
 電子制御を過信すると、事故は起こります。人間が作った電子機器は完全ではなく、時には不具合を起こします。 六本木ヒルズの自動回転ドアでは、ドアに駆け込もうとした男の子をセンサーが検知できずに、そのまま回り続けようとして悲劇が起こりました。
 福岡のタクシー事故では、過失か、不具合か、それともマットが原因か、結局わからずじまいになる可能性があります。 しかし、ここのところの電子技術の発展で、自動車がどんどん便利になっていき、それが大事故を引き起こす力を持った、 何トンもの動く機械だということを私たちは忘れてしまったのかもしれません。 電子的ではなく、小さいながらも人間の出す筋力を機械的に伝える緊急停止メカニズムを考え直す時が来たようです。


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