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  仮定法コミュニケーションのすすめ

 人間というのは、自分にとって都合の良いことしか言わないという傾向があるというが、これはまるで人間の特徴そのものだと思う。何故そういえるのかというと、それは人というのは自分にとって都合の悪いことは見えないというのである。会社帰りの酒の席なんかでは、「ウチの課長ときたら全く…」だとか「所詮、アイツは」だとか愚痴を漏らすばかり。
 そんな中、誰かが「もし、君が社長だったらどうするの?」と言ったとしても質問を受けた相手はこう言うに違いない。「そんなこと、自分には関係のないことだし、その立場になってから考えればいいじゃない」自分で自分の頭をとにもかくにもフリーズしまくり。こういう姿勢でいるのは、確かにその人にとっては楽なのかもしれない。だがそうはいかないこともありうる。それは、具体例を挙げるとすれば、マニュアルが定められた事以外の事態が起こった場合である。
 工場で働く場合、大半の人は作業マニュアルさえあればそれで業務はスムーズに行われていることになっている。マニュアル以外の出来事は「あってはならない」「考えてはいけない」「これさえすれば、それでいい」というだけで、自分で何かを考えなければならないという思考術は育たない。想定外の出来事なんて、とにかくありまくり。企業不祥事の原因の殆どが自分で考えて行動するという思考術の欠如が招いている。仮説でも良いから、とにかく自分でモノを考える癖をつけなければならない。それができるかどうかで、結果はまた違ってくるかもしれない。
 仮説として考えることは、とにかく真面目な人間にとっては非常に抵抗感があるものといわれている。「何故そういえるのか」という攻撃として返ってくる。これは、思考というよりも本能といえる。仮説でモノを考えるということは、あまり聞いたことがないという人はとにかく多い。しかし、実際、生活の中で仮定法コミュニケーションをしている人は決して少なくはない。例えば雨の日に「雨が降ってる。こんな日は、外を出歩く人は少ないに違いない。よし、レストランへ行こう」と言ったとする。それでレストランが空いているとしたら、「よし、OK!次もこの手で行こう」ということになるのである。仮定として考えて行動することは役に立つことがある。モノはとにかく、考えようである。
 会話の中で「万が一ってこともある。とにかく、自分で考えてみてくれないか」ということはある。仮定法コミュニケーションをすることによって、将来に起こるかもしれない危険を回避できる可能性は大きくなることがある。『世の中には確かなものは無いと言って良い』と榊原英資氏はそう述べている。これは私の考えであるが、世の中にある定説というものは全てが貞節であると推定されているのに過ぎないということだ。何が言いたいのかというと、定説といわれているものはそれはあくまでも推定論が無意識のうちに定説とされてしまったというのある。仮定的な考え方で物事を考えるというのは、株式会社畑村創造工学研究所の畑村洋太郎社長が言う「周りの人間と一緒に進む道と、一人で進む道」の後者の生き方であると考えられる。現代はインターネットがありこれを使うことで確かに楽になっている。だが、楽だとか便利だということで、自分で危険かどうかも判断しないで生活しているという安易な道を進んだがために、危険を認識できないというデメリットが多いということは決して少なくはない。便利さは、慣れてくると危険すら認識できなくなってしまう。
 「もし、君が経営者としての立場ならばどうするの?」と質問され「そうだね。僕も彼と同じ立場になるよね」だとか「そうねぇ。オレだったら、エリクソン式の経営スタイルを貫くよ」といった会話をするだけでも頭の使い方は劇的に変わってくる。全ては考え方によるのである。仮定でも良いから常に学習をしている人と、仮説など所詮は役に立たないしこれさえしていればそれで良い、という思考方法を比較してみるとどう考えたかって前者の方が独創性がある。前者の生き方をしている会社というのは畑村社長が言う『真のベテラン』だと思う。真のベテランとしての生き方はリスクを予め回避することができ、世の中が求めている要求機能だといえる。健全な機構があれば、これといった問題はまず起きない。全ては心構え次第なのである。不祥事が起きてからの対応をする時、その行為者というのは思考停止状態にある。クライシスコミュニケーションというのは想定外の出来事なのだ(失敗学会会員・有限会社エンカツ社の宇於崎裕美社長の提言した概念)。クライシスコミュニケーションを上手く取ることができる人というのは少ない。大半はあたふたするに違いない。
 仮定でも良いから、とにかく自分なりの考えを持たなければならない。それができるかどうかが、人生を生きていく大きな鍵となるのである。自分の考えの無い人間は決して上手く生きていくことはできない。また、こういった人は仮定法コミュニケーションが上手く、想定外の出来事であろうと上手に対処できるだろう。
 議論をするよりも共感する、失敗を責めず(ある程度は)許容する、真面目というだけでなく遊び心がある、などである。ある経営者がこういったことを言っている。「よく遊ぶ人ほど、実はよくデキる」と。


○参考文献○

99.9%は仮説(竹内薫、光文社)
仮説思考(内田和成、東洋経済新報社)
バカの壁(養老孟司、新潮社)
裸の王様(ビートたけし、新潮社)
ハイ・コンセプト(D・ピンク、三笠書房・大前研一が訳)
ビジネス人間学(H・マッケイ、日本経済新聞社)
人が育つ会社をつくる(高橋俊介、日本経済新聞社)
希望のみつけかた(A・パタゴス、日経BP社)
ザ・プロフェッショナル(大前研一、ダイヤモンド社)
私はこうして発想する(大前研一、文藝春秋)
起業と倒産の失敗学(畑村洋太郎、文藝春秋)
失敗学のすすめ(畑村洋太郎、講談社)
失敗を生かす仕事術(畑村洋太郎、講談社)
創造学のすすめ(畑村洋太郎、講談社)
数学的思考法(芳沢光雄、講談社) 
大転換思考のすすめ(畑村洋太郎および山田真次郎、講談社)
エリクソンの脱カリスマ管理術(H・バーキンソーなど、講談社)
使う力(御立尚資、PHP)
疑う力の習慣術(和田秀樹、PHP)
30歳からの十倍差がつく勉強法(和田秀樹、PHP)
変わる!思考術(畑村洋太郎、PHP)