失敗事例

事例名称 タンカーの座礁でオイルが流出
代表図
事例発生日付 1993年01月05日
事例発生地 スコットランド(英国所有)、シェットランド
事例発生場所 シェットランド諸島海域
事例概要 リベリア籍米所有の大型タンカー・A号が、カナダのケベックに向けて航行中に英国北部シェットランド諸島で座礁し、積載してたノルウェー産の全軽質原油84,700トンを流出した。荒天により空気管が損傷し、燃料に海水が混入したことにより、機関が停止。コントロールを失ったA号は座礁に至り、オイルが流出する事故となった。
事象 リベリア籍米所有の大型タンカー・A号が、カナダのケベックに向けて航行中に英国北部シェットランド諸島で座礁し、積載してたノルウェー産の全軽質原油84,700トン(1100万ドル相当)を流出した。オイル流出により、諸島周辺に生息する海鳥、鮭、鱒、アザラシなどの生態系に影響を及ぼしたが、荒天がオイルを散乱させたので、環境への被害は比較的小さかった。さらに英国の法律により汚染による損害(清浄費含む)においてA号の責任限度額は800万ドルとなっており、オイル流出により損害を蒙った被害者にも国際油濁補償基金により賠償責任が保証されている。しかし、シェットランド諸島は主に観光産業を中心に繁栄しており、オイル流出がシェットランド諸島から観光客の脚を退け、小さな島では他に選択肢がなく、住民が職を失うなどの間接的な被害が報告されている。
経過 A号のエンジンが午前5時頃停止し沿岸警備隊に連絡が入った。そして救助活動が行われ、34人の乗組員のうち、主要乗組員を除く14人が8時25分にヘリコプターで救助された。その後タンカーの沈没が懸念され、タンカーを見捨てて残りの乗組員の救助が計画されていた頃、救助船が到着。タンカーの牽引が試みられ、キャプテンを含む残りの乗組員がヘリコプターで救助船に移された。しかし、牽引は失敗、11時19分にオイルが海に流れ出した。その頃船にいた救助隊もヘリコプターで避難した。流れ出したオイルは荒天により全く回収できなかったが、その荒天により流出したオイルが散乱し油膜が形成されなかったため、今事故でのオイル流出量が過去11番目に大きなものであるにも関わらず、環境への被害は比較的小さかった。
原因 事故の原因は、荒天により空気管が損傷し、燃料に海水が混入したことにより、機関が停止。コントロールを失ったA号は座礁に至り、オイルが流出する事故となった。
対処 英国航空機で化学分散剤を海に投与しオイルの分散を促した。
対策 今事故後、 燃料管の二重化、タンカーへの非常用曳航装置の義務付け等の再発防止策が国際海事機関(IMO)で検討され、1994年に海上人命安全条約(SOLAS)が改正された。
知識化 今事故の原因が自然災害である他にオイルの必要性が高い西洋文化が要因していると言う見方も報告されている。タンカーはカナダにオイルを運ぶ途中であり、オイルに変わる他のエネルギー源が使用されるようになれば、今回起こったような事故は将来防げるとされている。
背景 今事故は災害によるものであるが、環境学者によると加齢による輸送船の老化と船体が一重でしか造られていないことから、将来の災害を予見できるとされていた。
後日談 事後1年目には、オイル流出の目立った痕跡は殆どなく、シェットランド諸島産の魚介類に引かれた制約が解かれた(一部の甲殻類を除く)。しかし、観光、運輸、環境、水産、養殖などの産業の間接的な損失における問題はまだ完全に解決に至っていない。
データベース登録の
動機
オイル流出事故と言えば、まず環境汚染が問題にされるが今事故がシェットランド諸島のような小さな島に与えた経済的影響がどれだけ大きかったか、その背後に存在する間接的な問題を理解してほしかった。
シナリオ
主シナリオ 不注意、注意・用心不足、保守時の不注意、環境変化への対応不良、使用環境変化、自然的条件変化、嵐、材料的要因、脆性、衝撃、破断、原油、塩水浸入、材料強度不足、漏洩、流体、汚染、建設
情報源 http://www.american.edu/ted/SHETLAND.HTM
http://www.wildlife.shetland.co.uk/braer/index.html#Index
死者数 0
負傷者数 0
物的被害 海鳥1542羽、商業用鮭数千パウンド、アザラシ10匹、そしてカワウソ4匹死亡。
被害金額 1820万ポンド(2000年までの観光産業の損失予想額)
分野 機械
データ作成者 ユリエローディ (SYDROSE LP)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)