失敗事例

事例名称 橋が開通するも、人の歩行と強風による揺れで閉鎖
代表図
事例発生日付 2000年06月12日
事例発生地 英国、ロンドン
事例発生場所 ミレニアム・ブリッジ
事例概要 ロンドンの金融街にかかったミレニアム・ブリッジが、開通後左右に大きく揺れ出し、3日後に閉鎖された。原因は想定以上の人数が一度に橋を渡り始めたこととで、大きな揺れが引き起こされたと言われている。
事象 ロンドンの金融街にミレニアム・ブリッジと呼ばれる新しい橋がかかった。テムズ川に百有余年ぶりにかかったこの橋は、デザインを担当したノーマン卿が「テムズ川をかすめて飛ぶ光の翼」をイメージしたという代物である。しかし、一般公開初日、約10万人が参加したが、すぐに橋が左右に大きく揺れ出した。安全性を考慮した結果、橋は開通3日後に閉鎖され、補強工事が行われることになった。
経過 この橋は、ロンドンの金融街にあるセント・ポール大聖堂と、テムズ川を挟んでその対岸にあり本年5月にオープンしたテート現代美術館とを結ぶ、歩行者専用のアルミ製のつり橋で、約3,000万ドルの建設費用がかけられた。水面からの高さは10.8メートル、長さは約330メートルで世界最長の歩行者専用の橋である。一般公開初日、約10万人が参加したが、すぐに橋が左右に大きく揺れ出した。安全性を考慮した結果、初日の午後以降は警察が出動して、1回に橋を渡る人数が2分ごとに30人に制限された。そして、3日後の夕刻には橋が閉鎖され、補強工事が行われることになった。
原因 橋の専門家によると、この橋はもともとつり橋方式なので、ある程度は揺れるように出来ているが、折からの強風と、想定以上の人数が一度に橋を渡り始めたこととで、大きな揺れが引き起こされたと言われている。人は混雑した状況で歩行するとき、お互いにぶつからないように、自動的に歩調を合わせる性質がある。そして、人々が橋を歩き始めたときにかかる下向きの力と同様に、人の体重が脚から脚へ移動されるときに横向きの力が発生し、橋が揺れだしたという説である。いったん揺れが起こると、他の人々の歩調も自動的に橋の揺れに合わせて再調整され、揺れをさらに誘発する。
対処 一回に橋を渡る人数を制限した。
対策 その後、橋の専門家が調査し、500万ポンド(約9億円)をかけて衝撃吸収材などを用いた補修工事が行われた。
知識化 今回の橋の揺れは、建築業界では重要視されていない、人間の心理学的な要因が影響していた。大規模な建築物の創造には、あらゆる角度からの見解が必要である。
背景 不明。
後日談 橋が閉鎖された翌年の1/31、ボランティアを含む約2,000人が橋の「揺れテスト」に参加し、以前のような激しい揺れが起こらないことが確認された。橋の建設を手がけた建設会社は、今回の試験データをもとに、さらに安全検査をすすめる予定としている。
【追補;2010年3月】
橋の揺れの原因が歩行者にあると推定し、7月から数百人の歩行者による試験が実施され、激しい横揺れは歩行者による共鳴現象が原因とされた。このような現象は、ミレニアム橋ばかりでなく、振動周波数がほぼ1.3Hzの他の橋でも多くの歩行者による荷重で起こると結論づけられた。
対策は、橋の横方向と縦方向のダンピングにTune Mass DumperとViscos Dumperを取り付けて、振動を共振しない周波数に制御している。
よもやま話 一方、同じく2000年を記念してグリニッジに建築された「ミレニアム・ドーム」の来場者が伸び悩み、完成から1年も経たないうちに売却話が持ち上がった。日本の野村グループが興味を示したが、双方の話の食い違いで商談は決裂、今年いっぱいでドームは閉鎖を余儀なくされている状態である。
データベース登録の
動機
建築関係の専門家が想定できなかった要因で引き起こされた問題を紹介したかった。
シナリオ
主シナリオ 調査・検討の不足、環境調査不足、安全対策不足、調査・検討の不足、仮想演習不足、環境変化への対応不良、使用環境変化、人為的条件変化、機械的連鎖反応、振動、繰返し応力
情報源 http://www.abcnews.go.com/sections/world/DailyNews/bridge000612.html
http://www.bbc.co.uk/science/scienceshack/articles/science
/e_millbridges.shtml
死者数 0
負傷者数 0
全経済損失 500万ポンドの補修工事
社会への影響 2000年を記念して創造された橋やドームに問題が生じ、地元住民の失望が大きい。
分野 機械
データ作成者 ユリエローディ (SYDROSE LP)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)