失敗事例

事例名称 スカッドミサイルの追撃・阻止の失敗による兵舎の被爆
代表図
事例発生日付 1991年02月25日
事例発生地 サウジアラビア、Dharan
事例発生場所 パトリオットミサイルの砲台
事例概要 パトリオットミサイルがスカッドミサイルを追跡・阻止できなかった。
事象 湾岸戦争時に米軍パトリオットミサイルの備砲が、攻撃してくるイラクのスカッドミサイルを追跡・阻止できなかったために、米国軍の兵舎が攻撃された。
経過 パトリオットミサイルのコンピュータが起動されてから 100 時間が経過していた。イラクのスカッドミサイルが米国軍の兵舎に向かって発射されたため、兵舎に辿り着く前に打ち落とすべく、パトリオットミサイルを発射した。パトリオットミサイルのコンピュータが予測した空域にミサイルが現れず、追撃に失敗し、兵舎が攻撃された。
原因 コンピュータの丸め誤差。時刻をコンピュータの内部時計から算出するため、起動後からの経過時間が長ければ長いほど、実際の時刻からのずれが大きくなってしまう。事件当時、コンピュータの起動から 100 時間が経過しており、その時のずれは約 1/3 秒。スカッドミサイルがその時間内に約 500m 移動できる程度にまで広がっていた。
対処 不能
対策 アラバマ州ハンツビルのパトリオット・プロジェクト・オフィスでソフトの改善が何度も行われた。その後も検査が行われた。
知識化 小さな誤差が時間の経過に伴い拡大し、大きな事故につながることがある。人それぞれ「長時間」などという説明的語のいう受け取り方が異なり、重要な連絡などは明確に行う必要がある。
背景 これ以前にはパトリオットはスカッドミサイルに対する防御として利用されておらず、また長時間継続して使用するつもりではなかった。この事故の2週間前にイスラエルからのデータにより、8時間以上継続して使用すると、精度が低下することが分かり、ソフトの改善を行った。また、長時間継続使用しないこと、改善されたソフトが送付されることを知らせた。しかし、幹部は100時間もの長時間の継続した使用を予想していなかったので、長時間というのがはっきりと「何時間」という形で示されてはいなかった。システムを再起動させることにより、長時間継続使用による誤差の発生は防ぐことができたとも言われている。再起動は約60秒から90秒で行える。全ての情報が正しく伝わっており、再起動が行われていれば、この事故が防げた可能性もあるが、上記で述べたとおりマッハ5で移動するスカッドに対しての使用は初めてであり、また戦争の恐怖の中、たとえ1分でもミサイルを検知する装置を止めるのは、不安であると予想できる。
後日談 改善されたソフトは事故の翌日に現地に到着。その後もデザート・ストームでの経験やデータを使って何度も改善が行われた。1991年6月から1992年1月には各種検査が行われた。
データベース登録の
動機
湾岸戦争時に空中で相手のミサイルを破壊するという映画のような状況がテレビで報道され、パトリオットの活躍が人々を感動させたが、成功にいたるまでの問題から学ぶことがあると感じた。
シナリオ
主シナリオ 無知、知識不足、過去情報不足、調査・検討の不足、事前検討不足、予期せぬ使用環境、手順、試験
情報源 http://www.ima.umn.edu/~arnold/disasters/patriot.html
http://www.fas.org/spp/starwars/gao/im92026.htm
死者数 28
負傷者数 100
物的被害 米国軍兵舎が破壊された。
備考 負傷者は約 100 人。
分野 機械
データ作成者 ケイコオオクシ (SYDROSE LP)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)