失敗事例

事例名称 構造の欠陥と弱体化によるブリッジ・タワー崩壊事故
代表図
事例発生日付 2002年07月14日
事例発生地 アメリカ合衆国フロリダ州マイアミ市マイアミリバー
事例発生場所 マイアミリバーにかかるウェスト・フラグラー・ストリート・ブリッジ
事例概要 7月14日午後、マイアミ市中心街にある跳ね橋、ウェスト・フラグラー・ストリート・ブリッジのコントロールタワーが崩壊、この跳ね橋のオペレーターが下敷きになった。また、この事故のために橋上の道路、橋下の水路の交通が中断された。
事象 2002年7月14日午後3時半ごろ、マイアミ中心街と、イースト・リトルハバナと呼ばれる地域とを結ぶ跳ね橋、ウェスト・フラグラー・ストリート・ブリッジのコントロールタワーが崩壊。2階建てのコントロールタワーは、3mから6m以上にわたって崩れた。タワーで勤務中だったオペレーター、Aさんは、建物の下敷きとなり、約17分後に救助されたが、両脚の骨折などの重傷を負った。約1万台の車が毎日利用するこの橋は、通行止めとなり、またこの橋下を通ってカリビア海とマイアミとを行き来する商業船、観光ボートの往来も停止された。
経過 日々1万台の車が行き来する跳ね橋、ウェスト・フラグラー・ストリート・ブリッジは、フロリダ州運輸省によって管理されている。通常跳ね橋のコントロールタワーは、橋の上に建てられているが、この橋の場合は橋の北側にコントロールタワーが連結され、各種の船の航行時に跳ね橋の開閉を行う。事故当日、船の航行を追えて橋が再開通して間もなくの午後3時30分ごろ、コンクリート造りのコントロールタワーが橋の下の乗船場に滑り落ちる形で崩壊し、水面の東側の乗船場に倒れた。付近には衝撃で割れたガラスが散乱。崩壊現場の数フィート先にはアクト・マリンサービスのビルがあったが、被害を免れている。事故当時タワーに勤務中だったオペレーターが建物の下敷きとなり、約17分後に救助されたが、脚の骨折などの重傷を負った。
原因 降り続いた大雨と、事故に先んじて起きていた橋への船の衝突のために、2階建てのコントロールタワーの構造が弱体化していたことが、当初は崩壊の原因と推定された。しかし、後の調査で、築38年のこの橋とコントロールタワーとを結ぶ構造に欠陥が発見された。2階建てのコントロールタワーは、橋の北東から下がる1対のコンクリート製アームの上に建てられており、このアームは12本のスティール製補強ロッド(それぞれが厚さ約3cmで末端が鉤型になっている)によって支えられている。ところが、この橋のために1964年に提出された青写真上では、このロッドは橋の北側桟橋壁下のスティールグリッドに接続されておらず、セメントの中に埋め込まれいるだけなのである。さらに、橋の梁とコントロールタワーの壁の上端とを結ぶ補強スティールのうち見当たらないものが数本あるとも報告された。こうした欠陥を抱えながらも38年間崩壊を免れたのは、コントロールタワーが橋の他の箇所とも連結されていたため、その重量と圧力が分散されてきたためとされる。この他、激しい雨と、5年前に実施された電気配線改良工事時に開けられた保全用の穴などが、構造の弱体化をさらに推し進めたことも指摘されている。ちなみに、マイアミのこの地域では跳ね橋の安全点検が毎年実施されるが、前年の2001年8月21日に行われた当橋の検査では、大きな問題点は報告されていない。
対処 修理が終了するまで地上の交通が停止され、迂回路が用意された。マイアミ川の水上交通はこの橋に依存しているため、事故後数時間で跳ね橋が上げられ 船の往来が再開した。
対策 フロリダ州建設省の検査官が南フロリダ全域に派遣され、建設省および郡市町村管轄の跳ね橋の点検を行い、構造上の問題点等を細部に至るまで調査した。
知識化 橋の建設計画青写真にすでに見られた構造上の欠陥が、毎年の定期検査にもかかわらず、事故に至るまで発見されなかったという事実は重大である。定期検査内容の問い直し、また、現在の建築基準設定以前に建設された橋の徹底的な再点検及び補強策が必要であろう。
背景 マイアミのこの地域では、跳ね橋の安全点検は毎年実施が義務付けられており、2001年8月21日に行われた当橋の検査では、大きな問題点は報告されていない。しかしながら、事故後の調査ではこの橋とコントロールタワーとを結ぶ構造に欠陥があることが発見されており、建築青写真の段階ですでに問題を抱えていたことが明らかになっている。事故前に大雨が降り続き地盤がゆるんでいたこと、5年前に実施された電気配線改良工事時に開けられた保全用の穴などが、構造の弱体化をさらに推し進め、この事故が発生したと考えられる。人的被害が少なくてすんだのは当日が日曜日で、交通量が少なかったことも影響している。
後日談 この事故後、南フロリダ各地の跳ね橋に構造点検が入ったが、それぞれの跳ね橋のコントロールタワーに勤務するオペレーターは皆「自分のところは大丈夫だろうか」と不安に感じたようだ。2002年7月21日付のマイアミヘラルド紙は、跳ね橋オペレーター歴10年のリー・アダムス氏にインタビュー。べネシャン・コーザウェイ・ブリッジのオペレーターである氏は「この橋は新しいから心配いらない。それより、橋の上を走る車と橋の下を航行する船の事故の方が心配だ」と語っている。確かに、交通事故、海難事故の方が、橋の崩壊よりずっと起こる確率は高いはずである。
よもやま話 南フロリダにあるジョーフィッシュ・クリーク・ブリッジが、崩壊したフラグラー・ストリート・ブリッジと同様の技術で建設されていることが判明した。補強用の支えはすでに用いられているが、今後さらに強化策を投じることが考慮されている。
データベース登録の
動機
当初は橋の崩壊と思ったが、実際は、跳ね橋の開閉を調節するコントロールタワーの崩壊であった。
シナリオ
主シナリオ 製作、ハード製作、建設的要因、建設、誤判断、誤った理解、詳細計画ミス、コンクリートと鉄筋、破損、破壊・損傷、材料強度不足、破断、破損、大規模破損、崩壊、身体的被害、負傷
情報源 http://www.miami.com/mld/miamiherald/news/local/3684042.htm
http://www.miami.com/mld/miamiherald/news/local/3691540.htm マイアミヘラルド紙7月15日付け記事「Bridge’s tower collapses」、17日付け記事「Statewide bridge probe is ordered;」、21日付記事「Bridge tender enjoys easy pace on Biscayne Bay;」
http://www.miami.com/mld/miamiherald/news/local/3691540.htm マイアミヘラルド紙 17日付け記事「Statewide bridge probe is ordered;」
http://www.miami.com/mld/miamiherald/news/local/3691540.htm マイアミヘラルド紙 21日付記事「Bridge tender enjoys easy pace on Biscayne Bay;」
オーランドセンティネル紙7月15日付記事「Bridge Tender Hurt in Tower Collapse」(ページB1)
死者数 0
負傷者数 1
物的被害 コントロールタワー崩壊。橋上道路交通の封鎖、迂回、橋下海上交通の封鎖。
被害金額 新コントロールタワーの建設に6カ月、金額で340万ドルがかかるとされる。
社会への影響 橋に関する事故であったため、テロリスト攻撃の可能性も当初疑われた。事故後、南フロリダの他の跳ね橋のすべてに点検が行われた。
分野 機械
データ作成者 タエコマエダ (SYDROSE LP)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)