失敗事例

事例名称 電気配線不具合によるA社航空機墜落事故
代表図
事例発生日付 1998年09月02日
事例発生地 カナダ、ノバスコシア州のPeggy's Cove近くの大西洋上
事例発生場所 大西洋上
事例概要 1998年9月2日午後10時31分(local Atlantic Daylight Saving Time [ADT]) 、アメリカ、ニューヨーク州ニューヨーク発スイス、ジュネーブ行きA社航空A便(B社航空との共同運航便)B社製B型機が、電気配線不具合によりコックピット内に煙が発生し、カナダ、ノバスコシア州のPeggy's Cove近くの大西洋上に墜落した。この事故で乗員14名、乗客215名、計229名全員が死亡した。本件はA社航空の設立以来最悪の事故となった。
事象 1998年9月2日午後9時18分にニューヨークのジョン・F・ケネディー空港を離陸後、午後10時11分、コックピット内に異常な臭気が発生。すぐに煙がコックピット内に充満しはじめたためパイロットは管制センターに緊急事態を報告し、ボストンに緊急着陸を要請した。が、その後連絡が途絶え、午後10時31分にカナダ・ノバスコシア州のPeggy's Cove近くの大西洋上に墜落した。
経過 1998年9月2日午後9時18分にジョン・F・ケネディー空港を離陸後、午後10時11分、高度33000ftを巡航中に、コックピット内に異常な臭気を生じた。その3分半の間に煙が立ち込め始めたため、パイロットは国際緊急信号「Pan Pan Pan」をMoncton地域管制センターに送信するとともに管制官にコックピット内の煙について報告、緊急事態を宣言し、ボストンに緊急着陸を要請した。この時事故機はカナダ・ノバスコシア州ハリファクスの南西58kmを飛行しており、管制官はボストンより近距離のカナダのハリファックス国際空港に着陸するように指示し、同空港への直行を許可した。事故機は着陸の準備を整えながら、すぐに着陸しなければならない差し迫った状況であることを管制官に伝えていたが、同空港に進入中、燃料を捨てるとの交信を最後に消息を絶った。その後、午後10時31分、カナダ、ノバスコシア州のPeggy's Cove近くの大西洋上に墜落した。フライトデータレコーダー(FDR)とコックピットボイスレコーダー(CVR)は両方とも墜落の6分前、高度10000ftを飛行中に記録を停止していた。
原因 事故機のフライトデータレコーダー(FDR)とコックピットボイスレコーダー(CVR)には事故直前の数分間の記録が欠けているため、利用できる情報には大きな空白があった。また、調査官たちは事故機の残骸を求めて、悪天候及び回収困難な海と戦わなければならなかった。そのため根本的原因の究明が遅れた。事故機の残骸を調査した結果、操縦室周辺の電気配線に熱による損傷が発見され、また、ほかの同型機の同じ個所からも配線ミスが見つかった。これにより、事故機と同型のB社製B型機の電気配線に安全上の問題があり、電気配線の磨耗および老朽化と関係があることがわかった。実際、操縦席の配線系統に過熱の痕跡が発見されており、墜落直前にコクピット内で異常な白煙が出ていたことが確認されている。
対処 機体は衝突の衝撃でばらばらになった。60mの深さの海に散らばっていた事故機の残骸回収作業を開始。大型漁船を使って頑丈な網で海底をさらい、40m×80mの範囲の破片の回収を行なった。医療調査官たちは歯科記録、X線、DNAの照合を行ない、遺体の破片から身元確認をした。事故直後、事故調査委員会が、事故は熱損傷を受けた配線と関係があるかもしれないと示唆したため、A社航空はB社製B型機の豪華な客室内に装備されているハイテク娯楽システムを停止した。が、結局、事故機と同型のB社製B型機の電気配線に安全上の問題があり、電気配線の磨耗および老朽化と関係があることがわかった。 FAA(アメリカ連邦航空局)に対し、B社製B型機を使用している航空会社に操縦室周辺の配線を早急に点検させるよう勧告。B社製B型機をめぐっては、乗降用の扉周辺の電気配線が発火するおそれがあるとして、点検修理命令が出された。
対策 FAA(アメリカ連邦航空局)に対し、B社製B型機を使用している航空会社に操縦室周辺の配線を早急に点検させるよう勧告。
B社製B型機に対しては、乗降用の扉周辺の電気配線が発火するおそれがあるとして、点検修理命令が出された。日本国内では、日本航空がMD11型機を当時十機所有しており、点検にあたることになった。
知識化 現在航空会社は、経済的に厳しい局面をむかえている。が、コスト削減やフライト・ディレイ回避のためにメインテナンス・チェックを怠るのは、本末転倒である。安全性を第一に考慮するには、危機管理を徹底し、過去の事故から学習し、事故を未然に防ぐ努力がさらに必要だと思われる。
背景 B社製B型機の自動操縦装置配線の設計の不備。メインテナンス・チェックの不備。危機感の喪失。特に、A社航空機事故の2年前のC社航空およびD社航空機墜落事故以来、運輸安全委員会では、老朽化した機体の電気配線問題について対策が論議されていた。それにもかかわらず、A社航空では機体の電気配線メンテナンス・チェックを入念に行わなかったために今回の事故が誘発されたと言える。
後日談 事故前は質の高いサービスで、搭乗したい航空会社ランキングでも常に上位をキープし続けていたA社航空が2001年10月に倒産した。倒産の原因は、米中枢同時テロによる乗客の大幅減が主な理由。また、A便墜落事故により、「世界一安全な航空会社」というプレミアが、完全に無くなってしまったことも追い打ちをかけた。破綻後のA社航空はE社が引き継いだ。
よもやま話 1998年10月11日の夜から12日の早朝にかけて、スイスのチューリヒのクローテン郊外にあるA社航空本社に強盗が入った。侵入した強盗は、書類と金を盗って行った。似たような事件が最近その近辺で発生していたが、スイスの日刊金融紙『ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング(新チューリヒ市民新聞)』は、「犯人は、9月2日に、A社航空のA便がノバスコシアの沖合に墜落し、229人が死亡した事件の書類を探していた」と報道した。 一部のマスコミでは、A社航空のA便の事故をテロおよびスパイ活動と結びつけて報道しているが、その真実は定かではない。
データベース登録の
動機
多数の犠牲者を生む航空機事故の知らせはあとを絶たない。一件一件の事故を詳しく見つめることにより、ひとつでも多くの事故を防ぐことができればと思い、このトピックを選択した。
シナリオ
主シナリオ 企画不良、戦略・企画不良、試験計画不良、不注意、注意・用心不足、保守時の不注意、使用、運転・使用、非定常操作、緊急操作、進路変更、不良現象、電気故障、回路、配線、引火、破損、破壊・損傷、衝撃、破損、大規模破損、衝突
情報源 http://www.aviationtoday.com/reports/wiring7.htm
http://www.geocities.co.jp/SilkRoad/5479/990112.htm
http://www2.justnet.ne.jp/~satoshitoyama/cadb/wadr/accident
/19980902a.htm
死者数 229
負傷者数 0
物的被害 機体、乗客および乗員の貴金属、持ち物など数々の物品。
社会への影響 質の高いサービスで有名なA社航空の墜落事故で、人々は大きなショックを受けた。
分野 機械
データ作成者 エツタイノ (SYDROSE LP)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)