失敗事例

事例名称 設計ミスから市民会館アリーナの屋根が自重と積雪で崩壊
代表図
事例発生日付 1978年01月18日
事例発生地 米国コネチカット州ハートフォード市
事例発生場所 住宅街
事例概要 1978年1月18日午前4時15分、米国コネチカット州ハートフォード市の市民会館アリーナの屋根が崩壊した。建設時、屋根の構造に歪曲が発見されたが、それを修正することなく完成させたことが直接の崩壊原因。ほかにも設計上の脆弱さが見られた。さらに前日からの積雪が屋根への負荷を増加。崩壊時、アリーナには誰もいなかったので、死傷者は出なかった。この事故を機に安全基準が見直された。
事象 ハートフォード市民会館アリーナは1970年に建設が着工し、1973年に完成した。コンピュータ解析に基づく設計で建設されたが、屋根のフレームに歪みが生じた。この歪みは建設中、たびたび報告されたが安全性には問題ないとされ、結局修正されることはなかった。1978年1月18日午前4時15分、雪の負荷が加わり、アリーナの屋根は崩壊した。
経過 ハートフォード市民会館アリーナは1970年に建設が始まった。数人の建築家およびエンジニアが雇われたが、彼らは費用節減を強いられ、コンピュータ解析に基づいた新しい建築方法を取り入れた。コンピュータ上では安全基準を満たしていたが、実際に建設すると、屋根のフレームに歪みが生じた。この歪みは、いくつかの建設段階において繰り返し報告され、エンジニアからも指摘があった。が、その都度、安全に支障はないと判断され、結局修正しないまま1973年に完成した。完成後、一般市民からも、屋根のフレームに歪みが見られ、安全性に不安を感じるとの意見があったが無視された。1978年1月18日、完成から5年後、前日から降り積もった雪の負荷が加わり、アリーナの屋根は午前4時15分に崩壊した。前日の晩はホッケー試合がアリーナで開催されたため、多数の人々が観戦に来ていたが、事故時は誰もいなかったため、死傷者は出なかった。
原因 以下の設計ミスのため、屋根のフレームに歪みが生じた。圧縮材への負荷超過。フレームの死荷重および積雪による負荷の過小評価。フレームの留め金が少ない。バックルの留め方に問題有り。仕様外の鉄鋼使用。斜材の配置ミス。アメリカ鉄鋼建設協会(AISC : American Institute of Steel Construction)の規定違反(組立部材の細長比違反、ボルト孔の面積超過、針板下板の規定違反等)。コンピュータ解析結果と現実とのギャップ。
対処 事故調査委員会や保険会社の監督下で複数の業者が調査に当たった。連鎖事故防止のため、解体作業を進めながら事故原因の調査に当たった。
対策 建設プロジェクトの検査については、経費節減のため社内だけに頼りがちだが、安全性のダブルチェックとして第三者にも依頼することを提言。ビルディング建設に対する安全基準も見直された。
知識化 責任の所在を明らかに必要がある。今回の事故は、屋根崩壊前にいくつもの警告が現れていたにもかかわらず、問題をたらいまわしにし、警告サインを無視し続けた結果、事故につながったと言える。
背景 ハートフォード市民会館アリーナの建設には、5つの下請業者がかかわったため、責任の所在があいまいであった。屋根のフレームは最初、地上で作られたが、フレーム完成後、別の業者が屋根に当てはめるという手順がとられた。屋根に当てはめる際、フレームに歪曲があったため、パネル合わせが非常に困難だったが、その問題に関しては、その業者に解決策が求められ、遅延が生じた場合には責任をとれと言われた。結局、その業者は無理やりパネルを当てはめ、歪曲はますますひどくなった。完成後、エンジニアが最終検査を行うはずだったが経費節減のため、建設監督者が自ら検査し、OKを出してしまった。このように、かかわった業者が多数であったため、問題がたらいまわしにされ、誰も最終的な責任をとろうとしなかったところに副因がある。
後日談 事故後、建設監督者は、自分はプロジェクトを設計通りに建設することに責任があり設計上のミスには責任はない、と主張。しかし、経費節減のためにプロジェクト最終検査を行ったのは建設監督者自身で、検査はやはりエンジニアが行うべきであったと非難された。
データベース登録の
動機
アリーナの屋根が、地震でもないのに建築後わずか5年で崩壊した事故だったので選択した。
シナリオ
主シナリオ 企画不良、戦略・企画不良、試験計画不良、不注意、注意・用心不足、企画者不注意、誤差設定不適、価値観不良、安全意識不良、安全対策不足、計画・設計、計画不良、破損、破壊・損傷、材料強度不足、破断、破損、大規模破損、崩壊
情報源 http://www.eng.uab.edu/cee/reu_nsf99/hartford.htm
死者数 0
負傷者数 0
物的被害 市民会館アリーナ
社会への影響 ずさんな建築事情に人々はショックを受けた。
分野 機械
データ作成者 エツタイノ (SYDROSE LP)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)