失敗事例

事例名称 メンテナンス不良による石油タンカー沈没事故
代表図
事例発生日付 2002年11月19日
事例発生地 スペイン北西部沖
事例発生場所 海上の石油タンカー
事例概要 1976年に製造された石油タンカーが、充分なメンテや点検が行われずに使用が続けられ、2002年11月に悪天候の中、航行不能となり、亀裂が生じ、重油漏れが発生し、数日後に船体が二つに折れて沈没し、大量の重油を流している。
事象 製造後約26年の石油タンカー「プレスティージ」号が沿岸から約250キロの海上で難破、船体に亀裂が生じ、重油が漏れた。タグボートで沖へと移動されたが、漂流を始めてから5日後に船体が二つに折れ、沈没した。
経過 同タンカーは燃料油7万7000トンを積み、ラトビアから英領ジブラルタルに向かう途中、11月14日に悪天候で航行不能となり、沿岸から約9キロの海上を漂流していた。船倉に亀裂が生じ、燃料油約4000トンが流出した。沿岸部への被害を食い止めるため、タグボートが沖合にえい航していた。19日、漂流を始めてから5日後の19日、船体が二つに折れて沈没。大量の重油が海に流出。
原因 同タンカーは1976年に日本で建造されたが、その後のケアが十分でなく、船体が老朽化し、悪天候という要因も加わり亀裂が生じたと見られている。
対処 重油が漏れ始めた際に、タグボートを使って船体をできるだけ沿岸から引き離そうとした。入港しようとしたが、許可されなかった。
対策 フランスのバシュロナルカン大臣は、スペインのガリシア沖で起きたタンカー事故について、スペインのマタス環境大臣と連携を強めることを約束した。 大臣は、定期的に情報を収集するとともに、スペイン当局の申請により11月14日に開始されたフランス及びスペインの協力による汚染対策を進めていくこととしている。また、単板構造の船舶による重油の運搬がEU加盟国の港を出航することを禁じる規制案が合意された。しかし、法律の施行はそれぞれの国にゆだねることとなっている。
知識化 日常の点検、メンテを欠かすと船のみならずあらゆる機器、車、物体の良好な状態を保つことはできない。点検を充分に行わず、災害の可能性を考慮せずに物事を実行すると、大きな、取り返しのつかない事故につながる恐れがある。
背景 このタンカーはバハマ船籍だが、船長はギリシャ人で、乗務員はフィリピン人とルーマニア人。オーナーはリベリアに籍を置く企業で、スイスを拠点とするロシアの商社がチャーターした。そのため、事故の責任の所在を突き止めるのが困難。99年にフランス沖で石油タンカーが座礁し、沿岸に重油約2万トンが流出したことをきっかけに、EUは老朽船にたいする検査の厳格化やEU海域の監視強化、基準を満たしていない疑いがある船舶のブラックリストの作成を定めた規則を整備していたところであった。このタンカーは2005年には引退することになっていた。1999年には、二度も安全規則の違反を犯していたことも明らかである。
後日談 スペイン沿岸でプレステージ号が重油を流出し始めた当初、事故の処理に駆けつけた国際海難救助会社のSMITは、事故処理をより簡単にするためにプレステージ号を港内へ曳航する許可をスペイン政府に申請した。ところがその要請に対するアスナール首相の返答は、船は事故現場である外洋へ持っていけというものであった。その結果プレステージ号は現在水深3,600メートルの海底に沈み、今も重油を流出し続けている。 アスナール首相は今になって幾つかの間違いを犯したことを認め、またホセ・マリア・ミチャビラ法務大臣は沈没したプレステージ号の所有者、航運者、船長に対して法的措置を取ることを表明した。
よもやま話 5万5千トンの燃料用オイルを積んだタンカー、プリンセス・ピア号がリトアニアのクライペダ港で座礁するという事故も起こっている。同船は無事に浅瀬から曳航され、調査の結果オイル漏れはないことが確認された。しかし、一歩間違えば再び大惨事になっていた可能性がある。1989年3月には、A社のタンカー「バルディーズ号」がアラスカ沖で座礁し、4万リットル以上の原油が海に流出し、約2500キロの海岸線が汚染された。このため推定で10万羽の海鳥と100万頭近い海洋動物の命が奪われ、生態系は非常に大きな影響を受けた。A社は原油を除去するため、多数の船を使い、1万人以上の人が手作業で除去作業を行った。A社はこの除去作業に20億ドル以上の経費を使った。プレステージ号の事故は、これより被害が大きいと見られている。
当事者ヒアリング オランダを拠点とする欧州の海事監督機構「パリMOU」のミハエル・フォーケル事務局長は、「悔しいのは、事故防止につながったかもしれない規則はすでにできていながら、施行が来年7月だったことだ。」と述べた。
データベース登録の
動機
ニューズウィークに記載されていた「最悪だった沈没のタイミング」という題が目につき、これは皆が未然に防ぐことができたと同意していると記載されていたので、今後の事故防止に活用すべきであると考えたから。
シナリオ
主シナリオ 企画不良、戦略・企画不良、試験計画不良、不注意、注意・用心不足、取り扱い不適、手順の不遵守、手順無視、使用、運転・使用、手順、使用、保守・修理、修理、機能不全、ハード不良、動作不能、環境変化への対応不良、使用環境変化、自然的条件変化、嵐、破損、劣化、割れ発生・成長、クリープ、沈没、原油、二次災害、環境破壊
情報源 Newsweek日本版12月4日号
http://edu2.mitaka.ed.tao.go.jp/jiji/high/search/word/news
/2002/11/22nn04.htm
http://www.greenpeace.or.jp/info/features/2002/20021212_html
http://www.eic.or.jp/frn_news/detail.php3?serial=4232&category=16
http://japan.donga.com/srv/service.php3?
bicode=060000&biid=2002112158798
http://asia.cnn.com/2002/WORLD/europe/12/03/slick.submarine/
http://www.rte.ie/news/2002/1118/oil.html
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/2532013.stm
死者数 0
負傷者数 0
物的被害 石油タンカー1隻、7万7千トンの重油
被害金額 事故後の始末は現在も続き、被害は今も広がりつづけている。
全経済損失 スペインの漁業に大きな被害。その関連事業全てに被害が及んだものと見られる。スペイン沿岸では漁業で生計をたてている人々が多く、今後の見通しが立っていない。また美しさで有名なこの地域の環境が破壊され、観光業にも大きな影響をおよぼしている。大量の魚、鳥、その他の自然が破壊された。
社会への影響 海底に横たわる船体は重油を流出し続け、流出量は最大で1日125トンにものぼった。プレステージ号から流出した重油はスペイン北部の海岸に漂着して900kmにわたる海岸線を厚い重油の膜でドロドロに覆ってしまった。沈没した船体から流出した重油の量はおよそ9,000トンで、今も船体の数箇所から最大で1日125トンもの重油が海中に漏れ続けていると言われている。事故後の経過の観察を続けている科学委員会は、プレステージ号の船体に残された重油がすべて流出して船が空になるまでには少なくともあと5ヶ月、長ければ今後4年間は重油を流出しつづける可能性があると発表した。この流出事故によって周囲の自然は壊滅的なダメージを受けた上、スペイン北部沿岸の漁業は重油汚染のために閉鎖に追い込まれることになった。そのため多くの人々が収入源を失うことになった。
分野 機械
データ作成者 タカミハマダニ (SYDROSE LP)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)