事例名称 |
設計不良によるA社製バスの故障 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1984年 |
事例発生地 |
米国ニューヨーク州ニューヨーク市 |
事例発生場所 |
ニューヨーク市のバス会社 |
事例概要 |
軽量、低燃費のバスが需要に対応するため製造されたが、設計に問題があったため、ニューヨークの凸凹道での使用で、金属疲労によるひび割れなどが発生し、寿命の10分の1の走行で使用を中止し、後にこのタイプのバスはニューヨーク市の市バスから完全に削除された。 |
事象 |
低燃費、軽量、障害者アクセス、空調完備、電気制御が整ったバスの製造が依頼され、それに応えたのが飛行機製造会社の一部門であるA社であった。何世代にも渡って使用されてきた設計を大幅に変え、A社は軽量のバスを製造した。そのバスはニューヨーク市をはじめ、ヒューストン、ロスアンジェルス、アトランタに販売されたが、ニューヨーク市では、バスの使用6ヶ月後に、637台のこのタイプのバスの使用を中止した。寿命の10分の1程度の距離を走っただけで、金属疲労によるひび割れ等が発生したためである。ニューヨーク市のバス会社は1984年には全てのA社モデルAバスの使用を中止した。 |
経過 |
バスを低燃費、軽量化するために従来の設計を大幅に変えたバスを製造したが、ニューヨークの市バスにそのバスを使用したところ、使用開始後6ヶ月で疲労によるひび割れ等が多発した。後輪ウェル付近の床にひび割れが発生し、前部の車軸のアセンブルにも問題が生じ、操舵カラムの軸受けが破壊し始めた。使用を継続するとバスのフレームも故障し、突然の事故を招く可能性があるとして、その時点で使用していた637台のバスの使用を中止した。製造会社は問題のフレームを強化したが、一年後にはまた問題が再発。疲労の問題が続き、1984年にはこのタイプのバスをニューヨーク市のバス経路から完全になくしてしまった。このバスは1990年代まで十分使用できるはずであったが、推測されていた寿命の10分の1の走行距離で問題が多発し、使用できなくなったとして、製造会社を訴えた。 |
原因 |
従来の設計を大幅に変更し、新しい設計でバスを製造したが、その設計に不良があり、凹凸の多いニューヨーク市の路面に対応できなかった。 |
対処 |
問題のあるフレームを強化したが、その一年後には再度問題が発生して製造会社へ送りかえされた。 |
対策 |
新型のバスに砂袋を積み込み、ひずみゲージを取り付けて、ニューヨーク市の凸凹道クインシー・ストリートを走らせ、まるで宇宙飛行士に耐久テストを行うかのように、このバスが金属疲労にどこまで耐えられるか、バスの内部の骨組みがどの程度変形するかを調べた。 |
知識化 |
急に多くの要素を変更し、従来の設計がなぜそのように行われていたかを考慮せずに、多数の要因を満たすように設計を大幅に改善すると、思わぬところで失敗につながることがある。長年にわたって使用されてきた設計が、なぜ適用されていたのかを調べた上で改善を行う必要がある。また、同じ設計でも使用する環境により大幅に異なる結果を招く。設計の時点で、使用環境を考慮する必要がある。 |
背景 |
新しいバスに対する需要が多すぎた。低価格で、低燃費、軽量、運転性が良く、障害者のアクセスも簡単、乗り心地がよいなど数々の改善項目が依頼された。A社の親会社は国の防衛費削減のための収入低下をバス事業で補おうとしていた。 |
後日談 |
この設計は失敗に終わっているが、この失敗によりバスの設計時には路面のくぼみ、凹凸を考慮する必要があるとその後の設計者に対する重要なメッセージとなっている。この事例の情報源である「To Engineer is Human」でこの問題が取り上げられ、他の設計に関連する事例とともに記載されている。 |
よもやま話 |
バスの故障に対してニューヨーク市とA社が話し合っている際、問題のバス数台はハドソン川沿いに停められていた。A社は会社のイメージを向上させるために、その頃はやっていた「ハネムーナー」というテレビ番組にバスの運転手役で主演していたジャッキー・グレーソンをコマーシャルに採用しようとしたが、報酬面で契約がとれなかったという。そこで代表的なニューヨーク市民というイメージを持つ、刑事コジャック役を演じていたテリー・サバラスをテレビ、ラジオなどのコマーシャルに採用し、A社のイメージの向上を図った。 |
当事者ヒアリング |
1984年7月23日のニューヨーク・タイムズ紙にA社が広告を掲載し、次のような内容を読者に訴えた。「他市のバス経路ではA社A型バスは月まで80回往復できる距離を走行している。しかしニューヨークでは市内の端から端までも走らせることができないという。」 |
データベース登録の 動機 |
同じものを使用しても、環境により異なる結果がでることを告げたかった。製造業者は度々使用方法に問題があると指摘することがあるが、正しく使用しても環境により製品に故障が生じることを理解する必要があると思った。 |
シナリオ |
主シナリオ
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企画不良、戦略・企画不良、試験計画不良、誤判断、誤った理解、詳細計画ミス、製作、ハード製作、製造工程、品質不良、破損、破壊・損傷、材料強度不足、割れ発生・成長
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情報源 |
"To Engineer is human" by Henry Petroski
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死者数 |
0 |
負傷者数 |
0 |
物的被害 |
大量のバス |
被害金額 |
9200万ドルがバスの修理などにかかったとして、バス会社が訴えられた。 |
全経済損失 |
9200万ドルに加え、罰金として3億5千万ドルが要求された。更に、1981年の第四4半期にはA社の損失は3千万ドルを超えた。 |
社会への影響 |
1981年の第四四半期にはA社の損失は3千万ドルに達し、国の防衛費の削減により、他部門でも収入低下した親会社にとって、大きな経済的問題となった。後にバス製造部門は他社に売られた。 |
分野 |
機械
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データ作成者 |
タカミハマダニ (SYDROSE LP)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)
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