失敗事例

事例名称 溶接部の疲労によるラムスゲート桟橋の通路落下事故
代表図
事例発生日付 1994年09月14日
事例発生地 英国ケント州、ポート・ラムスゲート
事例発生場所 ファリー乗り場のフェリーへの通路
事例概要 フェリー船と港を結ぶ通路のサポート構造の溶接部分に疲労が発生し、スパンが崩れ、通路が10m落下した。波の動きなどを充分に考慮できていなかった設計のミス、点検でもそれが発見できなかったために生じた。
事象 フェリーに乗り込むために乗客が港とフェリー船をつなぐ通路を通行中、その通路の海側一番端のスパンが突然崩れ、10m落下し、6名が死亡、7名が負傷した。
経過 午前0時45分、フェリーの乗客がフェリーに乗り込むために港とフェリー間の歩道通路を通過していると、海側の一番端のスパンが突然落下し、10m下のフロートデッキに落ちた。その際、外部などでは異常な状況は発生していなかった。右側の海方向のベアリングおよび軸は、ピンによりプラットフォーム上に残っていた。軸とディスク間の溶接は、ひび割れしていた。左側の海方向のベアリングはデッキにあたり、落下した。6名が死亡。負傷者7名。
原因 安全面で非常に重要な個所の溶接が疲労によりひび割れを生じていた。ベアリングとディスク間の溶接が疲労によりひび割れし、ベアリングが通路構造から外れてしまった。左側海方向の軸にも疲労によるひび割れが発生していた。この設計には波や船のインパクトによる上下のゆれや、ねじれに対する適切な対応が取られていなかった。使用されていたベアリングはねじれに対応できるものだと推定されていただけで、実際には設計に最適のものではなっかた。常に波により上下左右にゆれ、ねじれが起こり、疲労がが進んでいった。
対処 一ヶ月前の点検でも異常が発見されず、突然落下が起こり、対処を取る間がなかった。事故後、この通路の設計は特殊なもので、他の構造には用いられていないとして、他の通路の使用を中断することもなかった。
対策 このような事故を防ぐための数々の対策案が港湾局に送付された。その1つとして、事故災害が起こった場合には、レポートを発行し、各港湾局に配布し、事故の再発を防ぐ対策とした。また、このような港と船をつなぐ構造の建設には、造船技師のみならず、土木、構造、機械、電気の技師も関わるべきだとし、各分野の技師が集まり、定期的に新しい開発や安全面での問題について話し合う場を設定した。
知識化 確認をせずに推測で設計、建設を進めていくと大きな失敗を招く。設計者と点検者の両者が同じ間違いを起こすはずがないという仮定にもとづいた行動がこのような事故を招いた。このような失敗を事前にキャッチするシステムが必要である。
背景 この通路は使用をはじめてまだ4ヶ月であった。船と港を結ぶ構造の専門家である保険会社の調査員が、事故1ヶ月前に検査を行ったが、異常は発見されなかった。設計者と点検者の両者が同じ誤りをおかすことはないと思われていた。
後日談 裁判に於いて、設計者、建設者、点検実施者、さらにラムスゲート港すべてが有罪となった。建設をおこなったスウェーデンの企業は75万ポンドの罰金、この構造を認可したA社は50万ポンド、設計者は25万ポンド、ラムスゲート港は20万ポンドの罰金を支払うことになった。しかし、イギリスの法律をスウェーデンの企業に強要することはできないとし、スウェーデンの企業は支払いを行わなかった。
よもやま話 通常高速道路などの橋は120年の寿命だといわれているが、このような陸と船をむすぶ構造は、船の寿命とほぼ同じで約20年といわれている。
データベース登録の
動機
憶測、推測だけで物事を進めていくと事故を招くことがあると、知らせたかった。
シナリオ
主シナリオ 誤判断、誤った理解、詳細計画ミス、調査・検討の不足、事前検討不足、自作・購入の誤判断、計画・設計、計画不良、不良現象、機械現象、相互運動部、組合不良、外れる、身体的被害、死亡、身体的被害、負傷、破損、大規模破損、崩壊
情報源 http://www.cen.bris.ac.uk/civil/staff/dib/casehist99/ramsgatewalkway.htm
http://www.cen.bris.ac.uk/civil/staff/dib/casehist99/ramsgateinfo.htm
http://www.istructe.org.uk/technical/index.asp?page=46
http://www.eplp.org.uk/PRCoPenalties170102.html
死者数 6
負傷者数 7
物的被害 港とフェリーを結ぶ海上通路
被害金額 裁判では被害金額71万3千ポンド(約1億4千万円)といわれた。
全経済損失 裁判の結果、有罪になったものに125万ポンド(約2億4千万円)の罰金と、損失に対して71万3千ポンド(約1億4千万円)を支払うよう命じられた。
社会への影響 この港からベルギーへのフェリー船が運航されているが、利用者は悲しみと不安に襲われた。また、裁判の後、スウェーデンの建設会社が罰金を支払わないということで、市民は怒りを訴えた。
分野 機械
データ作成者 タカミハマダニ (SYDROSE LP)
中尾政之 (東京大学工学部附属総合試験所総合研究プロジェクト・連携工学プロジェクト)