失敗事例

事例名称 高温再熱蒸気管の噴破事故
代表図
事例発生日付 1985年06月06日
事例発生地 米国
事例発生場所 モハベ発電所2号ユニット
機器 モハベ発電所2号ユニットは1971年に運転が開始された石炭炊きの定格出力790MW機であった。
噴破事故を起こした高温再熱蒸気管は外径762mm、肉厚33.5mmの1.25Cr-0.5Mo鋼(米国規格ASTM P-11)製シーム溶接管であり、再熱蒸気条件は圧力4.14MPa、温度538℃であった。
なお、同ユニットはベースロードで運用(定格出力の連続運転)されており、起動停止回数も比較的少なかった。
事例概要 米国のネバダ州ラフリンにあるサザン・カリフォルニア・エジソンのモハベ(Mohave)発電所2号ユニットの高温再熱蒸気管が、1971年の運転開始後約88,000時間が経過した1985年6月6日の定常運転中に水平直管のシーム溶接部(板を曲げて長手方向に溶接した管の溶接部)で噴破し、死者6名、負傷者10名を出す大惨事となった(図2)。
噴破はクリープ損傷が原因であり、製造時の欠陥により損傷の進展が早まったものと考えられた。
事故後、シームレス管(シーム溶接よりも製造は難しくなるが、最初から管形状で製造するため長手方向の溶接部のない管)に取り替えられた。
また、50プラント以上のシーム溶接管を対象に超音波探傷等による綿密な非破壊検査が行われ、その結果欠陥の見つかったシーム溶接管が多数取り替えられた。
事象 (1)フォールトツリー解析の結果
 ○ 図3 破壊形態、破壊のメカニズムとプロセスに着目したフォールトツリー図
  高温再熱蒸気管のシーム溶接部に存在した大きな製造欠陥で応力が集中し、クリープ損傷の進行を速めることとなり、数年間の運転中にクリープき裂が大きく成長した。途中で非破壊検査が行われていたならば、容易にき裂は発見されたであろうが、そのまま運転が続けられたため、運転開始から約88,000時間が経過した時点で噴破し、多数の死傷者を出す大惨事となった。
 ○ 図4 機器の設計と製作における不適切・不良に着目したフォールトツリー図
  製造・検査記録がないため詳細は明らかではないが、1.25Cr-0.5Mo鋼板を曲げてシーム溶接で高温再熱蒸気管を製造した際に、通常の非破壊検査で容易に検出できる程大きな欠陥が溶接部に生じた。そのような大きな欠陥の存在に気付かぬまま高温再熱蒸気管として長時間の運転を行った結果、溶接部におけるクリープき裂の成長により噴破事故を起こした。
(2)イベントツリー解析の結果
 ○ 図5 高温再熱蒸気管のシーム溶接部におけるクリープき裂の成長による噴破事故のイベントツリー図
  1.25Cr-0.5Mo鋼製の高温再熱蒸気管のシーム溶接部に大きな製造欠陥があったが、非破壊検査が行われなかったため、その存在に気付かずに運用が開始された。運用中に製造欠陥による応力集中によってクリープ損傷が加速され、クリープき裂となり成長していった。大きなき裂が数年間溶接部に内在する状態であったが、非破壊探傷が行われなかったため、き裂の存在に気付かず運転が続けられ、多くの犠牲者を出すことになる噴破事故に至った。
経過 モハベ発電所の2号ユニット高温再熱蒸気管は、そのシーム溶接部に製造時の大きな欠陥を有したまま運転が続けられ、その間に溶け込み境界(fusion line)に沿って発生したクリープき裂(図6)が製造欠陥により加速し噴破に至った。
噴破事故は運転開始から88,000時間経って起こったが、その間の数年間にわたり超音波探傷で容易に検出できるような大きなき裂が存在していたものと思われる。しかし、非破壊検査は行われずに運転が続けられ、多くの死傷者を出す大惨事を招く結果となった。
原因 噴破事故を起こした蒸気管の材質は1.25Cr-0.5Mo鋼であり、2.25Cr-1Mo鋼とともに高温蒸気管に広く使用されてきた材料である。事故当時、同じ材料を使用しモハベ2号ユニットよりも古いものも多数存在した。
なお、噴破した管を製造したメーカは事故当時には製造を中止しており、過去の製造・検査記録も残されていなかった。いずれにしても、事故後の調査により、噴破管には大きな製造欠陥が存在し、それがクリープ損傷の進行を速めクリープき裂の成長につながったことが明らかになった。しかし、このクリープき裂は少なくとも数年間は溶接部に大きなき裂として内在しており、超音波探傷を行っていれば容易に検出できたものと考えられている。したがって、適切に非破壊検査が為されていれば、この大惨事は防げたであろう。
対処 (1)事故後の1985年夏以降、50以上のプラントのシーム溶接管が超音波、磁粉、放射線等による探傷が行われ、欠陥が見つかった配管は取り替えられた。
(2)事故後まもない1985年9月15日に、米国電力研究所(EPRI)の非破壊評価(NDE)センターは、電気事業者の支援のため、「クリープ損傷を受けた火力プラント配管の検査技術の開発、評価および移転」に関する研究を開始した。このプロジェクトには、クリープき裂成長解析プログラムの開発、断熱材の除去を不要とする高エネルギー放射線探傷技術の実証のほか、情報交換会議の主催、シーム溶接配管の検査に関する教育的ワークショップの開催などが含まれていた。
1985年11月には、シーム溶接配管の試験・評価に関する情報交換会議がノースカロライナ州シャーロットで開催され、電力会社57社からの107名を含む180名が出席した。また、1987年2月には、同プロジェクトの成果として、シーム溶接蒸気管の検査ガイドラインがまとめられ、その後電力各社におけるシーム溶接管の運用管理指針となった。
対策 事故を起こした配管はシームレス管に取り替えられた。また、水平展開として、シーム溶接管の非破壊検査が実施され、欠陥が見つかった管は取り替えられた。さらに、電力各社はEPRIの開発したシーム溶接管の欠陥検査・評価技術やガイドラインを導入した。
知識化 「知らぬは罪なり」ハード(機器)の事故は材料に関する学識不足に起因することが多い。例えば、この一連の事故では配管材料の溶接部に関するデータ、知識等が不十分であったことが最初の原因であったが、このように使用している材料に関する学識不足によって引き起こされる事故は多い。材料特性の把握が不十分であれば、材料を過信し、この材料は大丈夫だと盲信することになる。これが材料のもつリスクである。このリスクを断ち切らない限り、失敗は繰り返される。技術に「知らぬが仏」はあり得ない。「知らぬは罪」であり、罰が当たることになる。
シナリオ
主シナリオ 無知、知識不足、試験データ不足、製作、ハード製作、機械・機器の製造、高温再熱蒸気管、1.25Cr-0.5Mo鋼、シーム溶接、計画・設計、計画不良、無検査、製造欠陥の見落とし、使用、運転・使用、機械の運転・操縦、シーム溶接部溶け込み境界、破損、破壊・損傷、クリープ、き裂成長、配管噴破、身体的被害、死亡、死者5名、負傷者10名
情報源 (1) F.L.Becker, S.M.Walker and R.B.Dooley, “Industry Experience and Overview of Steam Pipe Activities”, Proc. Conf. on Life Extension and Assessment of Fossil Plants, Washington D.C., USA, June 2-4, 1986.
(2) 藤田正昭、火力原子力発電、Vol.52, No539, 923(2001)
(3) J.F.Henry, Gang Zhou and C.T.Ward, “Seam-Welded Steamline Piping: An Industry Albatross”, EPRI/DOE Conf. on Advances in Life Assessment and Optimization of Fossil Power Plants, Orlando, Florida, USA, March 11-13, 2002.
(4) Acoustic Emission Consulting, Inc., “Picture Scrapbook”,
http://www.nvo.com/aecpipes/pictures/view_all.nhtml
(5) J.M.Rodgers and R.M.Tilley, “Standardization of Acoustic Emission Testing of Fossil Power Plant Seam-Welded High Energy Piping”, Proc. The 2004 ASME/JSME Pressure Vessels and Piping Conference on Fitness for Service, Life Extension, Remediation, Repair, and Erosion/Corrosion Issues for Pressure Vessels and Components, PVP2004-2248, San Diego, California, USA, July 25-29, 2004
(6) F.V.Ellis and R.Viswanathan, “Review of Type IV Cracking”, Proc. ASME PVP Conf. on Fitness-for-Service Evaluations in Petroleum and Fossil Power Plants, PVP-Vol.380, pp.59-76(1998).
(7) EPRI, “Guidelines for the Evaluation of Seam-Welded Steam Pipes”, EPRI CS-4774, Project 2596-7 Final Report(Feb. 1987)
死者数 6
負傷者数 10
マルチメディアファイル 図2.モハベ発電所の2号ユニットの墳破事故後の高温再熱蒸気管シーム溶接部
図3.破壊形態、破壊のメカニズムとプロセスに着目したフォールトツリー図
図4.機器の設計と製作における不適切・不良に着目したフォールトツリー図
図5.高温再熱蒸気気管のシーム溶接部におけるクリープき裂の成長による墳破事故のイベントツリー図
図6.シーム溶接部に発生したクリープき裂の模式図
分野 材料
データ作成者 新田 明人 ((財)電力中央研究所)