失敗事例

事例名称 ホイスト式クレーン巻上げ機歯車の疲労破壊
代表図
事例発生日付 1982年04月
事例発生地 兵庫県
事例発生場所 機械工場
機器 ホイスト
事例概要 機械工場に設置されていたダブルレール型ホイスト式クレーンで荷をつり上げ中、巻上げが突然出来なくなり、作動不能になった。原因は巻上げ機歯車の一つが、歯元から折損しているためであった。
事象 定格荷重5ton、巻き上げ速度5m/minのダブルホイスト型クレーンを使用中、突止して使用不能になったので分解したところ、8組で構成している巻上げ機歯車の一つが、歯幅の約1/2から折損していた。折損した歯車は、圧力角20°、モジュール4.5、歯数14、歯幅50mm、ピッチ円直径63mmの平歯車である。歯車の材質はS45C相当材であって、歯の表面には15~50μmの厚さに軟窒化処理が施されており、歯の内部はフェライト・パーライト組織であった。しかし、軟窒化層の厚さにはかなりのばらつきがあり、厳しい曲げ応力を受ける歯元付近では15~25μm程度であって、他の部分よりも軟窒化層の厚さが薄かった。ビッカース硬さ測定を行った結果、軟窒化層のある歯の表面付近では290~394Hv、歯の内部では183~216Hvであった。破面の電顕観察の結果、歯元の起点付近では粒界割れが、起点から少し内部に入った位置からはストライエーションが形成されており、歯車が繰り返し曲げを受けて歯元から疲労破壊したことが確認された。
経過 このクレーンは途中の休止の期間も含めて、製造後10年経過していた。同時期に製造された巻上げ機を調査したところ、歯元にき裂が入ったものや、歯の表面がスポーリングにより剥離している歯車が発見された。
原因 破面観察の結果から、歯の折損は疲労破壊によることが確認されたので、歯に作用する応力と硬さの関係について調べた。折損した歯車の歯元に作用する曲げ応力を求めた結果、34.2kgf/mm^2であった。また、歯面に加わる接触応力は118.9kgf/mm^2であった。歯車強さ設計資料(1)によれば、歯車の曲げ許容応力Sとビッカース硬さHvとの間には、S=1.62√Hvの関係があることが示されている。この関係から歯元で必要な硬さはHv =446となるが、この値は折損歯車の硬さ290~394Hvを大きく上回っている。この結果から、歯車は必要な硬さに熱処理が施されていなかったために強度が不足し、最も大きな曲げ荷重が作用する歯元付近から疲労破壊を起こしたと結論される。また、スポーリングは歯の硬さ及び硬化層深さの不足が原因であった。
シナリオ
主シナリオ 無知、知識不足、経験不足、製作、ハード製作、機械・機器の製造、ホイスト式クレーン、巻上げ機、歯車、熱処理、硬さ不足、破損、破壊・損傷、疲労、歯の折損、巻上げ機作動不能
情報源 (1)日本機械学会、歯車強さ設計資料、(1979)
死者数 0
負傷者数 0
マルチメディアファイル 図1.歯車の折損状況
分野 材料
データ作成者 橘内 良雄 ((社)日本クレーン協会)
小林 英男 (東京工業大学)