失敗事例

事例名称 天井クレーン3台が突風で逸走しランウェイから次々に落下
代表図
事例発生日付 2003年10月13日
事例発生地 茨城県鹿島郡神栖町
事例発生場所 金属製品製造工場
機器 天井クレーン
事例概要 本災害は鋼管等の金属製品を製造している工場において、屋外に設置されたランウェイ上を走行する3台のホイスト式天井クレーン(いずれもつり上げ荷重30t, スパン40m)が、突風にあおられて走行レール上を約240m逸走して緩衝装置に激突して壊し、ランウェイからクレーンが次々に落下して運転者1名が死亡し、2名が軽傷を負ったものである。
事象 災害が発生した工場では鋼管等の金属製品を運ぶために、構内の南北に4台のランウェイが平行に設置されており、これらのランウェイ上に1号機から5号機までの5台のクレーンが配置されていた(図2)。災害は2号機、3号機及び4号機の3台のクレーンで発生した。
災害発生当日(2003年10月13日)は午前8時から製品係、クレーン運転者、玉掛け者で当日の作業内容の打ち合わせを行った後、クレーン運転者Aが2号機に、Bが3号機、Cが4号機のクレーンに搭乗して製品の運搬作業に取りかかった。午後1時半頃からぱらぱら雨が降り始め、午後2時半頃には雨が強くなってきたが、風はそれ程強くなかった。午後3時頃、同じ走行レール上に並列に配置されていた3号機と4号機が雨で配電盤のブレーカーが落ちて停止した。ブレーカーを投入してから約10分後、隣のランウェイ上の2号機が風に流されて、北側の緩衝装置に衝突して停止したのを、3号機に搭乗していたBが目撃した。間もなく2号機に搭乗していたAから、「衝突して止まったよ」との無線連絡があった。その直後の午後3時20分頃、風速計が15m/secを示したため、係長から3人のクレーン運転士に作業を中止するよう無線で指示があった。このため、4号機の運転者Cはクレーンを北側に移動して、つり荷を下ろした。直後に電源が切れると共に雨風が非常に強くなり、クレーンが揺れはじめて、ブレーキのかかった状態で突然南側に向かって逸走した。このとき、南から吹き付けていた風雨が急に西側からの風向きに変わり、3号機に搭乗していたBは異常なほど風が強くなったと感じた。同時に、先程隣のランウェイ上を北側に逸走していた2号機が、逆に南側に向かって逸走しているのをBは目撃した。その後、Bの運転する3号機は移動・停止を繰り返していたが、やがて一気に南側に逸走した。このときBは、いつも同一ランウェイ上の南側を走行している4号機が、視界から消えていることに気が付いた。
4号機はBが気付く直前に走行レール上を約100m逸走し、南側の緩衝装置に激突して高さ11.2mのランウェイから反転した状態で落下した。激突・落下の際に、運転室がガーダから外れ、搭乗していたCは負傷した。この激突によって、ランウェイを共有している2号機の緩衝装置も大きく変形した。
4号機の落下直後、2号機も走行レール上を南側に240m逸走して緩衝装置に激突し、ランウェイから落下した。このとき運転室がガーダの下敷きになり、運転者Aが死亡した。
2号機の落下に続いて3号機も約220m逸走したが、緩衝装置が大きく変形していたため緩衝装置に衝突することなく、ランウェイからすでに落下していた4号機の上に重なるように落下した。運転室はかなり損傷したが、幸い運転者のBは軽傷にとどまった。クレーンの落下状況を図3に示す。なお、クレーンが落下した午後3時半頃の工場ヤード内の風速は、風速計を60m/secに切り換えても振り切れてしまい、計測出来ない状態となっていた。
原因 (1)クレーン作業中に気象が急変し、これまでには予想されないような瞬発性強風現象(ダウンバースト)に襲われたこと。
(2)天候の変化への対応が遅れ、逸走を防止するために設けられていたレールアンカーの位置にクレーンを移動させることが出来なかったこと。
対策 (1)気象注意報が出ている場合には気象情報に注意すると同時に、風速計等によりクレーン周辺の風速や風向を迅速に把握し、気象の急変に対して作業中止、待避、逸走防止等の措置が速やかに講じられる体制を確立すること。
(2)気象急変時のクレーンの逸走防止措置が迅速にとれるように、レールアンカーの挿入箇所を数カ所設けること。また、場合によりレールクランプを設けること。
後日談 新聞やテレビ等の報道によれば、関東甲信地方は2003年10月13日午後、激しい風雨に見舞われた。局地的に記録的な雨量となり、茨城県では製鉄所の大型クレーンが倒れるなどして、1人が死亡、1人が行方不明。警察によると、この事故を含め、集中豪雨による人的被害は死者2人、行方不明1人、負傷者4人。建物被害は全壊が3棟、半壊が1棟という。
2003年10月14日の朝日新聞によれば、茨城県神栖町東深芝の金属加工会社「住金大径鋼管」鹿島工場で、クレーン3台がそれぞれ落下、1台を操縦していた関連会社の運転者がクレーンの下敷きになり死亡し、別の2台を操縦していた関連会社の運転者2名もクレーンが落下する際投げ出されて軽いけがを負ったと報道されている。
現場では、鋼管などの積み込みをしていたが、事故の時は強風で中断していた。同社によると、午後3時半ごろ、最大瞬間風速を記録していたという。
一方、午後3時半頃には、同町光、「住友金属工業」鹿島製鉄所で大型クレーンが貨物船上に倒れ、クレーンを操縦していた住友金属物流の社員が海に投げ出された。鹿島港の風速測定結果を図4と図5に示す。
よもやま話 〇 ダウンバースト
ダウンバーストは発達した積乱雲(夕立の雷雲や台風が一般的)の上昇気流の周囲にできる冷たく激しい下降気流が地面にぶつかり、水平に広がって突風となる現象である。
茨城県神栖町で大型クレーンを倒壊させるなど同県や千葉県などで被害をもたらした2003年10月13日午後の強風について、気象庁は15日、「突風はダウンバースト(下降噴流)だった可能性が高い」と発表した。低気圧の中心付近の強風と重なった可能性もあり、現地の被害状況から、神栖町では33~69メートルの瞬間風速があったと推定できるという。
ダウンバーストは積乱雲の中を冷たい空気が下降して勢いよく地面にぶつかり、四方八方に強風が吹き広がる。同庁の資料では、この14年間で75個の発生が確認されている。発生時間は10分程度と短く、しかも数kmと狭い範囲で起きる。逆に、積乱雲の下で渦を巻く上昇気流が発生し、強風を巻き起こすのが竜巻である。
気象庁は「ダウンバーストの発生を予測することは今の技術では不可能に近い。観測網でも捕らえられず、警報発令に至らなかった。」と話している。また、同庁では神栖町のダウンバーストは藤田スケールのF1~F2と推測している。
〇 風によるクレーン災害防止に関する法令
暴雨や強風時にはクレーンの損壊や作業者を保護するために、以下のような使用及び就業規則がクレーン等安全規則によって定められている。
(1)暴雨時における逸走の防止(クレーン等安全規則第31条)
「事業者は、瞬間風速が毎秒30mを越える風が吹くおそれのあるときは、屋外に設置されている走行クレーンについて、逸走防止装置を作用させる等その逸走を防止するための措置を講じなければならない。」
逸走防止装置の代表としては、地上側に埋設された受け金物に短冊状の金物を挿入するアンカー装置がある。
(2)強風時の作業中止(クレーン等安全規則第31条の2)
「事業者は、強風のため、クレーンに係る作業の実施について危険が予想されるときは、当該作業を中止しなければならない。」
強風とは、10分間の平均風速が10m/sec以上の風をいう。
○ 藤田のスケール
竜巻やダウンバーストの規模を推定するために、シカゴ大学の藤田哲也が1971年に提案した基準であって、F0~F5に分類されている。このうちF1及びF2は、以下のとおりである。
F1:33~49m/sec (約10秒間の平均)
屋根瓦が飛び、ガラス窓は割れる。また、ビニールハウスの被害甚大。根の弱い木は倒れ、強い木の幹が折れたりする。走行している車が横風を受けると、道路から吹き落とされる。
F2:50~69m/sec (約7秒間の平均)
住宅の屋根がはぎ取られ、弱い非住家は倒壊する。大木が倒れたり、ねじ切られる。車が道路から吹き飛ばされ、列車が脱線することがある。
○ 類似事例
工場の専用桟橋に設置された橋形クレーンで荷役作業を行うために船舶の接岸を待っていたところ、風速が20m/secを越える状態となったことからレールクランプに加えて前輪と後輪に車輪止めを入れて停止していたところ、風速が30m/secを越えるようになり、クレーンが逸走して走行レール東端のストッパーに衝突して破壊し、10m程行き過ぎて脱輪して停止した。(情報源の(2)を参照)
当事者ヒアリング 工場関係者によると、2003年10月13日午後3時15分頃雷が鳴り、非常に強い風と雨が降った。午後3時20分頃には瞬間風速が15m/secを記録し、その直後にはさらに風が強まり風速計が30m/secのレンジを越える状態となったので30m/secのレンジに切り替えたが、これも振り切れる状態となった。
神栖町のタクシー運転士によると、トラックやライトバンのような車高の高い車が横倒しとなり、倒木や看板等多くのものが吹き飛んで来て非常に危険な状態になった。ただし、竜巻のように巻き上げられることはなく、上から下に吹き付けるような状態であった。また、屋根瓦が飛ばされ、周囲の農家の農業用ビニールハウスは上から押しつぶされたような状態で壊れていた。
シナリオ
主シナリオ 無知、知識不足、過去情報不足、誤判断、状況に対する誤判断、気象の急変(ダウンバースト)、対応遅れ、誤対応行為、連絡不備、クレーン逸走、非定常行為、非常時行為、パニック、機能不全、ハード不良、機器使用不能、ブレーキ不能、破損、破壊・損傷、ストッパー破損、破損、大規模破損、クレーン落下
情報源 (1)クレーン、Vol.42, No.11,(2004)
(2)クレーン、Vol.32, No.8,(1994)
(3)朝日新聞 2003年10月14日 夕刊
(4)http://www.tokyo-jma.go.jp/sub_index/bosai/disaster/20031015/20031015.pdf,現地災害調査速報、平成15年10月13日に茨城県神栖町及び千葉県成田市で発生した突風による風害について
死者数 1
負傷者数 2
物的被害 天井クレーン3台 ランウェイガーダ基礎及び支柱
マルチメディアファイル 図2.No.1潤オNo.5クレーンの設置位置
図3.クレーンの被災状況
図4.鹿島港湾事務所の風速の記録
図5.工場内の風速記録
分野 材料
データ作成者 橘内 良雄 ((社)日本クレーン協会)
小林 英男 (東京工業大学)