失敗事例

事例名称 B-707型機のルサカ(ザンビア)空港進入中の水平尾翼破壊による墜落事故
代表図
事例発生日付 1977年05月14日
事例発生地 ザンビア、ルサカ空港
事例発生場所 ダンエア航空貨物便B-707-320型機
事例概要 ダンエア航空の貨物便B-707-320型機がザンビアのルサカ空港に進入中、右水平尾翼が疲労破壊したため姿勢制御不能に陥り墜落し、乗員5名と乗客1名の計6名が全員死亡した。同機は製造後パンアメリカン航空において16,285回の離着陸サイクルを経験した後、ダンエア航空に移籍し438回目の飛行で事故に至ったものである。
事象 図1は疲労破壊したB-707-320型機と改修前のB-707-100型機の水平尾翼の桁構造について示したものである。
B-707-320型機はペイロードの増加のニーズに応じて原型機B-707-120型機を大型化し、それに伴って操縦性を確保するために尾翼を大きくし補強のための改修を行ったものである。補強改修としては尾翼のトーションボックスを、
 (1) 従来のアルミ合金製フランジをステンレス鋼に代えて強度・剛性を高めた。
 (2) フェールセーフ性を付与する目的で図1に示すようにフランジ部中央にセンターコードを設けた。
しかし、(1) (2)の効果については試験による実証評価を行わなかったため結果は設計者の意図とかけ離れたものとなってしまった。図2は改修後の尾翼後部桁の力の流れを示したものである。1は桁が健全な場合で、フェールセーフ桁として中央コードは力を負担せず上部桁部分に疲労き裂が発生し進展していくことが懸念されるが、その場合、き裂がある程度進行すると上部コードは荷重を分担せず2のように中央コードと下部コードでモーメントを支えるようになるため、き裂はそれ以上成長しなくなることを期待したものであった。図3は上部コードの疲労破壊の様子を示したものである。
経過 原型機体を大型化し高性能化した際の設計変更に当って尾翼桁構造のフランジ部が剛性・変形能共に高いステンレス鋼であったために、き裂が入った後もある程度頑張り続け依然として荷重を負担し続けたため、き裂進展力が保ち続けられ破断に至るまで止むことがなく破断にまで至った。
原因 剛性・強度の異なる材料で補強したこと、及びその効果を実証しなかったことが事故の主要因であり、また機体が着陸時にスポイラを立てた際に後方に発生する渦による尾翼の励起振動荷重などが設計要因として過小評価されていたことなども原因の一つとなっていた。
対策 (1) フェールセーフ性の実証は実機構造を用いて解析と実験によって行うこと
(2) 荷重推定にはあらゆる要因を精度よく考慮に入れること
知識化 フェールセーフ性の実証は実機構造を用いて解析と実験によって行うこと。
シナリオ
主シナリオ 誤判断、誤った理解、概念設計ミス、無知、知識不足、思い込み、経験不足、調査・検討の不足、事前検討不足、外力評価不足、強度評価不足、計画・設計、計画不良、設計不良、水平尾翼桁構造、材料不適合、使用、輸送・貯蔵、航空輸送、破損、破壊・損傷、疲労、水平尾翼桁破断、破損、大規模破損、墜落、起こり得る被害、潜在危険、フェールセーフ設計の破綻
死者数 6
負傷者数 0
マルチメディアファイル 図1.B-707の水平尾翼構造の新旧比較
図2.荷重伝達に関する設計者の期待と実際の比較
図3.事故機の水平尾翼後桁上部コードの疲労破断面
図4.B-707型機のルサカ(ザンビア)空港進入中の水平尾翼破壊による墜落事故イベントツリー図
図5.B-707型機のルサカ(ザンビア)空港進入中の水平尾翼破壊による墜落事故フォールトツリー図
分野 材料
データ作成者 寺田 博之 ((財)航空宇宙技術振興財団)
小林 英男 (東京工業大学)