失敗事例

事例名称 調節弁の緊急時開閉方向の設定ミスで冷却水が停止したことによる農薬製造中の爆発
代表図
事例発生日付 1980年09月02日
事例発生地 福岡県 大牟田市
事例発生場所 化学工場
事例概要 1980年9月2日福岡県大牟田市での土壌殺菌剤製造工場で、ニトロベンゼン、m-クロロニトロベンゼン等を4基の反応器に入れ、塩素を連続的に流して反応中に4基目の反応器で爆発が起こった。反応の立ち上げ時に、塩素流量計が故障し、修理時に4番目の反応器の温度調節計スイッチを誤って切ったため,冷却水の調節弁が閉止され、冷却ができなくなった。反応器内温度と圧力が上昇し暴走反応を起こし、爆発した。調節弁の緊急時開閉方向の設定間違いが原因である。
事象 発熱反応の農薬製造中、誤って温度調整計スイッチが切られたため、冷却水調整弁が全閉になり、反応が暴走し爆発した。
プロセス 製造
単位工程 反応
単位工程フロー 図2.反応缶図
図3.単位工程フロー
反応 ハロゲン化
物質 ニトロベンゼン(nitrobenzene)、図4
塩素(chlorine)、図5
m-クロロニトロベンゼン(m-chloronitrobenzene) 、 図6
事故の種類 爆発
経過 ニトロベンゼン、m‐クロロニトロベンゼン等を4基の反応容器に入れた後、塩素を連続的に流して土壌殺菌剤を製造していた。塩素を最初はA反応器→B反応器→C反応器→D反応器と流し、A反応器の反応が終了したら、B,C,Dと流し、次にC,Dと流す。塩素の供給がAからBに変更されたとき、4番目のD反応器から白煙が立ち、内部の温度と圧力が上昇し、爆発した。
原因 1.運転開始時に塩素流量計が故障した。それを補修している時に、誤ってD反応器の温度調節計のスイッチを切った。そのためD反応器ジャケットへの冷却水の調整弁が全閉となり、冷却水が停止した。D反応器の反応熱を除去出来なくなり、温度が上昇し、暴走反応となり、爆発に至った。
2.塩素の供給がAからBに変更になった時に暴走に至ったのは、それまでの蓄熱と塩素量の増加が考えられる。
対策 1.ごく通常に取られる手段であるが、温度計からの信号がなくなった場合は、冷却水の調節弁を開く計装にする。
2.重要なスイッチ類は他の作業の影響で簡単に切れない配置を考える。
知識化 1.温度上昇が重大な事故に繋がる設備では、温度測定を2重化するなどの冗長化を行う、温度信号が切れたときは熱媒体をカットする、あるいは冷媒を流すとかで温度を上げない工夫をする必要がある。
2.できるならば、反応器内の流体全部を安全なところに放出するなどの安全対策が必要であろう。
背景 1.流量計のスイッチが切れたり、温度調節弁への計装用空気が遮断された時の、調節弁の開閉方向の設計ミスが主因と考えられる。緊急時に冷却を行わなければならない発熱反応に対する冷却なので、緊急時は調節弁は全開にすべきであろう。また運転側も調節弁の緊急時の開閉方向には敏感であるはずなのに、見落としをしているようだ。
2.温度調節計スイッチが簡単に切れた。他の作業の影響で重要な計器のスイッチが間違って切れないような配置と構造にする必要がある。設計時の人間工学的配慮が不足していたのであろう。
よもやま話 ☆ 作動用空気がなくなった時の調節弁の開閉方向は非常によく論議される。しかし調節弁を動かす調節計のスイッチが切れた時に、調節弁を開閉どちらの方向に動かすかは論議されないことがある。両方の作動が正しくなければ、緊急時の安全確保は出来ない。計装担当者の問題ではなく、運転担当、プロセス設計者の問題である。
データベース登録の
動機
温度制御の欠陥による暴走反応の例
シナリオ
主シナリオ 組織運営不良、運営の硬直化、情報連絡不足、誤判断、誤った理解、計装設計配慮不足、非定常操作、緊急操作、誤った調整弁の開閉、計画・設計、計画不良、運転指示書に問題、不良現象、化学現象、異常反応、二次災害、損壊、爆発、組織の損失、経済的損失
情報源 労働省安全衛生部安全課編、新版 労働災害の事例と対策、中央労働災害防止協会(1984)、p.202-204
田村昌三,若倉正英監修、反応危険 -事故事例と解析-、施策研究センター(1995)、p.94
被害金額 約1200万円
マルチメディアファイル 図4.化学式
図5.化学式
図6.化学式
備考 WLP関連教材
・化学プロセスの安全/製造時での事故と安全
・プラント機器と安全-概論/プラント機器と安全概論
分野 化学物質・プラント
データ作成者 吉永 淳 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)