失敗事例

事例名称 ポリエチレン製造装置の停止時における押出機ベントスタックの火災
代表図
事例発生日付 1973年10月25日
事例発生地 神奈川県 川崎市
事例発生場所 化学工場
事例概要 低密度ポリエチレン製造装置(別名高圧法ポリエチレン装置)で、装置の定期修理のため停止作業に入った。反応器出口の分離槽内のレジンの一部を押出機で押し出した後に、重合反応を停止した。その後、押出機の計装用空気元弁を誤って閉めたため、押出機への遠隔操作の供給弁が開になり、分離器の60気圧の圧力が押し出し機にかかった。そのため、押出機内圧が上昇してレジンが破裂板から噴出し、含まれていたエチレンなどのガスに着火、火災となった。さらに事故後の対応が遅れたため被害が拡大した。機器の誤操作防止のための措置,緊急時の対応マニュアルなどを整備した。
事象 低密度ポリエチレン製造装置で、定期修理工事に入るため、重合反応を停止し、反応器出口の低圧分離槽に残っていたポリエチレンを適性レベルまで押出機に排出した。暫くして押出機の破裂板が作動し、ポリエチレンとエチレンガスが噴出し、火災となった。低密度ポリエチレン装置では反応器出口に高圧分離槽、低圧分離槽を直列に設置する。低圧分離槽の底部に溜まる溶融ポリエチレンを押出機に供給する。この押出機の役割の一つに溶存するエチレンの排除がある。
プロセス 製造
単位工程 設備保全
物質 ポリエチレン(polyethylene)、図2
エチレン(ethylene)、図3
事故の種類 漏洩、火災
経過 1973年10月25日07:52 定期修理工事のため、反応を停止した。
 低圧分離槽の溶融ポリエチレンを適性レベルまで押出機に向け排出した。
09:39 押出機ベントスタックの破裂板の方向で「ボン、ボン」と音がした。現場を確認したら、破裂板から溶融樹脂が噴出していた。押出機手動弁を閉めたが、完全閉止はできなかった。
09:40 突然「ボーン」という音がして火災になった。
09:43 自衛消防隊による散水消火を開始し、次いで公設消防隊が消火を開始した。 
09:55 鎮火した。
原因 押出機入口の自動入弁の作動用の計装用空気のバルブが誤って閉止された。そのため、自動入弁が開となり、低圧分離槽に残った溶融樹脂が押出機に供給された。押出機は既に停止していたので、供給された樹脂は、破裂板を作動させ、大気中に流れ出た。その時溶融樹脂の溶け込んでいたエチレンなどのガス分も排出され、静電気で着火したとされた。手動弁も内部にスパナがかみこんでいてエチレンの噴出を止められなかった。
対処 自衛消防隊による散水消火
対策 1.計装用空気配管のバルブを誤操作防止のため針金でロックした(封印)。
2.エチレンの着火防止のため、ベントスタック内にスナッフィングスチーム配管を設け、常時スチーム雰囲気とした。
3.マニュアルを点検し、解釈不明確なものは修正した。
4.自動入弁の緊急時開閉方向を閉に変更した。
知識化 1.定期修理などでは下請け業者に対しても、自社の従業員と同様の安全教育の必要の必要がある。
2.遠隔操作弁の作動用空気遮断時の弁の開閉方向の決定は、全てのトラブルを想定して慎重に決める必要がある。
背景 1.上流側の槽に60気圧の圧力が残っている。この様な場合、遠隔操作弁一つで縁切りする習慣は望ましくない。
2.自動操作弁の作動用空気が遮断された時の弁の開閉方向の検討はされていたか。運転中の計装用空気遮断では開になった方が緊急停止しないのでよいようだが、全体の計装用空気停止時は装置全体が停止方向に向かうので、空気供給遮断時は閉が正解であろう。押出機の停止中に開になれば60気圧のエチレンガスの圧力が掛かるので、当然、緊急時は閉だろうと考える。自動制御弁の作動機構の設計ミスと考える。
3.手動弁にスパナが入っていたのは、上流の分離槽の保全作業時に落としたものであろう。工事管理上に問題があったと思える。
4.計装用空気線のバルブは通常は開閉しない。開閉する場合も責任者の指示に基づき行うべきものである。誤作業や誤判断を招かないように封印等の対策をすべきであろう。現場の運転管理を見直すべきであろう。
よもやま話 事故報告書では、噴出したポリエチレンは245℃で、発火温度 450℃に比べ低温だったので、噴出時の静電気が着火源であるとした、静電気対策が書かれている。静電気対策は常に必要だが、ポリエチレンの発火温度は250℃前後であり、静電気対策が取られていても発火することがあり得る。プラスチックの発火温度に過去の不正確な値が使われ事故の要因になることがある。
データベース登録の
動機
バルブ誤操作による噴出の典型的事故例
シナリオ
主シナリオ 誤判断、誤認知、錯覚・見誤り、組織運営不良、管理不良、事前準備の不足、使用、保守・修理、定常操作、誤操作、操作対象の誤り、不良現象、機械現象、破裂板破裂、二次災害、損壊、火災
情報源 川崎市コンビナート安全対策委員会、NU(株)K工業所第1合成工場 火災原因調査報告書(1974)
高圧ガス保安協会、コンビナート事故事例集(1991)、PAGE197-198
安全工学協会、こんなときに事故が起こる 事故未然防止の基本(1991)、p.45-46
物的被害 エチレンガス約100kg、ポリエチレン約100kg焼失。圧力調整装置一式焼損
被害金額 50万円(NU(株)K工業所第1合成工場 火災原因調査報告書)
マルチメディアファイル 図2.化学式
図3.化学式
備考 定常作業
分野 化学物質・プラント
データ作成者 若倉 正英 (神奈川県 産業技術総合研究所)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)