失敗事例

事例名称 トルエンのスルホン化反応の攪拌再開で爆発
代表図
事例発生日付 1970年08月30日
事例発生地 大阪府 大阪市
事例発生場所 化学工場
事例概要 1970年8月30日 m‐ベンゼンジスルホン酸およびp‐トルエンスルホン酸を製造する装置の反応槽で爆発事故が起こった。この反応槽は、ベンゼンおよびトルエンをスルホン化し、m‐ベンゼンジスルホン酸およびp‐トルエンスルホン酸を製造するものである。反応槽にトルエンを滴下している時に電源異常で攪拌機が停止した。電気系統を修理し、30分後に攪拌を再開した。反応槽内にトルエンが未反応のまま層状に滞留している状態で攪拌を再開したため、未反応物質が急激に反応し、その反応熱で温度が上昇してトルエンが気化して蒸気となって噴出し、空気と混合して爆発性混合気を形成し、着火・爆発したものと推定される。この事故で1名死亡、6名が負傷した。
事象 発災した装置では、ベンゼンおよびトルエンをスルホン化し、m‐ベンゼンジスルホン酸およびp‐トルエンスルホン酸を製造する。反応槽にトルエンを滴下している時にヒューズが溶断して、攪拌機が停止した。ヒューズを取替え、30分後に攪拌を再開した。反応槽からトルエンが噴出して着火し、工場建屋内で爆発が起こり、1名死亡、6名が負傷した。
プロセス 製造
単位工程 反応
単位工程フロー 図3.単位工程フロー
反応 スルホン化
化学反応式 図2.化学反応式
物質 トルエン(toluene)、図4
硫酸(sulfuric acid)、図5
事故の種類 漏洩、爆発
経過 1970年8月30日 硫酸にベンゼンを吹き込んで(第1工程)生成したベンゼンスルホン酸に無水硫酸を加えてm‐ベンゼンジスルホン酸を生成する第2工程を終え、冷却に入った。
14:10 温度110℃を確認して、第3工程のトルエン280kgの滴下を開始した。
 作業員は他の作業に移った。
15:30 撹拌機が停止しているのを他の作業員が見つけた。
 トルエンは、攪拌しながら約1時間かけて滴下することになっていた。
15:55 撹拌を再開した。
 停止を発見から撹拌再開までの間に、故障原因のヒューズの交換を行った。
 その直後、反応槽のフランジ部分から蒸気が噴出し始めたため、危険を感じた作業員は攪拌機の電源を切った。
16:02 爆発が起こった。
 電気係員がメインスイッチを切るため、反応槽から約10m離れた電気室に走っていく途中だった。
 さらに5m離れた隣接工場でも爆発が起こった。
原因 トルエンが未反応のまま層状に滞留している状態で攪拌を再開した。そのため、未反応トルエンが硫酸と急激に反応し、その反応熱で温度が上昇して残っていたトルエンが気化して蒸気となって噴出した。トルエンが空気と混合して可燃性混合気を形成し、着火・爆発したものと推定される。
対策 1.攪拌停止の警報装置を設置する。できればこれと連動する滴下・送給停止装置を設置する。
2.緊急時に内容物を安全に排出できる装置を設置する。
3.作業標準を見直し、次の項目を重点に作業者にその内容を徹底させる。
 (1) 反応の時間経過に伴う温度変化
 (2) 原料仕込み時の攪拌状態の確認
 (3) 原料仕込み時の温度の確認
 (4) 緊急冷却システムの操作
 その他、考えられる異常時すべてを想定し、それらへの対応の手順を確立し、これを作業員に徹底するための教育・訓練を行う。
4.圧力上昇時に備え、破裂板又は安全弁を設け、その出口は安全な箇所に導く。
知識化 1.人は異常事態ではパニック状態におちいり、正常な判断ができなくなり誤った行動をとることが多い。
2.この例の様に簡単に運転再開ができない可能性が大きい場合、容器内の液を安全に緊急抜出しできるような、希釈材を備えた大型タンクとか、反応速度が安全な速度になるまで冷却する装置とか適切な対応がとれるシステムを考えるべきである。
背景 反応危険に対し、ハード、ソフト面とも安全対応が理解されていないように思える。例えば
1.従業員の教育・訓練の不備があった。撹拌再開は作業標準では禁止されていたが、それから逸脱して、撹拌を再開している。あるいは従業員のパニック行動だった可能性もある。
2.攪拌機停止を自動通報し、滴下を自動停止する、攪拌機の運転再開には起動インターロックを設け、考える時間を与えるといったシステムがない。言い換えると、システム設計でヒューマンエラーに対する観点が欠けている。
データベース登録の
動機
作業員の緊急時対応エラーによる事故事例
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、安全教育・訓練不足、不注意、理解不足、スルホン化反応、計画・設計、計画不良、設計不良、不良行為、規則違反、安全規則違反、不良現象、化学現象、異常反応、二次災害、損壊、爆発・漏洩、身体的被害、死亡、1名死亡、身体的被害、負傷、6名負傷、組織の損失、経済的損失、工場建物2棟全焼
情報源 田村昌三,若倉正英監修、反応危険 -事故事例と解析-、施策研究センター(1995)、p.102,103
死者数 1
負傷者数 6
物的被害 木造スレートぶき平屋建工場2棟計300平方メートル全焼.周辺住宅や商店のガラスが割れる
マルチメディアファイル 図4.化学式
図5.化学式
分野 化学物質・プラント
データ作成者 小川 輝繁 (横浜国立大学大学院 工学研究院 機能の創生部門)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)