失敗事例

事例名称 硫酸アンモニウム回収中の過剰濃縮による硝酸アンモニウムの爆発
代表図
事例発生日付 1952年12月22日
事例発生地 愛知県 名古屋市
事例発生場所 化学工場
事例概要 カプロラクタム生産過程で副生する硫酸アンモニウム水溶液から硫酸アンモニウムを回収する真空蒸発装置で、操業中突然大爆発が起こった。濃縮された硫酸アンモニウムが取出されたあとの廃液には、硝酸アンモニウムが濃縮されるが、硝酸アンモニウムは、125℃および84℃の転移点前後において著しく爆発危険性の高い鋭感な硝酸アンモニウムが生成することが知られており、また、わずかの起爆エネルギーで爆轟を起こすことが報告されている
事象 ナイロン製造原料のカプロラクタムの製造装置で爆発があった。微量の硝酸アンモニウムなどを含む副生硫酸アンモニウム水溶液から硫酸アンモニウムを真空蒸発装置で回収していた。突然、大爆発が生じた。図2参照
プロセス 製造
単位工程 蒸留・蒸発
単位工程フロー 図3.単位工程フロー
化学反応式 図4.化学反応式
物質 硝酸アンモニウム(ammonium nitrate)、図5
事故の種類 爆発
経過 ナイロン製造原料カプロラクタムの生産過程で副生する硫酸アンモニウム水溶液は、微量の硝酸アンモニウムやラクタム、オキシムを含んでいる。この水溶液から硫酸アンモニウムを真空蒸発装置で回収作業中、突然、大爆発が生じた。爆発は、真空蒸留装置の2号蒸発缶と地下母液槽で起こり、230m^2の鉄骨スレート建ての回収工場は原形をとどめず飛散し、母液槽付近には直径12m、深さ3mに及ぶ漏斗穴を残した。このような破壊状況から、爆発力は2~5tの爆弾に相当するものと推定された。
原因 硝酸アンモニウムの過剰濃縮による蒸発管の閉塞による爆発と推定された。その理由として以下のものが挙げられる。
1)硫酸アンモニウムが回収された後の蒸発缶塔底液には、硝酸アンモニウムが濃縮(実際に33%で濃縮されていた)されてくる。蒸発管の詰りは蒸発缶塔底液の異常などにより生ずるが、蒸発管あるいはその出口配管を塞ぐような密閉状態が生ずると、硝酸アンモニウムの濃度や温度条件よって爆発することが実験で確かめられた。
2)報告によれば、硝酸アンモニウム製造中125℃および84℃の転移点前後において著しく爆発危険性の高い鋭感な硝酸アンモニウムが生成するが、それは溶液状態の硝酸アンモニウムが結晶化する際に、結晶転移によって多量の熱を一時的に放出し、結晶内部に多量の空気を包蔵したときに生じ、わずかの起爆エネルギーで爆轟を起こすことを示唆している。
対策 1)硝酸アンモニウムは10%を越えて濃縮しない。
2)この条件を確実にするためバッチシステムとする。また、バッチ中からスチーム以外は取出さない。
3)温度、圧力、容量などを規定した条件で運転するために自動制御装置を用いる。
以上が当時出された対策であるが、一定条件を維持するには連続法が望ましいのと、何らかの自動分析計を導入すべきだと考える。
知識化 新規のプロセスを立ち上げる時には、微量不純物にまで配慮した十二分な調査と実験が必要なことを示している。
背景 1.事前調査の不足ではあるが、発災した1952年には、硝酸アンモニウムの爆発に関する詳細は十分には分かっていなかったので、未知とも言える。
2.現在なら、危険性を予測する手段が多々あるので、事前調査を十分に行うことができる。
よもやま話 ☆ 1952年と古い時代の事故ではあるが、硝酸アンモニウムの危険性を示すため記載した。
データベース登録の
動機
物質の危険性に対する基礎知識の欠如がもたらした事故例
シナリオ
主シナリオ 調査・検討の不足、事前検討不足、物質の危険性、価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、計画・設計、計画不良、プロセス設計不良、不良現象、化学現象、濃縮、不良現象、機械現象、閉塞、二次災害、損壊、爆発、身体的被害、死亡、22名死亡、身体的被害、負傷、363名負傷、社会の被害、社会機能不全、142棟等損壊
情報源 日本損害保険協会、防火指針11、 石油化学工業防火・防爆指針(1970)、p.130-132
田村昌三,若倉正英監修、反応危険 -事故事例と解析-、施策研究センター(1995)、p.144
産業災害事例研究会、爆発(産業災害事例集1)(1971)、p.104-107
化学工業協会編、事故災害事例と対策、 化学プラントの安全対策技術 4、丸善(1979)、p.301-302
死者数 22
負傷者数 363
物的被害 工場大破.住宅など142棟損壊
マルチメディアファイル 図2.現場写真
図5.化学式
分野 化学物質・プラント
データ作成者 新井 充 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)