失敗事例

事例名称 ジケテンのタンクに誤ってトルイジンを入れ縮合反応を起こし爆発
代表図
事例発生日付 1972年09月20日
事例発生地 東京都 板橋区
事例発生場所 化学工場
事例概要 有機合成工場で反応開始時のバルブの誤操作により爆発事故が起こった。ジケテンとo-トルイジンからジメチルアセトアニリドを合成する反応で、バルブ操作を誤ってジケテンのトルエン溶液が入ってている滴下タンクにo-トルイジンを加えたため、事故になった。バッチ反応開始時の手順と操作の間違いであろう。
事象 有機化学品の合成工場で、反応開始時の手順間違えで爆発がおこった。ジメチルアセトアニリドを製造するため、ジケテンとo‐トルイジンを縮合させる反応で、トルエンで希釈しておいたジケテンの滴下タンクに誤ってトルイジンを入れたため、急激な発熱が生じ、異常反応により爆発した。本来の手順は、トルイジンのトルエン液を反応器に用意し、それを冷却しながら攪拌しているところに、冷却したトルエン希釈のジケテンを滴下して反応させる。この反応が大きな発熱を伴うためにとられた方法である。
プロセス 製造
単位工程 仕込
単位工程フロー 図2.単位工程フロー
化学反応式 図3.化学反応式
物質 ジケテン(diketene)、図4
o-トルイジン(o-toluidine)、図5
事故の種類 爆発、健康被害
経過 1972年9月20日 ジメチルアセトアニリドを製造する工程で、トルエンを反応器に入れて、交替勤務の後番に引き継いだ。
16:00すぎ 引き継いだ作業員はトルエンで希釈したジケテンを滴下タンクに入れた。
 引き続きo-トルイジンを、すでにジケテンの入っているジケテンの滴下タンクへ入れた。
 滴下タンクの屋外ガス抜き管から刺激性のガスが噴出した。
 滴下タンクを冷却のために注水し反応缶へのバルブを開いた。
 まもなく滴下タンクが爆発した。
 付近住民がジケテンの蒸気により眼に痛みを訴える。
原因 1.コック操作の誤りにより注入すべきタンクが間違った。
2.ジケテンの滴下タンクにo-トルイジンを入れたため、急激な発熱を伴う異常反応が生じた。
対処 1.冷却しようと水道からホースで注水した。
2.バルブを開いて脱圧を図る。
対策 この反応に専用のバッチ装置なら、本来の正しい反応器にだけ薬液が流れるような設備にすることが、根本的な対策になる。多用途の反応器なら、作業前のバルブの確認や物理的分離を複数人で行うことや教育が必要であろう。
知識化 バッチ式の化学プロセスが有する潜在危険性が現れた問題である。バッチ式の化学プロセスは、製造する製品の種類によって作業手順や使用する原料が異なるので、作業標準や緊急時の対策を事前に詳細、かつ、綿密に検討する必要がある。
背景 1.単純なヒューマンエラーに見える。古い事故であり、入手できた資料では明確ではないが、バルブ操作の誤りを起こさせないための作業手順書や教育、および、発熱反応の危険性の事前認知が不足していたのではないかと思われる。
2.操作ミスをしやすいバルブの配置にしない、あるいはバルブの色を塗り分けるなどの注意喚起を怠っていたのではないか。基本的に安全設計の不足であり、安全管理が不十分であると思われる。
データベース登録の
動機
バッチ反応開始時にバルブ操作の誤りによる混触事故例
シナリオ
主シナリオ 組織運営不良、運営の硬直化、教育・訓練不足、不注意、理解不足、リスク認識不足、縮合反応、計画・設計、計画不良、設計不良、定常操作、手順不遵守、不良現象、化学現象、異常反応、二次災害、損壊、爆発、身体的被害、死亡、身体的被害、負傷、身体的被害、発病、近隣住民300人痛み、組織の損失、経済的損失、作業所1棟全焼
情報源 日本火災学会化学火災委員会、化学火災事例集(2)(1974)、p.126-127
田村昌三,若倉正英監修、反応危険 -事故事例と解析-、施策研究センター(1995)、p.30
死者数 1
負傷者数 1
物的被害 鉄骨平屋スレートぶき作業所大破、ほぼ全焼
社会への影響 周辺住民約300人が自主的に避難付近の都営新河岸団地の住民などがジテケンの刺激臭で目やのどに痛みを訴える
マルチメディアファイル 図4.化学式
図5.化学式
備考 WLP関連教材
・化学プラントユニットプロセスの安全/混合
分野 化学物質・プラント
データ作成者 板垣 晴彦 (独立行政法人産業安全研究所 化学安全研究グループ)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)