失敗事例

事例名称 定期修理中のアスファルトタンクにおける硫化鉄による火災
代表図
事例発生日付 1992年10月15日
事例発生地 神奈川県 川崎市
事例発生場所 製油所
事例概要 1992年10月5日より、アスファルトタンクの開放検査のため、軽油を張り込んで3日間循環させた。14日15:00過ぎに軽油を抜き取りマンホールを開放した。約12時間後に白煙発生、その後火災になった。タンク内に生成していた着火性硫化鉄が発熱し、それが引き金となって残存軽油が燃えた。
タンク開放前のタンク洗浄方法を変えたことが原因の一つと推定できる。
事象 2000klのアスファルトタンクの定期整備工事のため、内容物の移送と軽油による洗浄を行い、軽油を抜いて3箇所のマンホールを開放して放置していた。約12時間後に、タンク底部に残存していた軽質油とアスファルトの混合物に着火し火災となった。
プロセス 貯蔵(液体)
化学反応式 図2.化学反応式
物質 アスファルト(asphalt)
事故の種類 火災
経過 1992年8月27日よりアスファルトタンク(コーンルーフ式、2000kl)の定期整備工事を開始し、9月18日までに保有アスファルトを他タンクへ移送した。
10月5日より3日間、タンク内に軽油を張り込んで循環させタンク内を洗浄した。
12日09:00から14日15:00 タンク内の軽油を他タンクへ移送した。終了時に換気のためマンホールを3ヶ所開放した。
15日02:40までの構内パトロールでは異状はなかった。
03:40頃 タンクのベント、マンホール、フランジからの発煙が発見された。
03:47頃 自衛消防隊が側板マンホールに泡放射を開始するが、火勢は一時的に弱まるのみで、火炎が数m噴出した。
04:10 公設消防隊が冷却散水を開始した。
06:08 屋根マンホールと破断開口部から注水を開始した。
06:17 公設消防隊が鎮火を確認した。
原因 タンク内部の屋根や側板の鉄が長年月のうちに酸素、水分、硫化水素と反応して着火性硫化鉄が生成した。マンホールの開放で侵入した空気中の酸素と反応して発熱、発火した。内壁のスラッシャムが剥離落下してタンク底部に残存していた軽油(約1kl)とアスファルトの混合物にスラッジなどが灯芯となり着火したと推定された。
なお、着火性硫化鉄を生成する反応式を図2に示す。
対策 1.残存アスファルトの処理は軽質油の張り込みでなく、従前の手作業によるはつり作業に戻す。
2.旧来の液面計マンホールを同種タンクも含めて撤去する。
3.開放検査での撤去まではマンホール部に保温材を施工する。
知識化 1.タンクの開放検査では、通常時は空気が遮断されている箇所に空気が接することになる。
2.鉄と硫化水素があり、湿潤条件なら硫化鉄は発生する。この場合は解放時に乾燥したら自然発火をすることを前提にしなければならない。
背景 着火性硫化鉄の存在を考慮しなかった検討の不十分さが最大の原因であろう。鉄と硫化水素があり、湿潤環境にあれば着火性硫化鉄の発生を前提にすべきであろう。硫化水素の存在はタンク腐食を発見したときに分かっていたと考えられる。
硫化鉄の存在を考えたら、、軽油洗浄法に変更しなかったと思われる。
よもやま話 ☆ これも変更管理の問題である。洗浄時間とコストを軽減するために”良かれ”と思って変更したのが、十分な検討ができずに失敗した例であろう。コスト軽減が先にありきで無理をしたのでなければ良いのだが。
データベース登録の
動機
作業方法を変えたことによる発災例
シナリオ
主シナリオ 調査・検討の不足、仮想演習不足、想像力不足、価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、非定常行為、変更、作業内容変更、計画・設計、計画不良、設計不良、使用、保守・修理、開放検査、不良現象、化学現象、燃焼、二次災害、損壊、火災、組織の損失、経済的損失、タンク破損
情報源 高圧ガス保安協会、高圧ガス保安総覧(1994)、p.232-233
高圧ガス保安協会、石油精製及び石油化学装置事故事例集(1995)、p.94
川崎市危険物安全研究会、今すぐ役に立つ 危険物施設の事故事例集(FTA付)(1997)、p.227-229
川崎市消防局予防部保安課、川崎市コンビナート安全対策委員会資料(1993)
物的被害 設備破損、混合油若干焼失
被害金額 775万円(石油精製及び石油化学装置事故事例集)
分野 化学物質・プラント
データ作成者 板垣 晴彦 (独立行政法人産業安全研究所 化学安全研究グループ)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)