失敗事例

事例名称 腐食した灯油タンク内で構造物が落下して火災
代表図
事例発生日付 1975年02月16日
事例発生地 三重県 四日市市
事例発生場所 製油所
事例概要 製油所の灯油タンクが突然爆発した。タンクへの留出油が変更されて、腐食性物質を多く含むようになっていた。それを見落としたため内部構造物の腐食が進行した。急激な温度変化や強風の影響が引き金となり、内部構造物が崩壊した。崩壊のショックで火災になった。全面タンク火災ではあるが、鎮火まで約4時間で済んだ。
事象 22,000klの灯油タンクが、突如全面タンク火災を起こした。同タンクは常圧蒸留装置から留出した灯油の一部を臭水処理装置経由で、残部を直接受け入れ、さらに水素化脱硫装置へ送出し中の通常運転中であった。
臭水処理装置:自社開発の有臭廃水の処理装置で、有臭廃水と直留灯油が混合され廃水中の硫化水素などの臭気成分を灯油に抽出する装置である。この灯油には当然、硫化水素など腐食性物質を含んでいる。
プロセス 貯蔵(液体)
単位工程フロー 図2.単位工程フロー
物質 硫化水素(hydrogen_sulfide)、図3
灯油(kerocene)
メルカプタン(mercaptan)
事故の種類 火災
経過 1963年3月 完成検査、重油タンクとして使用開始した。
1967年8月 内部掃除・検査を行う。
1972年6月 内容物を変更して灯油とした。ただし、灯油の一部は臭水処理装置経由である。
1975年2月16日 15:03 発災した。
19:40 鎮火を確認した。
原因 臭水処理装置で有臭廃水中の硫化水素等の有臭分を回収後、水油分離した灯油を受け入れていた。通常の灯油に比べて極めて腐食性が強い。その灯油の長期間使用でタンク内が腐食し、タンク構造物が落下した。落下の衝撃等で発火した。また、当日、急に気温が低下、そのため屋根板の収縮や風圧の影響もあり、タンク構造物が落下したと考えられた。
対処 タンク固定泡消火設備は稼動したが、タンク崩落後の使用状況は不明である。自衛消防隊は化学消防車4台を出動させ、当該タンク及び周辺タンクに泡消火液の送出と冷却散水を行い、公設消防到着後は公設消防の指揮下に入った。公設消防隊による消火活動が行われた。
対策 1)臭水処理装置を廃止した。
2)半製品灯油タンクに窒素シールを行った。
3)消火設備の増強を行った。
4)集合煙突にTV監視装置を設置し、24時間監視体制を図った。
なお、予防のためには、タンク内の開放検査が重要であろう。
知識化 硫化水素を含む半製品の灯油のタンクが腐食することに気付かなかった。このことで、タンク内開放検査が重要であることが分かり、法令の改正が行われた。また、消防設備の重要性が論じられ、石油コンビナート法制定に進んだ。
背景 内容物が腐食性物質であり、タンク内で構造物に急速に腐食が進んでいたのを見落とした。安全管理の問題だが、何故見落としたかは明確でない。
後日談 M石油M製油所に次ぐ大規模コンビナート災害で、石油コンビナート法制定のきっかけとなった。そこで消防用の3点セットが義務化された。
よもやま話 自社開発装置の運転後のフォローの大切さを示している。開発者は自らの開発部分については注意するが、関係先への影響をフォローすることを忘れがちである。開発者自身が注意すると同時に、関係先は状況が変わったことを理解して、その影響をフォローすることを常に意識する必要があるのであろう。
データベース登録の
動機
留出油の腐食性を見落として、腐食した大規模な石油タンクの事故例
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、リスク認識不足、調査・検討の不足、仮想演習不足、想像力不足、組織運営不良、管理不良、管理の緩み、計画・設計、計画不良、プロセス設計不良、使用、保守・修理、点検しない、破損、減肉、腐食、破損、大規模破損、内部構造物落下、二次災害、損壊、火災、組織の損失、経済的損失、損害額3億円
情報源 消防庁、危険物製造所等の事故事例集-昭和50年(1976)、p.132-133
自治省消防庁消防研究所、消防研究所技術資料第7号 Y市D石油タンク火災原因調査報告書(1975)
北川徹三、爆発災害の解析、日刊工業新聞社(1980)、p.36-38
四日市市消防本部、近代消防、No.264、p.44-49(1984)
死者数 0
負傷者数 0
物的被害 2万2000Klタンク(T220-102号本体及び付属物件)全焼、隣接タンク(隣接T220-107号タンク)側板塗装部焼損。
被害金額 3,600万円(自治省消防庁による).
社会への影響 四日市市南署は周辺1300戸に避難準備命令.
マルチメディアファイル 図3.化学式
分野 化学物質・プラント
データ作成者 古積 博 (独立行政法人消防研究所)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)