失敗事例

事例名称 蒸留塔還流ポンプのエア抜き配管折損部からの重質軽油の噴出、火災
代表図
事例発生日付 1978年10月30日
事例発生地 神奈川県 川崎市
事例発生場所 製油所
事例概要 常圧蒸留装置の蒸留塔還流ポンプのエア抜き配管の取り付けねじ部付近が腐食折損して、内容物の高温重質軽油が噴出して、火災となった。火災発生後直ちに消防活動を行い、火勢を抑制した後、バルブを閉止して鎮火した。
配管折損の原因は、(1)ねじ部付近の腐食減肉、(2)配管材料選定ミス、(3)支持不足による荷重、(4)運転中の振動の繰り返し荷重の4点が重なった結果と考えられた。これらの結果、高温の重質軽油が発火したものと考えられる。当該配管のような小口径の枝管の規格は、本来は設計基準で規定すべきものである。
事象 常圧蒸留装置の蒸留塔還流ポンプのエア抜き配管の取り付けねじ部付近が腐食折損した。内容物の高温重質軽油が噴出して、燃焼した。
プロセス 製造
単位工程 蒸留・蒸発
単位工程フロー 図2.単位工程フロー
物質 重質軽油(heavy gas oil)
事故の種類 漏洩、火災
経過 当装置は1978年9月26日から10月27日まで定期修理を行った。
10月28日 スタートアップを開始した。
30日09:34頃 装置は平常運転になっていた。蒸留塔還流ポンプが空引きするトラブルが発生し、計器室でアラームが作動した。
09:35頃 装置点検のため巡回中の係員がポンプから油が霧状に噴出しているのに気づき緊急停止操作を行った。
09:38頃 噴出している油が発火して火災となった。119番通報し、消火活動を行った。
09:45頃 火勢が弱まったので、ポンプ近くのバルブを閉止して完全に消火した。
原因 1.エア抜き配管(呼び径3/4インチ)は11年間使用していたため、腐食で減肉していた。本来使用すべき肉厚配管ではなく通常の配管が使われていた。
2.この配管は十分な支持がなされていなかったので、全体の荷重がねじ込み部にかかっていた。そのため、運転中の振動により繰り返し荷重がかかり、ねじ込み部付近に亀裂が生じ、高温の重質経由が噴出したものと推定される。噴出した油の温度は発火温度より高かったので、空気と混合して発火したものと考えられる。
3.ポンプのベント孔は呼び径1/2インチが多い。多分1/2インチの配管をベント孔にねじ込み、そこから1/2-3/4インチのレデューサーで3/4インチ配管に接続している。
対処 1.緊急停止
2.消火活動
3.バルブの閉止
対策 1.エア抜き配管をプロセス配管から取り出し、ポンプケーシングのベント孔はプラグをつけてシールした。
2.小口径配管の設計、取り付け、検査の基準を整備した。
知識化 システムの周辺部は重要度が低いと見なされ、点検、管理が不十分となりがちであるが、これが事故の原因となることがある。
背景 当該配管は重要度が低いと見なされ、運転管理上ほとんどケアされなかった。設計製作面では、このような配管は、設計基準でカバーされるべき性質のもので、設計基準に肉厚、サポートの取り方、ねじ込み部のシール溶接等を規定すべきである。この装置の設計時には設計基準を作り、標準化するところまで行っていたか不明である。
後日談 類似配管を全て点検した。
よもやま話 ☆ 耐圧1.0MPaG程度の通常の配管では、schedule40、大口径管ではschedule30と呼ばれる厚さの鋼管が使われる。2または1・1/2インチ以下の小口径配管では強度を考慮してschedule80の肉厚配管を使用する方が安全である。また、このポンプの詳細は分からないが、ポンプ本体のベントは通常1/2インチのプラグ孔であり、3/4インチ配管を接続する時は、充分なサポートを取ることなどが常識的であるが、何故取っていなかったのだろうか?
☆ Schedule30,40,80とは配管の肉厚を決めたアメリカの規格で、石油精製、石油化学関係などでは一般的に用いられている。数字の大きい方が肉厚が大きくなる。
データベース登録の
動機
小口径配管腐食折損による内部流体噴出火災事例
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、安全対策不良、組織運営不良、管理不良、管理の緩み、計画・設計、計画不良、設計不良、使用、保守・修理、11年間点検しない、不良現象、機械現象、振動、破損、減肉、腐食、二次災害、損壊、漏洩・火災、組織の損失、経済的損失
情報源 消防庁、危険物製造所等の事故事例集-昭和53年(1979)、p.46-47
吉田末男、第27回全国消防技術者会議資料(1979)
高圧ガス保安協会、コンビナート事故事例集(1991)、p.149-151
川崎市危険物安全研究会、今すぐ役に立つ 危険物施設の事故事例集(FTA付)(1997)、p.20-22
死者数 0
負傷者数 0
物的被害 約10m範囲のポンプ、モーター、パイプラック上の配管、電気計装類が焼損.
被害金額 約300万円(消防庁による)
分野 化学物質・プラント
データ作成者 小川 輝繁 (横浜国立大学大学院 工学研究院 機能の創生部門)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)