失敗事例

事例名称 アクリル樹脂接着剤製造で仕込み量の間違いからの反応暴走による噴出
代表図
事例発生日付 1991年10月30日
事例発生地 埼玉県 川越市
事例発生場所 塗料工場
事例概要 アクリル樹脂製造装置のバッチ反応器で、コンピューターの誤操作でモノマーと溶剤の仕込み量を誤った。そのため、反応が暴走し噴出事故となった。コンピューターの操作標準書が確立されていれば操作ミスは防げた。また、反応前に仕込量をチェックしていれば仕込量の誤りを事前に気付くことができた。さらに、プロセス設計時あるいは運転開始時にHAZOP的検討を行っていれば、潜在危険に気付いたであろう。
事象 バッチ反応で合成を行うアクリル樹脂製造装置で漏洩があった。反応が暴走し、反応器内容物が、圧力逃し管内の破裂板(90KPaG)を作動させ、屋外の受槽に放出された。しかし、一部がコンデンサーのフランジ継手部のテフロン製パッキンを破壊して噴出した。
プロセス 製造
単位工程 仕込
単位工程フロー 図2.単位工程フロー
物質 アクリル酸ブチル(butyl acrylate)、図3
酢酸エチル(ethyl acetate)、図4
アクリル樹脂(acrylic resin)
事故の種類 漏洩
経過 アクリル樹脂製造装置の反応器に樹脂、アクリルモノマー及び溶剤(酢酸エチルなど)をそれぞれに仕込み、管理室で遠隔操作により加熱を開始した。設定温度まで加熱が終了したのを確認し、反応器の状態確認に現場へ行った。コンデンサーのフランジ部からの液漏れを発見、他の作業員に異常反応を知らせた直後、白煙が室内に噴出した。
原因 コンピューターの誤操作でモノマーと溶剤の仕込み量を誤ったため、反応が暴走した。
対処 消防隊は、火災に備えて待機した。
対策 1.コンピューター操作標準書の確立と実行
2.反応開始前に反応槽内の原料組成を確認
知識化 仕込量の間違いは反応暴走を誘発する大きな潜在危険をはらむ。事前に仕込量違いの影響評価を行い、それに応じた適切な対策を装置、作業の面からたてておくことが望まれる。
背景 反応系の設計時点あるいは運転開始後に、仕込量が間違った時に何が起こるか検討されていない可能性がある。HAZOP的な検討がなされれば、当然計器への誤指示あるいは計器の操作ミスの危険性が指摘されるだろう。管理者側の検討不十分が真の原因であろう。さらに運転管理として、操作ミスの発生する管理体制、反応暴走を起こすような仕込量の入力を簡単に許すシステム、また、仕込量がチェックされずに反応を開始した作業体制も問題であう。
よもやま話 ☆ 仕込量の間違いがトラブルの原因になるなら、なぜ二重三重の安全対策を取らないか。バッチならば計量槽を置くことで大きな対策になる。
データベース登録の
動機
バッチ反応器の仕込み量の制御の間違いをまったく予期しない設備と作業による事故例
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、安全対策不足、組織運営不良、運営の硬直化、チェック体制不十分、不注意、注意・用心不足、確認不足、計画・設計、計画不良、計量管理計画、定常操作、誤操作、誤設定、不良現象、化学現象、異常反応、二次災害、損壊、漏洩、組織の損失、経済的損失、損害額1,600万円
情報源 消防庁、危険物に係る事故事例‐平成3年(1992)、p.446-447
全国危険物安全協会、危険物施設の事故事例100-No.2-(1994)、p.119-120
若倉正英、飯塚義明、災害の研究25(1994)、p.301-311
死者数 0
負傷者数 0
物的被害 建物内約25平方mの範囲に約100リットルのアクリル樹脂接着剤の中間物が付着,設備機器汚損及びコンデンサーパッキンが破損.
アクリル樹脂接着剤の中間物約33500L被害.
被害金額 約1,600万円(消防庁による)
マルチメディアファイル 図3.化学式
図4.化学式
分野 化学物質・プラント
データ作成者 土橋 律 (東京大学大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)