失敗事例

事例名称 緊張作業中シングルストランドが飛び出す
代表図
事例発生日付 1995年07月10日
事例発生地 福島県
事例発生場所 プレストレストコンクリート橋梁架設現場
事例概要 事故当日、横締め用シングルストランド(19本よりφ21.8、引張荷重57トン、長さ約10m、重量24.8キログラム/本)全43ケーブルの内、39本目を緊張中に緊張力がほぼ定着荷重に達した時、突然緊張ジャッキ内のシングルストランドを掴んでいたインナーウェッジが外れた。そのため緊張中のシングルストランドが固定側の定着具を付けたまま緊張側と反対に飛び出した。この飛び出したシングルストランドが約11m離れた所で護岸工事の石積みをしていた、他社の作業員の左鎖骨に当たり死亡した。
事象 平成7年7月10日午後1時55分頃、プレストレストコンクリート橋の横締め緊張作業中にシングルストランドが飛び出し、約11m離れた場所で作業していた他社の作業員にそのシングルストランドが当たり死亡する事故となった。
経過 ・PC鋼材(プレストレスコンクリートに用いる高強度鋼材で、PC鋼より線と鋼棒がある)を短い長さで注文した。
・余長の確認をしないで緊張した。
・緊張中シングルストランドが固定側へ飛び出した。
・防護板を緊張ジャッキ側のみ設置し固定側は無かった。
・シングルストランドが約11mはなれた所で作業していた作業員に当たり死亡した。
原因 ・元請社員が短い材料を注文し、この短いPC鋼材を使用して緊張した。
・緊張時、ウェッジの位置が悪かった。(ジャッキ内のウェッジ位置がストランドの端部寄りとなり、ストランドの縒りがゆるまり滑り出た)
・緊張作業時、背面に防護板を設置しなかった(直接的要因)。
・施工管理不足が根本要因である。
対処 20センチ長いPC鋼材に取り換え緊張した。
対策 ・ストランド注文時には所定の長さを注文する。
・ストランドの定着具をセットした段階で、ストランドの余長を確認する。
・ジャッキセット時にストランドの所定の長さが、ジャッキ後方より突き出ている事を確認してから緊張作業を開始する。
・緊張が終了しジャッキ解放後には、ジャッキシリンダーが完全に復帰したことを確認する。
・緊張中はストランドの飛び出しを予測し、緊張側、固定側共に防護板を設置する。
・インナーウェッジの摩耗状態を確認する。
知識化 ・縒り線タイプのPC鋼材の切断面付近は縒りが戻る!
・両端で緊張されているPC鋼材は、切断面の反対方向へ飛び出す!?
・緊張作業の管理、確認を怠るな!!
背景 プレストレストコンクリート橋梁工事として、本工事は小規模工事である。
工事の規模、難易度により職員を専任するわけであるが、この現場担当者は入社4年目であり経験が十分とは言い難い。また横締緊張作業標準やチェックリストなど完備されておらず、現場管理体制が不十分であった。
作業員については緊張に携わる協力会社の職長を始めとする作業員も、この作業に経験がありながら、朝礼後のツールボックスミーティングや危険予知活動もマンネリ化しており、本当の意味でどのような危険があるかということ(PC鋼線の飛び出し)に真剣に取り組んでいないことがある。
データベース登録の
動機
緊張作業はプレストレストコンクリートの命であり、同じ間違いを繰り返さないため!!
シナリオ
主シナリオ 調査・検討の不足、事前検討不足、材料手配不備、組織運営不良、管理不良、余長の未確認、定常操作、誤操作、固定端保護具未設置、破損、破壊・損傷、ストランド飛び出し、身体的被害、人損、接触、身体的被害、死亡
死者数 1
負傷者数 0
マルチメディアファイル 図2.事故概況図
図3.緊張ジャッキ図
備考 コンクリートは圧縮に強く引張りに弱いという弱点を補強するためにコンクリート中に鉄筋を使用したものを鉄筋コンクリートという。また鉄筋の代わりにPC鋼材を用いてあらかじめ圧縮力を導入したコンクリートをプレストレストコンクリートという。圧縮力を導入する作業を緊張といい、ポストテンション方式、プレテンション方式の2種類の方式がある。
本現場はポストテンション桁を並べ、その桁同士を横締めPC鋼材により一体化させたプレストレストコンクリート橋である。使用横締めPC鋼材には一般的に使われているシングルストランドを用いていた。
分野 建設
データ作成者 飯田 忠之 (株式会社 ピー・エス 土木部)
太田 豊 (株式会社 富士ピー・エス 東京支店)
國島 正彦 (東京大学)