失敗事例

事例名称 土止めパネルを支えていた丸太がはずれ、パネルの下敷きとなる
代表図
事例発生日付 1998年03月23日
事例発生地 群馬県沼田市
事例発生場所 公共下水道(管渠築造)の新設工事現場
事例概要 公共下水道(管渠築造)の新設工事現場において、幅約1.2m、深さ約4.1mの堀削した溝の埋戻し作業中、土止め支保工(建込み簡易土止め工法)を設置したまま埋戻しをすると土止めパネル(溝の片側に上・下2段のパネル)に土圧がかかり、パネルが抜けなくなるため、上のパネルを抜きとり、下のパネルをバックホウで約1.5m吊り上げ、被災者がその下にパネルの中央部付近に丸太をあてがい、吊ってワイヤーを外した。被災者が足元にあった木片を上に放り投げていたところ、バランスを崩し、転倒した。そのとき、丸太が外れ、パネル(約710キログラム)が落下し、下敷きとなった。
事象 1998年3月23日 午後1時50分頃に、公共下水道の新設工事現場において、土止めパネルを支えていた丸太に被災者があたったため、丸太がはずれ、パネルが落下した。
経過 ・当日の午前中は、ヒューム管の施設と砂の埋戻しが行われ、午後からは、隣の区間の堀削とヒューム管の施設、埋戻しを行うこととなった。
・埋戻しの作業手順は、まず、左右両側に上下2段の土止めパネルを設けているが、 小型のバックホウでは、埋戻しの段階で2枚のパネルを同時に抜くことができない ので、最初に上段パネルを吊り上げ抜きとった。
・下段のパネルも同様な方法で1.5m吊り上げ、溝内に待機していた被災者がパネルの下に丸太を一本あてがった。そのあと、パネルの吊りワイヤーをはずした。
・被災者が足元の木片を拾い地面上に放り投げていたとき、体のバランスを崩し、丸太にあたり、そのためパネルが被災者の胸部に落下した。
原因 ・作業計画上、下段のパネルを丸太一本で支えるというような不安定な支え方であり、しかも下段パネルの吊りワイヤーを外していたため、危険な作業方法で作業を行ったこと
・埋戻し作業時に、溝内の被災者を地上に退散させることなく、作業を続行したこと
・この工法の施工技術や安全な作業方法に習熟しておらず、安全教育が行われていなかったこと
対策 ・埋戻しの作業において、指定された仕様書に適した機械設備(クレーン、バックホウ) と施工手順(建込み簡易土止め工法の正しい作業手順)を採用すること。
・埋戻し作業において、作業の都合上、溝内で作業を行わせるときには、作業の状況を監視し、作業時の安全を確認すること。
・関係作業者に対し、工法における作業の流れ、溝内作業における注意事項、禁止事項等について適切な安全教育を実施すること。
・溝内作業では無理な動作、作業姿勢をとらせないよう関係作業者を指導すること。
知識化 ・建込み簡易土止め工法の仕様書に定められた機械設備を用意し、施工手順どおりに施工を行えばこのような失敗は発生しない。
・基本的な安全施工方法、施工手順を守ることにつきる。
背景 ・今回の工事では、3つの幹線があり、この現場以外の2つの幹線は、一般的な土止め支保工を設置して工事が進められたが、災害が発生した幹線(現場)では、場所の地形、堀削の深さ、工事期間等を考慮して、建込み簡易土止め工法が採用されていた。
・この工法では、通常トラッククレーン(吊上げ荷重4トン)を用意して上段と下段の2段のパネルを同時に吊り上げ、吊りおろしを行うよう指定されていたにもかかわらず、始めからトラッククレーンを用意しておらず、小容量のバックホウ(バケット容量0.4m3)1台のみを使用していたことからも基本的に施工手順どおりではなかった。
・今回の現場で、1回だけ、角材による丸太と同様な方法でうまく行ったことが、危険に対する意識を全く持たなかったことになった。
後日談 ・元請と下請の双方とも、これまで下水道工事を施工することがなかったことや元請の現場代理人の経験が浅いため、下水道工事現場における適切な施工管理を行うに足りる安全の知識や経験が不足していたことが判明した。
よもやま話 ・通常は、元請の現場代理人が土止め支保工作業主任者として選任されていたが、その者が不在の場合は、元請社員と下請現場主任のいずれかが作業指揮をとることとなっていた。
当事者ヒアリング ・土止め支保工の組立て、解体時の作業の安全性の確保について、特別に関係作業者に注意を与えたり、安全な作業方法・手順についての安全教育をしていないという。作業時の危険性についての認識が全く欠如していた。
データベース登録の
動機
同種及び類似の労働災害を発生させないために!
シナリオ
主シナリオ 組織運営不良、構成員不良、現場管理者経験不足、価値観不良、安全意識不良、安全教育・訓練不足、定常操作、手順不遵守、仕様書不遵守、定常動作、危険動作、不安定な支持、定常動作、不注意動作、バランスを崩す、破損、破壊・損傷、支持倒壊、破損、大規模破損、パネル落下、身体的被害、死亡
情報源 http://www.jaish.gr.jp (安全衛生情報センター)
死者数 1
負傷者数 0
物的被害 不明
被害金額 不明
全経済損失 不明
社会への影響 公共下水道施設工事の発注者に対する信頼感の失墜はもとより、社会的にもずさんな施工に対する不信感や危険性への恐怖感を与えた。
備考 平成14年3月 建設業労働災害防止協会では、この工法を含む「土止め先行工法に関する指針」を制定した。
分野 建設
データ作成者 狩野 幸司 (建設業労働災害防止協会)
國島 正彦 (東京大学)