失敗事例

事例名称 浜岡原発タービンの損傷
代表図
事例発生日付 2006年06月15日
事例発生地 静岡県御前崎市
事例発生場所 中部電力浜岡原子力発電所
事例概要 原子力発電所で、タービンが損傷して自動停止し、続いて原子炉が自動停止した。タービンのカバーを外して内部点検したところ、低圧タービンの外側から3段目の動翼1本が、車軸への取付部が折れて脱落していた。同様の翼を検査したところ、840本中663本の動翼で損傷が発見された。試験運転中に、タービン本体の設計時に想定されなかった異常振動が起きたことによる金属疲労が原因と推定される。仮復旧での運転再開までに9ヶ月間を要した。
事象 2006年6月15日午前8時39分「タービン振動過大」の警報が鳴り、タービンが停止、続いて原子炉が緊急自動停止した。6月19日からタービンのカバーを外して内部点検したところ、低圧タービンBの外側から3段目(第12段)のタービン動翼1本が、車軸への取付部が折れて脱落していた。同様の翼を全840本を検査し、最終的には計663本の動翼で損傷を発見した。仮復旧での運転再開までに9ヶ月間を要した。
経過 浜岡原子力発電所5号機は、定格熱出力一定運転(出力1,406MW)していたところ、6月15日午前8時39分に、「タービン振動過大」の警報が鳴り、タービンが自動停止した。続いて原子炉降圧操作を行い、6月17日午前11時3分に炉水温度100℃以下で停止した。このトラブルでは、放射線の漏洩などの被害はなかった。
図2に発電機の構造を示す。発電用タービンは、高圧タービン1つと低圧タービン3つから構成され、警報は低圧タービンBの両側の軸に取り付けられた第5軸振動検出器と第6軸振動検出器で検知された異常に大きな振動によって発信された。
6月19日、中部電力は、タービンのカバーを外して内部点検を行ったところ、低圧タービンBの第12段(外側から3段目)のタービン動翼がとれて落下しているのが見つかった。車軸への取付部(フォークと呼ばれる)が折れていた。
7月11日までに、超音波探傷や磁粉探傷などの非破壊検査で点検を進め、タービンA、B、Cのすべての第12段翼を調査したところ、全840本中、663本の取付部に異常が起きていることがわかった。第13段、第14段の翼については、異常が見つからなかった。
原子力安全・保安院は6月30日、浜岡5号炉と同じ型の蒸気タービンの北陸電力・志賀原発2号炉(ABWR、135.8万キロワット)に対して、低圧タービンの第12段の動翼の点検を指示した。検査の結果、840枚中258枚に異常が見つかった。
原因 脱落した翼の破面を観察した結果、高サイクル疲労特有の模様(ビーチマーク)が確認された。これと運転履歴を照合し、さらに低負荷運転時の応力を解析した結果、破断原因は以下のように推定された。
試運転中に実施した出力20%の負荷遮断試験時に、低圧タービン内に「蒸気流の乱れによる不規則な振動(ランダム振動)」(図3)と「出力遮断時などに起こる一時的な蒸気の逆流(フラッシュバック)による翼の振動」(図4)とが同時に発生し、それらが重なり合って繰返し作用したことで、高サイクル疲労によってひび割れが進展し、最終的には定格運転時の回転による遠心力に耐えられず破断・脱落に至った。
損傷したのは新型タービンで、高効率化のために従来より大型に設計されていた。
設計当時の知見ではランダム振動の発生領域は主に第14段とされていたため、第14段と第13段には振動対策が施されていたが、第12段への影響は想定されていなかった。
また、無負荷および低負荷運転時のフラッシュバック振動は一時的なもので、メーカ側は強度の観点で問題ないとしていた。ユーザ側は、試験運転が定格運転より安全であると考え、メーカの想定以上に試験運転を行った。
対処 復旧のためには低圧タービンの第12段翼を取り替える必要があるが、全840枚を確保するには時間がかかる。当面の電力供給のために、第12段翼の代わりに他で使用実績のある圧力プレート(蒸気の流れを整えるための回転しない整流板)を設置して復旧を行い、2007年3月から営業運転を再開した。
対策 低圧タービンの第12段翼を全数交換するにあたって、ランダム振動およびフラッシュバック振動を考慮して翼を新たに設計・製作する。また、車軸も翼取付部にひび割れが見つかったことから新たに製作する。
また、メーカでは、タービンの設計にあたって検証が十分でない面があったことから、従来の知見をそのまま適用してよいかを十分精査した上でモデル試験の適用範囲を決定する、モデル試験計画時に実機を模擬していない項目をリストアップして十分評価する、などの項目を設計部門の基準に反映して、設計管理面の改善を図ることとなった。
知識化 ・低速・低圧がいつも安全であるとは限らない
・実際の使用状況を十分に想定して設計を評価すべきである
背景 中部電力浜岡原発5号炉の発電用タービンは改良型沸騰水型(ABWR)、定格電気出力135万kW級、毎分1,800回転機として世界で初めて設計されたものであり、営業運転開始前の国の使用前検査(義務)に従い、緊急時を想定しタービンへの主蒸気や発電機を遮断して、回転が安全に停止するのを確認しなければならなかった。その後2005年1月18日に運転を開始し、事故時は1回目の定期検査を終えて2006年3月に再起動したばかりだった。
シナリオ
主シナリオ 誤判断、誤った理解、試験運転への安全意識、調査・検討の不足、仮想演習不足、使用状況の検討不足、調査・検討の不足、事前検討不足、低負荷時の検討不足、計画・設計、計画不良、疲労強度不足、使用、運転・使用、試験運転中の負荷遮断、不良現象、熱流体現象、異常振動、破損、大規模破損、原発タービン破損、組織の損失、経済的損失、営業運転の停止、社会の被害、人の意識変化、原発反対運動の活発化
情報源 「中部電力(株)浜岡原子力発電所5号機の自動停止について」、経済産業省 原子力安全・保安院 報道資料
中部電力プレスリリース http://www.chuden.co.jp/corpo/publicity/press/list2007.html
日立製作所ニュースリリース http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2006/10/1027.html
日経ものづくり 2006年12月号
死者数 0
負傷者数 0
被害金額 中部電力・北陸電力合わせて総額1500億円の被害が見込まれる
社会への影響 原発反対運動の活発化
マルチメディアファイル 図2.発電機の構造
図3.ランダム振動発生のメカニズム
図4.フラッシュバック振動発生のメカニズム
備考 事例ID:CZ0200703
分野 その他
データ作成者 土屋 健介 (東京大学)
畑村 洋太郎 (工学院大学)