失敗事例

事例名称 ニューヨーク大停電
代表図
事例発生日付 2003年08月14日
事例発生地 米国およびカナダ
事例発生場所 オハイオ州、ミシガン州、ペンシルバニア州、ニューヨーク州、バーモント州、マサチュセッツ州、コネティカット州、ニュージャージー州、オンタリオ州(カナダ)
事例概要 真夏のアメリカ北東部8州とカナダ南東部1州で、電力供給支障が約6180万kw、停電人口約5000万人、被害額40~60億ドルと、北米史上最大の停電となった。米国オハイオ州北部ファーストエナジー(FE)社の発電所で送電線に障害が発生したのをきっかけとして、送電線の樹木との接触による遮断などで、電力系統内で電力動揺が発生し各州の発電所が次々と電力供給を停止したことが原因である。電力インフラストラクチャーの脆さを見せつける結果となった。今回のカスケード現象(連鎖的に伝播する現象)で生じた停電の範囲を図2に示す。
事象 真夏のアメリカ北東部とカナダ南東部で、次々と電力供給が停止しはじめ、最終的に電力供給支障が約6180万kw、停電人口約5000万人、被害額40~60億ドルと、北米史上最大の停電となった。
経過 2003年8月14日12:15、FE社の信頼性コーディネータ(MIMO)の状態予想機能(SE)が停止する。SEの異常に気付いたアナリストが、トラブルシューティングのため自動制御機能を「オフ」とし、手動でSEを更新した。
13:31、送電能力が小さいオハイオ州のFE社所有のEastlake5発電所が停止した。
14:02、電力会社DPL社の送電線が樹木との接触により遮断された。
14:14、FE社の制御室で電力管理システム(EMS)の警報機能が停止した。14:40に警報機能を管理するサーバー・コンピュータが停止、そのコンピュータで処理されていたEMS機能は自動的にバックアップ・サーバーに移行されたが、その13分後にそのサーバーもダウンし、EMS機能全てが停止したが、オペレータは異常を把握していなかった。
14:40、MIMOにてSEの自動制御機能が「オフ」になっていることが発見され、再起動を試みたが失敗した。
15:05、オハイオ州南東部から北部を結ぶ345KV級送電線5線のうちHarding-Chamberlain送電線が樹木との接触で遮断、Hanna-Juniper送電線に電力負荷が集中した。
15:32、Hanna-Juniper送電線が樹木に接触して遮断、Star-South Canton送電線に電力負荷が集中。
15:41、Star-South Canton送電線が樹木との接触で遮断。
15:45、Canton Central-Tidd送電線が遮断。
16:05、Dale-West Canton 138KV送電線が遮断。2秒後に345KV級送電線5線のうち最後のSammis-Star送電線も遮断。
16:06、カスケード現象が始まり、送電線が次々と遮断。
16:13、カスケード現象が止まったが、この結果263ヶ所の発電所、531機の発電機が遮断され、ニューヨーク市等を含む広範囲に大停電が起った。
原因 1.直接の原因
・SEの停止:当時遮断中であったBloomington-Denios Creek送電線の状態がSEのモデルに反映されなかったことにより、採取されたデータとモデルデータの間に誤差が生じた。
・FE社のアナリストがSEを更新後、忘れて自動制御機能を「オン」にしなかった。
・送電線が樹木との接触で遮断:FE社は、2001年と2002年の調査メモには、樹木の生長を警告する記述が残されていた。
2.被害が広範囲に広がった原因
・FE社とMISOの双方停電の前兆を早期に察知することができなかった。
・一部送電線への負荷が集中した。
・「カスケード現象」(電力系統の構成要素が連鎖的に崩れていく現象)で送電線や発電所の停止を連続的に引き起こした。
3.根本的な原因
・電力事業の小規模独立事業者への分割:規制緩和による「電力の自由化」で、小規模の独立事業者の参入によって電力の安定供給や信頼性維持が軽視された。その理由として、米国における電気事業は、歴史的な経緯から、数多くの中小規模の事業者(私営約230社、協同組合営約890社、地方公営約200社など)により運営されており、もともと電力流通の広域化に対応した設備投資が行われにくい環境にあった。このことはFE社における不適切な樹木管理にもみてとれる。
対処 ・米加合同タスクフォースの設置:米側エイブラハムエネルギー省長官、加側ダリルワル天然資源相をヘッドに設置。8月20日に初会合。
・米国下院エネルギー・商業委員会公聴会の開催:9月3日、4日、原因解明と再発防止に向けて開催。
対策 米国における特異な電気事業形態による事故であり、根本的な対応に関する情報は見つからない。
日本では、停電の発生やその連鎖的拡大防止のための多重化や系統の電圧や電流等の状況を常に監視し、異常を検知した場合は直ちに、当該箇所を系統から切り離すことによって、大規模な停電が起きないシステムが構築されている。
知識化 1.ネットワークで構築された大規模システムは、集中と連鎖という脆弱性をもつ。
2.規制緩和による自由化は競争による価格低下というメリットをもたらすが、全体的なシステム不統合というデメリットももたらす。
3.冗長系のシステムが、必ずしも大事故の発生を防止するとは限らない。
背景 1992年の「エネルギー政策法」(EPACT)で、独立事業者に発電事業が認められ、1996年に「オーダー888」で全ての発電業者に送電網が開放されるという「電力の自由化」という規制緩和によって、小規模の独立事業者の参入が可能となったいた。増加する電力需要に対して、発電業者は増加したが、誰もが使用でき維持費の高い送電網は、投資家の投資意欲を駆り立てないので、送電業者の参入は少なかった。その結果、送電網が十分整備されないまま、発電業者が増加するために、一部の送電網に負担がかかっていた。
よもやま話 電気は、光と同様に秒速約30万kmという超高速で移動する特性と、経済的に貯蔵しておくことができないという特性を持つ。発電所で発電された電気は、その瞬間に電力系統内の消費者によって消費される。したがって、電力を安定して消費者に供給するには、電力の消費量(需要)と発電量(供給)のバランスが常に保たれる必要がある。また、電気は送電線内の電圧の高い場所から低い場所に流れようとする特性を持つ。電気はこの特性によって送電線を枝分かれしながら流れる。そのため電力消費地の消費量が急増すると、当地で電圧低下し、電力の流れ込みが発生し、付近一帯に電力動揺を引き起こす。その電力動揺が一定レベルを超えると、送電線は保護のため他線から遮断され、発電所も発電を停止する。
シナリオ
主シナリオ 企画不良、戦略・企画不良、調査・検討の不足、仮想演習不足、手順の不遵守、手順無視、環境変化への対応不良、使用環境変化、樹木成長、非定常操作、操作変更、スイッチ入れ忘れ、使用、運転・使用、計画・設計、計画不良、不良現象、電気故障、短絡、送電路遮断、コンピュータ停止、遮断連続、機能不全、システム不良、カスケード現象、社会の被害、社会機能不全、停電、組織の損失、経済的損失
情報源 畑村洋太郎、飯野謙次、失敗年鑑2003、特定非営利活動法人失敗学会、PAGE99-110
https://reports.energy.gov/B-F-Web-Part1.pdf
http://eneken.ieej.or.jp/data/pdf/718.pdf
死者数 4
物的被害 火災発生60件
被害金額 40~60億ドル(AP通信)
社会への影響 停電人口約5000万人
マルチメディアファイル 図2.ニュヨーク大停電で生じたカスケード現象の範囲
備考 事例ID:CZ0200723
分野 その他
データ作成者 張田 吉昭 (有限会社フローネット)
畑村 洋太郎 (工学院大学)