特定非営利活動法人失敗学会 |
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パロマ湯沸器事故
サイドローズエルピー、ゼネラルパートナー
飯野謙次
【シナリオ】
【概要】 1996年3月、マンションで青年が死亡した事故について、両親が2006年2月に再捜査を依頼。 死因が一酸化炭素中毒によることが認識された。パロマ製瞬間湯沸器不具合の疑いが持ち上がり、 警視庁は経済産業省に報告。調査の結果、同省はパロマ製瞬間湯沸器による一酸化炭素中毒事故が発生し、 死傷者が出ていたことを報道発表した。事故件数は1985年1月より21年間で28件(死亡21名、重軽傷19名)。 原因は、故障した湯沸器の不正改造結線で、パロマは1985年の事故発生当初からそれを認識しながらも、 消費者などに十分な告知をせず被害が拡大した。パロマは責任回避に終始したが、経済産業省は、 2006年8月28日に製品回収命令を発行した。遺族らは民事訴訟を起こし、東京地方検察庁は元社長ら2名を、 業務上過失死傷容疑で起訴した。 【発生日時・場所】 1985年より2005年にかけ、パロマ製瞬間湯沸器改造による安全装置不作動が原因で発生した死亡事故は、 参考文献2より11件、18名が死亡している。詳細は以下表。
給湯器とは、ガスの炎が発する燃焼熱を水道から導き入れた水に伝えて水温を高め、特に溜めることなくお湯を提供する機械である。 給湯器はお風呂の給湯用のものも含めるのに対し、瞬間ガス湯沸器は、給湯器の中でも特に台所の洗い物用に使用されるものを言う。 給湯器をその設置場所と給排気形式により分類すると、表2のようになる。参考文献4によると、 国産第1号機は1930年に陽栄製作所(現在の(株)ハーマン)によるR-121とのことである。 しかし、瞬間湯沸器が広く普及するのは、1960年代から1970年代以降である。 ガス詮からゴムホース、水道から自在ホースで簡単に取り付けられることから、当初開放式瞬間湯沸器が普及したが、 木造家屋に加え、設置当初は人々が換気に気をつけて換気扇を回して使っていた。 この頃はまだ気密性の高いアルミサッシはまだ普及しておらず、家には隙間風が吹いてある程度の自然換気がなされていた。 また、暖房器具には練炭火鉢や石油ストーブが広く使われており、 「火を使うときは換気を良くすること」という知識を人々がもっていた。 ところが、1970年代からのアルミサッシ普及による家屋の気密性向上、 瞬間湯沸器が既に設置された住宅に転入した人の換気に関する知識欠如から次第に中毒事故が増えたものと考えられる。
瞬間湯沸器の基本構造は、ガスを燃焼せしめた時の燃焼熱を、熱交換器を介して流入する水道水に伝達し、 その温度を上げて湯として供給する。表2に示したように、瞬間湯沸器は本体が屋外にあるタイプと屋内式にまず大別され、 屋内式は、ガス燃焼に必要な酸素を含む空気をどう供給するか、また排気ガスをどう排気するかによって細かく分類される。 本記事で取り上げる事故を起こした給湯器は、全て排気ファンのある半密閉(FE)式瞬間ガス湯沸器であった。 ガスの燃焼には空気中の酸素が必要であり、また燃焼によって二酸化炭素、一酸化炭素の有毒ガスが生成される。 二酸化炭素は空気中にも0.03%程度含まれ、ある程度増えても人体に害は及ぼさない。 ただし、通常空気中に約20%含まれる酸素量を減らすほどに増えると人は酸欠を起こす。 また、酸素量を20%に保ったまま二酸化炭素濃度を高めても、それが数%を越えると人体に影響を及ぼす。 一方の一酸化炭素は毒性が強く、酸素を体に運ぶ役割を担う赤血球中のヘモグロビンと、 酸素よりも結合しやすく、その濃度がわずかに上がっただけで頭痛、めまいなどの中毒症状が現れ、 意識不明、死亡に至る。労働安全衛生法の規定に基づき、同法を実施するため定められた事務所衛生基準規則では、 事務所内の一酸化炭素濃度は50ppm(0.005%)以下に保つよう既定している。 この濃度が200ppmを越えると2時間で中毒症状が現れ、1600ppm では20分で発症、2時間で死亡する。 さらに13,000ppm (1.3%) ではわずか1から3分で死亡に至るとされている。 一酸化炭素は、ガス燃焼に必要な酸素が少ない不完全燃焼で発生しやすくなる。 【経過】 1996年3月、東京都港区で一人暮らしの21歳男性が死亡しているのを訪ねてきた友人2人が発見。 赤坂警察署は死因を心不全と考え、遺族にもそう説明した。この時、担当刑事は『本人の健康管理や、 親の監督がなっていない』と言ったという。死亡した男性は島根県に住む男の子が3人いる5人家族の長男。 プロのギタリストを目指して東京にいた。音楽家に対する先入観からか、警察は当初友人達に薬物の使用はなかったか、 しきりに質問をしていた。そして遺族は死因を“病死の疑い”とした死体検案書を監察医務院に渡され、 40日後に申請すれば詳しい死因がわかると説明を受けた。 この時、遺体は死後3週間程度だったと思われ、腐敗が始まり痛んでいた。遺体の確認と引き取りに東京まで、 次男と来ていた父親は帰郷後、取り乱した母親にその姿を見せてはいけないと思い、そのまま荼毘にふした。 母親は、ショックから立ち直れず、うつ病になっていき、事故から10年後の2006年2月、 事故当時の写真はないかと赤坂警察署に連絡を取った。そして10年前は提出しなかった死体検案書交付申請書を提出、 死因が一酸化炭素中毒であったことを知る。それも致死量50-60%の血中一酸化炭素濃度が82.1%であった。 そこから両親は、真実を知りたいと警察に再捜査を依頼する。警察では当初、刑事課が対応していたが、 6月に凶悪犯罪を扱う捜査一課が介入し、そのまま残されていたパロマの瞬間湯沸器の不正改造を発見した。 電気が切れ、排気ファンが回っていなくても瞬間湯沸器が点火、お湯が供給された。事故発生当時、長男は金回りが悪くなり、 光熱費を滞納して電気を止められていた。警察は同じマンションで同一の不正改造を見つけ、捜査範囲を広げるため経済産業省に対し、 事故情報をまとめた資料の有無を7月3日に問い合わせ、6日にその時までにわかっていた状況を説明した。 こうして1985年以降、不正改造による事故が全国で17件発生し、15人が死亡していたことが認識された(その後、さらに件数と死者数はもっと多かったことがわかる)。 参考文献8は、特にこの1996年の事故を取り上げ、これにまつわる家族の心情等詳しく書いている。 それ以外の事件についても調査の結果を記してあるので参照されたい。 表1最後の事故は、唯一時効になっていなかったものである。 2005年11月、東京都港区のマンションで瞬間湯沸器を使っていた当時18歳の大学生と、 その時部屋を訪ねていた27歳兄が一酸化炭素中毒にかかり、弟は死亡、兄は重症を負った。 1996年事故と同じ不正改造がなされ、湯沸器のコンセントが抜けて電気が供給されていなかった。 【対処】 2006年7月14日、経済産業省は、“パロマ工業(株)製瞬間湯沸器による一酸化炭素中毒事故の再発防止について”記者発表をし、 パロマに点検と改修、相談窓口の設置と原因究明の報告を命じた。この発表には問題の7機種とそれまでわかっていた事故の記録が記されていた。 この後捜査一課も会見、経過の節に述べた1996年の事故に対する遺族の再捜査要請から事実が浮かび上がってきたことを説明。 一方のパロマも記者会見を開き、事故原因は一般人でもできる不正改造にあり、自社は販売店に改造をせぬよう指導したと釈明、 事故を知ったのは1991年の長野県での死亡事故だったとした。そして翌15日の朝刊に広告を掲載し、 『不正改造が原因、点検を約束』するも、不正改造をせぬよう呼びかける調子のものだった。 しかし、パロマが全ての死亡事故を知っていたことが7月17日に露呈、翌18日に記者会見を行って製造責任を認めた。 そして19日の朝刊でお詫びとお願いと題した広告を打ち、回収と無償交換を呼びかけている。 パロマは、1985年、1987年の2件の事故の後、1988年に不正改造をせぬよう、社員とパロマサービスショップに文書を配布していた。 8月24日には、パロマは自主的に“パロマ工業第三者委員会”を設置、原因調査と再発防止を目指す。 しかし、12月21日に発表された報告書は、パロマの社内風土を批判するも、製品に欠陥はなかったとしている。 経済産業省は、7月14日の第1報の後、18、21、25、28日と続けて調査の進展を記者発表し、8月1日の第6報では、 その前日に提出されたパロマからの報告書を不十分とし、8月7日を期限として30項目の質問を添えて再提出を要求した。 8月10日の第9報ではパロマへの立ち入り検査を公表している。そして、8月28日、ついにパロマに問題機種の回収、 消費者への注意喚起、点検および回収状況の報告を命じる緊急命令を発動した。 11月7日には当時のパロマ社長が参考人として臨時国会に承知されたが、病気を理由に副社長が代理を務めた。 この時もパロマは不正改造を主原因としている。 経済産業省が2007年11月9日に行った1年間の定期報告の終了を告げる記者発表では、19,900台の点検が終了し、 回収完了は19,878台、回収率は99.73%としている。これらの内、不正改造件数は230台だった。 その後、2008年6月に点検漏れが指摘され、経済産業省は6月25日にパロマに対して危害防止命令、 ガス事業者に再点検の指示を出した。 そして11月の記者発表で、この再点検により、新たに793台の該当機器と5台の不正改造が見つかった。 【原因】 まずは本記事で取り上げた瞬間湯沸器製品について、事故の直接原因となった構造について記述する。 これは、日本BP社のオンライン情報誌、Tech-ON! [参考文献 6.2, 6.3]に詳しい。 この文献の図と解説を基に、本事故の瞬間湯沸器の構造を模式的に示したのが図2である。 図2に示したように、基本構造はいたって簡単で、水は左から湯沸器に入り、熱交換器でバーナーにあぶられて温度が高くなり、 右側から湯となって供給される。この動作の安全のため、危険状態を検知するセンサが、 図2中に斜めの赤い長方形で示したように5個配置されている。 排気ファンは図3に示したように、そのオン・オフが制御されている。つまり、以下2つの条件のうち、どちら片方、もしくは両方がそろうと排気ファンが回転する。
図2 事故を起こした瞬間湯沸器の構造 図3 排気ファンのON/OFF制御 次にガス遮断弁を考えよう。参考文献6では、これをマグネット安全弁と呼んでいる。 この電磁弁が通電してバーナーにガスが供給されるには、以下3つの条件がそろわなければならない。
もう1つ、注目すべきは種火着火センサに熱電対を使用しており、高温になったときにそこに発生する起電力をこの回路の電源としていることである。 このため、電源コンセントが抜けていたり、停電だったりしても、この回路は動作をしてガス遮断弁を開くことができる。 図4 ガス遮断弁開閉の制御 ここまで本事件の瞬間湯沸器の、本事故に関わる構造を理解した上で、通常の操作と機器の挙動を述べると以下のようになる。
このハンダ割れが起こると、図3の排気ファンONの条件がそろっても、肝心の電源がファンに供給されないために排気ファンが回らない状態になってしまった。 図5 NITE展示の本件事故機のハンダ割れ この時、使用者側から見た不具合の現象を想像すると、瞬間湯沸器が冷たいうちは、通常に動作するが、 しばらくすると排気ファンが回っていないため、図4の排気高温限界センサが[高]側に動き、ガス遮断弁が閉じた状態になって、 瞬間湯沸器バーナーの火が消えてお湯が出なくなる。ただしこの時、使用者は排気ファンが回っていないことが原因であることに気付かない。 自然、サービスマンを呼んで修理を依頼することになる。 サービスマンが行った修理は、本来は原因を突き詰めてハンダ割れを発見しなければならない。 しかし、虫眼鏡でも用意して基板を観察しなければ、それは発見できないだろう。ましてやこの基板は図6写真右部、 コントロールボックス中にあり、おいそれとアクセスできるものではない。 そこで横行したのが、端子版の中央2つの端子を図7のように短絡させることであった。 参考文献6は、パロマ発表の資料に基づき、技術的な考察を加え、パロマも後日認めたという資料の間違いも指摘している。 それによると、問題の不正改造は、図7にある4本の電線が図左に示したようにつながっていたのを、 右のように短い電線で短絡したのである。この短絡を行うことは、この4本の電線をつないでしまうことになる。 図4に戻って、この短絡の影響を見ると図8のように、排気高温限界センサの状態に関わらず、種火着火、 バーナーが異常に高温ではない、の2つの条件がそろえば、ガス遮断弁が開状態になるように制御回路を変えたことになる。 排気高温限界センサが、排気ファンが回らないという不具合が発生した時に、ガス遮断弁を閉じるためのものだったので、 それがバイパスされたのだから、排気ファンが故障して回らなくなっても、種火がちゃんと着いており、 バーナーが異常に高温でなければ瞬間湯沸器を作動させることができるようになったわけだ。 図6 NITE展示の本件事故機の制御部 図7 バーナーが消えてしまう不具合の間違った対処 図8 不正改造によるガス遮断弁開閉制御論理の変更 すべての死亡事故の原因ではないが、表1最後の3つを防げなかった原因に、監察医務院と警察の連携の悪さがある。 本事件発覚のきっかけとなった1996年、警察が病死と考えた死亡事故で、監察医務院は死体の検案解剖の結果、 異常に高かった血中一酸化炭素濃度を突き止めていた。しかし、死体検案書交付申請書を提出しなかったことを理由に、 それが遺族に伝わっていなかった。もちろん警察には伝えたものの、担当刑事もそれを遺族に伝えなかった。 事件性に対する捜査はされたものの、やがて事故は、原因を病死としたまま処理されてしまった。 そして10年後、両親の依頼をきっかけに再捜査が始まり、4ヵ月後に捜査一課が乗り出して事件発覚となる。 事故が発生した当初、1996年に捜査一課が出動していれば、この事件は10年前に発覚、当時の世間を騒がせていたことだろう。 【考察】 本事件では死亡事故発生を認識しながら、原因が不正改造だから製造元の責任ではない、 不正改造をせぬよう社員と業者に通知したとして、消費者への告知、 さらに製品の回収もしくは不正改造をできなくする改良をしなかったパロマの姿勢が大いに批判された。 後日談でも述べる刑事訴訟もこのことを理由としている。本節では、設計の問題に立ち返ってこの事故を考察する。 設計の問題 原因のところでも指摘したが、この湯沸器に電源が供給されていなくても、種火がついていればバーナーは点火し、 お湯が供給される仕組みになっていた。これは、排気ファンのない開放式、あるいは半密閉式でもファンのない CF式であれば、すこぶる便利な湯沸器となる。 今でこそよほどの大災害でもない限り、長時間の停電はほとんどないが、1970年代は時々停電があり、 それも数時間にわたって続くことがあった。この様な時に、瞬間湯沸器からお湯が供給されたら人々は多いに助かったはずである。 それにしても、排気ファンが回らなければ有害ガスが室内に逆流する半密閉式について、 種火のところに設置された点火センサの熱電対の起電力を使い、電気が供給されていなく、排気ファンが回らない状態でも、 同じようにバーナー点火、給湯開始がなされる設計をしたのは設計の問題である。 不正改造がなされていなかったら、数分間お湯が出た後、排気高温センサが温度高を検知してガスが遮断されたとしても問題だろう。 先に開発されたであろう開放式の回路をそのまま流用したか、それともこの不正改造を知っていて、部屋の換気さえ良くすれば、 他の部品が故障しても湯沸器として使えることを意識してこの設計を採用したかどうかはわからない。 図9 軸流ファン、ブロワーファン、とモレックスコネクタ 問題の排気ファンであるが、写真で見ると、筆者がこれまでの図に描いた軸流ファンではなく、 ブロワーファンのようである。扇風機に似た軸流ファンであれば、回転していなくても、 熱せられた排気ガスが上昇することによってある程度の排気は期待できるが、軸方向に吸い込み、 円周方向に吐き出すブロワーファンでは回転していなければ排気効果はほとんどない(図9a.、 b.)。 次に、不正改造がなされた端子板。設計者でなくても、なぜこれをこの位置に据え付けたのかと考えるだろう。 図6中央下部に、赤と黒の電線ペアを接続している白いプラスチックの部品がモレックスコネクタである(図9c.)。 電気配線に良く使用され、端子数、流れる電流によって様々なタイプがある。 他の箇所で使用しているモレックスコネクタを使わないで、わざわざ端子板をここにおいて配線したのは以下2つの理由が考えられる。 どちらの動機があったかは不明である。
一部報道や、参考文献8には、本事件のお湯が出ないという不具合に対して、正しい修理手順はコントロールボックスの取替え。 それに必要な予備のコントロールボックスの生産が当時間に合わず、パロマ社員がこの問題の不正改造を指導した、 あるいは業者が間に合わせの一時修理として行い、予備のコントロールボックスを入手した時に元に戻すのを忘れたとしている。 ただし、安岡明夫氏はインターネットでパロマを擁護するブログ(参考文献10)を展開しており、それによると1982年にパロマは、 ハンダ割れの問題を把握しており、不正改造ではない正しい修理の方法を記述した修理手順書を講習などで配布していたとのことである。 どちらの主張が正しいか、確信を得るだけの資料は見つけられなかった。 不正改造をパロマが業者に教えていたなら、これは問題である。企業としての安全意識が根本的に間違っている。 これに対し、正しい修理法をサービス業者に教えていたにも拘わらず、業者が勝手に不正改造をしたのであれば、 これは業者の資質が完全に欠如している。ただし、修理法を全社員と全サービス業者に通知したのではなく、 サービス講習を受けたものだけに伝えていたのでは、パロマ側の失敗だろう。 不正改造が何をきっかけで広まったかは不明だが、それを原因とする死亡事故は、表1より北海道が一番多いものの、 奈良、大阪と、少なくとも関西圏にまで広まっていたことがわかる。最初にそれを行ったサービスマンが、偶然発見したものか、 回路図を見て考え付いたのか、それともそう指導されたのか、回収された問題機種では、200件を越えて不正改造がなされていた。 最初のサービスマンは、このバイパス改造は一時的なもので、次回サービスに来るまでは換気に注意すること、 とお客様に伝えたかもしれない。しかし、この方法が“うまいやり方”として、サービスマン仲間の中で広まった可能性が高い。 口伝で情報を伝えると、“ただし、、、”という情報は消えやすいのは、伝言ゲームで誰もが知っていることである。 このような仮の、しかも人命を脅かす危険を伴う修理方法が、サービスマンの間で蔓延したのは恐ろしいことである。 意識の問題 事件が発覚した当時のパロマ経営トップは、不正改造が原因だから製造責任はない、 不正改造をやらないよう警告する通知を出したからそれで十分と判断していた。 この通知を出したのが、2件の事故発生後の1988年だったが、その後も1990年、1991年、1992年と同じ原因による事故は続いていた。 これの事実を踏まえた上で、1988年に自分達が出した通知が事故防止に効果がないことを認識しなかったのは大きな失敗だった。 2006年に問題が露呈、パロマの信用は失墜し、民事訴訟、そして刑事訴訟に追い込まれた。 統計データ解析者不在の問題 20年前から、不正改造による一酸化炭素中毒事故で死傷者が出ているのを知りながら、無為に過ごしていたパロマ経営は問題である。 しかし、通商産業省、その業務を引き継いだ今の経済産業省にも、件数こそ後に集計された28件に対して17件と少なかったものの、 同じ事故報告はなされていた。2006年7月に警察から通知報告を受けた同省が調査をしてこの事件は発覚した。 経済産業省には、他にもおびただしい数の事故や不具合の報告が入ることだろう。 しかし、漫然と報告書を受けてはファイリングをしていただけでは、大きな問題を見逃すことがある。 これは、何も本事件のように世間を揺るがす大きな不具合に限らず、例えば小さな事業でも、不具合報告を受けたら、 それをファイリングするだけでは不足であることを私達に教える。そのデータを統計処理し、死傷者、 労災の観点から大きな問題はないか、あるいは何か共通する原因で大きな損失を出していないか、 常に目を光らせる人が誰かいないといけない。 【対策】 経済産業省は、パロマに対して、問題機種の回収、消費者への注意喚起、点検および回収状況の報告を命じる緊急命令を発動した2006年8月28日、 “製品安全対策に係る総点検結果のとりまとめについて”という報道発表も行った。 それまでにわかっていた事故状況、原因、と31項目からなるその後の対策を公開した。 対策の中にはメーカーからの事故報告義務の必要性の他、省内やガス業者の体制、警察と消防に加えてNITE、高圧ガス保安協会、 国民生活センターなどとの連携についてまで言及している。その中で、ファン停止を検知してからガスが遮断されるまでの時間を、 当時の基準の5分間から短くする、ホームページで情報を開示するなど、具体的記述もある反面、“周知する”、“体制の強化充実”、 “指導の充実”など、あいまいな記述も多い。 2006年12月、消費生活用製品安全法の改正が公布され、事故情報の収集と公表、再発防止の原因調査と回収について定めた。 さらにガスに関連する法律も改正され、排気ファンの点検、安全装置の不正改造の禁止、調査、記録、報告を製造業者、 輸入業者に義務付けている。 【知識化】
2007年12月11日、東京地検は、事故当時のパロマ社長と品質管理部長を業務上過失致死傷罪で在宅起訴した。 これは経過の節最後に記述した唯一時効になっていなかった事故に関してのみである。実際に改造をした作業員は、 この時死亡していたため、被疑者死亡で不起訴となった。 この刑事訴訟以外に遺族や傷害を受けた被害者による民事訴訟もまず多く起こされ、それぞれ和解に達していたり、 未だ係争中であったりする。 参考文献
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