特定非営利活動法人失敗学会 |
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『Risk Manager』2018年8月号掲載コラムしかし、これはその時に行われた実証実験の結果であって、誰にでも当てはまるものでもなければ、場面によって結果も変わります。事実、その後も発表者自身も含めた研究が続けられ、工場の現場では状況に応じた効果の違いが報告されています。もちろん、古い研究成果であっても、何も根拠がなく、山勘に頼るよりはよほどましです。 アメリカでは古くから損傷モード解析が行われており、わたしもモンテカルロ法を走らせて、原子炉の炉心溶融確率を計算していました。ネジに始まり、モーター、ギア、バルブなど、ありとあらゆる機械要素の損傷確率が元データです。1台の原子炉を1年間運転させた時、その炉心が溶融する確率が10の(-5)乗とか、新型では(-7)乗とかを目指していたように思います。 しかし、この方法の元となる機械要素の損傷確率は出版物、すなわち紙に印刷されたデータであり、この解析は静的でした。 2011年の福島原発事故の後、これら解析結果が見直されることとなり、事故前よりも、事故後の原発の炉心溶融確率は大きく(一桁とも二桁とも言われています)増えたと認識されています。 私たちが生きる今は、ネットワーク技術の発展により、たとえば会社であれば、売り上げ、経費、生産、販売、不具合など、あらゆる情報をリアルタイムでデータベースに溜め込むことができます。その情報も有効活用しなければ、宝の持ち腐れです。 データの中には、設計ミス、生産時の不具合、クレーム、不良品発生など、リスクの計算には欠かせないものがあるはずです。もちろん、リスクの計算にはうまくいった統計データ、つまり生産数、販売数、顧客のリピート率、アンケート調査の結果なども必要です。うまく行かなかったことを数えるだけではなく、うまく行ったことも計算に入れて、うまく行かない確率が初めて計算されるからです。 これまでは、きちんとこれら結果をデータとして溜め、統計解析を行って経営や、生産計画に反映させていた会社もあるでしょう。たとえば、1年に1回の解析かもしれません。しかし、これからは、実データを元に、今ある組織のリスク成績が解析されることになります。リスクアセスメントをダイナミックデータで行って、現状を元に、今からの計画を立てるのです。 ダイナミックリスクマネジメント、もしくは動的リスク管理と呼ばれています。ここ数年で、ネット、データベース、クラウド技術の進展とともに発展しているようです。 不具合データを集めていただけのところが、統計処理を行うようになって、定期的なリスクマネジメントができるようになりました。今度はその統計処理の方法を定式化することによって、ダイナミックリスクマネジメントが可能になるのです。
【飯野謙次】
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