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『Risk Manager』2018年9月号掲載コラム

他山の石

 「他山の石」ということわざがあります。他人の過ちに学んで自分の言動を正すという意味です。しかし、私たちにとってはこれが非常にむずかしく、他山の石は結局他山の石となってしまいがちです。
 リスクマネジメント的解釈をすれば、他所で見逃されていたリスクが、事故、災害、あるいは不祥事で明らかになったとします。報道を通してそれを知った者は、自分たちも気がつかなかったリスクに気づき、改めてリスクアナリシスをし、問題の予防、発出に備えるということでしょう。
 今年、6月に発生した大阪北部地震では、基準を大きく越えて3.5メートルもの高さがあった小学校のブロック塀の継ぎ足し部分が、ちょうど継ぎ目で折れて道路に落ち、通りかかっていた女児が下敷きとなって落命しました。なんとも悲惨な事故です。
 この事故が発生した高槻市では、事故から2週間後に、市内の全公共施設にある1.2メートルを越えるブロック塀の撤去を発表しました。法律で定められたブロック塀の最大高さ、2.2メートルよりさらに低い1.2メートルを基準としたのです。
 同じような悲惨な事故を繰り返さないようにという決心の強さは窺えますが、考えてみると、1995年の阪神淡路大震災では約1,500件のブロック塀の崩落事故がありました。内閣府発表の阪神淡路大震災での各地の震度は、京都5、大阪4でした。大阪市と京都市のちょうど中間辺りに位置する高槻市では、少なくとも震度4であったことがわかります。
 阪神淡路大震災のときに高槻市でブロック塀の崩落事故があったかどうかまでは、ネットだけではわかりませんが、結局、他所で事故が発生しても、それが自分にとっての脅威、リスクであることが実感できなかったのでしょう。
 2007年の船場吉兆事件は、その記者会見の様子がニュースで繰り返し取り上げられ、なかなか忘れることができません。そこから得られた教訓は、「食品関係で消費者を欺くようなことをすれば、大変な目に遭う」ということでした。しかし、それから6年しか経っていないのに、2013年には、数々の一流レストランで食材の偽装が明らかにされました。船場吉兆事件を忘れていたはずはありません。
 従業員50人以上の事業場では、2ヶ月に1回、産業医による巡視が定められています。ブロック塀崩落事故のあった小学校でも、定期検査が義務付けられていました。実際検査も行われていたのですが、建築基準法違反のブロック塀は見逃されていたのです。検査は有資格業者による点検とされていました。つまり、規則にしたがってリスクの洗い出しを形の上では行っていたものの、リスクに気づくべきリスクマネジャーが機能していなかったのです。
 私たちもこれを大きな意味で捉えて「他山の石」とし、リスクアナリシスは形式的なおざなりなものではなく、真剣に、人の命、健康、事業の興廃、利益に直接かかわるものとして考えなければいけないという、教訓を学ぶきっかけになったと思います。
【飯野謙次】


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