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ヤマトプロテック社、マイクロフォグの威力
【飯野謙次】

 失敗学会で新しい分科会、『首里城火災分科会(仮称)』の設立を目指されている新会員、インドネシア Textile Museum シニア研究員の坂本 勇さんが、東京に出てこられた。これはチャンスと、以前、大阪工場の見学でお世話になったヤマトプロテック社に、マイクロフォグを見せていただけないだろうかとお願いをしたら、ご快諾をいただいた。
 マイクロフォグは、以下の実験報告で詳述するが、通常のスプリンクラーが放出する水滴の、直径で 1/5 から 1/20、体積比にして 1/100 から 1/10,000 程度の非常に細かい水の微粒子を噴射し、水が燃焼物表面を濡らして消火するのと同時に、炎を水の微粒子で包んで、供給される酸素濃度を下げて消火する効果がある。水が微粒子であることと、消火にかかる水量が少ないため、スプリンクラーからの水を浴びる展示物や、文化財の損傷が少なくて済む。
 昨年の首里城火災で焼失した収蔵品は、400点近かった。このような過ちを繰り返さないためにも、必要な技術だと思われる。

実験1 低圧マイクロミストによる櫓火災消火
00:00:00 1インチ四方、長さ1メートルの角材を、4、5本平行に並べた上に、同じ平行角材段を90度回転して重ね、これを繰り返して12段重ねた簡易櫓の直下に水槽を置く。水槽に水を張った中に n-ヘプタンを注ぐ。n-ヘプタンは、引火性の高い液体でガソリンのようなものと思えばよい(Fig.1)。
00:00:06 この水槽に炎を近づけると、n-ヘプタンが一気に燃え上り、その上に置かれた木製櫓を炎に包んだ(Fig.2)。
00:01:46 n-ヘプタンが燃え尽きるが、その時には櫓に火が移っている(Fig.3)。櫓の火は、徐々に成長し、木材が良く燃えていることがわかる。
00:02:14 櫓の火が大きく成長したところで、マイクロフォグスプリンクラーが作動、一気に炎を水の微粒子で包んだ(Fig.4)。
00:02:30 火が消えた(Fig.4)。





Fig. 1


Fig. 2


Fig. 3


Fig. 4


Fig. 5

 ビデオを視てわかるように、大きく成長した炎が小さくなるのは瞬時である。このマイクロフォグの消火作用は、水滴の気化熱が燃焼の熱を奪うことに加えて、微細な水滴が炎の周りを包み込み、酸素濃度を下げて燃焼を窒息させることである。
 下にメーカー説明による、各種スプリンクラーから噴出する水滴の直径を比較している。


Fig. 6 消火用スプリンクラーの水滴径比較

 なおビデオ終了後、 さらにマイクロフォグ噴射を1分間継続したが、終了後、櫓を見ると炭化した木材がいこり続けていた。つまり、炎の鎮火には有効だが、木材の芯まで濡らすことはない。

実験2 高圧マイクロミストによるn-ヘプタン火災消火
00:00:00 上記1で使用した水槽だけを置き、水を張った中に n-ヘプタンを注ぐ。
00:00:11 n-ヘプタンに点火すると一気に燃え上った。その後、炎は成長した。
00:01:12 高圧マイクロミスト噴出開始。
00:01:16 炎は一気に小さくなり、角に小さな炎が残った。
00:01:22 角に残っていた小さな炎も含め、火は完全に消えた。
00:01:25 高圧マイクロミスト停止。




 n-ヘプタンは燃焼力が強く、通常の水スプリンクラーでは消えない。

 2つの実験を終えたのち、スプリンクラー下に容器を置いて30秒間水を溜め、その容積を測ったら230mLであった。同じ測定をマイクロフォグで行うと、たまった水の容積は150mLであった。


Fig. 7 通常のスプリンクラーと、低圧マイクロフォグの水噴出量の比較

 マイクロフォグは、炎を包み込んで酸素供給を遮断するため、通常のスプリンクラーと比較して、短時間で炎を消す。単位時間の水噴出量も少ないため、スプリンクラー噴出エリアに存在するものにかける水量も少ないが、炭がいこる状態になったら、芯まで到達しないため注意が必要である。ただしこれは、木製の展示物や文化財を置いた部屋で火災が発生した際に、水分が芯まで届かない程度の濡れで収まるため、保護の目的ではより有利である。

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